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ヒガンバナ

ヒガンバナヒガンバナ


ヒガンバナ科リコリス属(ヒガンバナ属)
学名正名:Lycoris radiata (L'Hérit.) Herb.
異名:Amaryllis radiata L'Hérit.Nerine japonica Miq.
英名red spider lily, spider lily
和名ヒガンバナ(彼岸花)
別名マンジュシャゲ(曼珠沙華)、テンガイバナ(天蓋花)、シビトバナ(死人花)、他、地方名多数
花言葉悲しい思い出
メモ

 リコリス属の解説は、こちらをご覧下さい。
 和名は、秋の彼岸頃に咲くことから付いたそうです。別名のマンジュシャゲは、梵語で「紅色の花」を意味するそうです。上記別名以外に、漢名の「セキサン(石蒜)」とも呼ばれているようですが、「蒜」はノビルのことを指し、鱗茎の形が似ていることに由来するそうです。英名は、花の色と形から付いたものと思われます。なお、spider lily という英名は、ヒメノカリス属の植物にも付けられています。
 日本と中国が原産地ですが、中国産のものが日本に入ってきたと言われているようです。しかし、その来歴については、1)救荒植物として人間によって持ち込まれた、2)日本と大陸が陸続きしていた時、既に分布していた、3)海流によって日本に流れ着いた等、諸説ありますが、はっきりしていないそうです。また、中国のヒガンバナは二倍体ですが、日本のヒガンバナは三倍体です。このため、日本産のヒガンバナの方が中国産の物より大きいそうで、中国産の物は、変種(var. pumila hort.;シナヒガンバナ)として扱われているそうです。三倍体の物は、自然の突然変異で生じた四倍体と二倍体が交配して出来たと考えられているようです。

 生態に関して、大阪で行われたリコリス属の生育を調べた一連の研究によると、以下のようなことが分かったそうです。

1)自然環境下での花芽の発育(1970年鱗茎植え付け、1971年調査)
 秋季出葉型
ヒガンバナ、オーレア、アルビフロラ
春季出葉型
ナツズイセン、キツネノカミソリ、インカルナタ
総包形成4月下旬(キツネノカミソリが、他の種より1〜2週間早い)
小花形成いずれの種も総苞形成の1週間後
雌ずい形成6月上旬〜6月中旬5月下旬〜6月上旬
四分子形成8月中旬6月下旬〜7月上旬
開花9月中旬8月中〜下旬

2)7月上旬に鱗茎を掘り上げ、9月以降一ヶ月おきに屋外から20℃以上に保った温室内に搬入した場合
 ヒガンバナナツズイセン
花芽分化

 12月以前に温室に搬入した物は花芽を分化しなかったが、1月以降に搬入した物は花芽を分化した。

 2月以前に温室に搬入した物は花芽を分化しなかったが、3月に搬入した物は花芽を分化した。

鱗茎の大きさ

 遅く搬入した物ほど(=低温遭遇時間が長いほど)、鱗茎の直径が大きかった。

ヒガンバナと同様の傾向が認められた。

出葉

 11月以前に温室に搬入した物は搬入後連続的に出葉したが、12月以降に搬入した物は、搬入前の10月に出葉した後出葉が停止し、再び出葉したのは5月以降だった。

11月以前に温室に搬入した物は1月以降連続的に出葉したが、12月以降に搬入した物は一度出葉した後、出葉が一時(4ヶ月以上)停止した。


3)7月上旬に鱗茎を掘り上げ、9月以降、ある温度条件下で栽培した場合
 ヒガンバナナツズイセン
15/12℃花芽分化する
花芽分化する
20/17℃花芽分化する
花芽分化しない
25/25℃花芽分化しない
花芽分化しない

 2)、3)の結果から、リコリスが花芽分化するためには低温に遭遇する必要があり、自然条件下で春に花芽分化するのは、このことが原因であると推察されています。また、花芽分化に必要な低温遭遇量は種によって異なり、ヒガンバナよりナツズイセンの方がより長くより低い温度を必要とすると結論されています。しかし、3)では、9月以降、最低でも15/12℃で育てた場合も花芽が形成されているので、具体的にどのくらい低い温度が必要とされるのか、検討の余地があると個人的には思います。また、花芽の分化と各発育段階に及ぼす温度の影響について調査したところ、以下のようなことが分かったそうです。

 ヒガンバナナツズイセン
花芽分化(4月に温度処理開始)

10〜30℃で花芽分化する。高温ほど分化後の発育が早い。

ヒガンバナと同様の傾向が認められた。

雌ずい形成後〜
 花粉形成期まで

20℃、25℃で早く、30℃でそれよりやや遅い。15℃以下の低温では10週間経っても花粉形成期に達しない。

25℃で最も早く、20℃でそれよりやや遅く、15℃と30℃では更に遅くなる。10℃と5℃では10週間経っても花粉形成期に達しない。

花粉形成期〜
 開花まで

20〜30℃で開花するが、30℃で遅くなる。5〜15℃では開花しない。

10〜30℃で開花するが、20℃と25℃で早く、10℃で遅くなる。


 この他にも、ヒガンバナでは、花粉形成期後に15℃の低温に遭遇すると花芽が枯死するが、それ以前なら枯死しない、と言うことが分かったそうです。また、ヒガンバナを雌ずい形成後に数週間30℃で栽培してから20℃で栽培すると開花が早くなることが確認されたそうです。このことについて、30℃の高温は雌ずい形成期以降の花芽発育を抑制するのに、一時的に与えた高温は花芽発育を促進させる原因については、参考文献では「抑制適温(inhibited optimum)」のためと説明していますが、これは、後作用として効果の現れる適温のことだそうで、この場合は、高温が間接的に成長を促進させたそうです。

 以下、ヒガンバナのみの説明です。
 耐寒性のある多年草です。日本では、秋田・岩手県以南の人里に分布しています。日本では栽培されていることは少ないようですが、海外ではリコリス属の切り花としての需要があることから、鱗茎を輸出しているそうです。栽培方法については、リコリス属のページを参考にして下さい。花が咲くのは気温が18〜20℃くらいの時なので、秋のタネ播きシーズンの目安になると言われているようです。
 前述の通り、中国産の変種は二倍体であるため稔性があり種子を形成しますが、日本産は三倍体であるため、ほとんど種子を形成せず、出来ても発芽できないので、繁殖はもっぱら鱗茎の増殖によります。

 鱗茎には、リコリン(lycorine)やリコレミン(=ガランタミン)などの毒性があるアルカロイドが含まれています。飲用した場合、嘔吐を引き起こし、場合によっては死に至ることもあるそうです。しかし、飢饉時や戦中・戦後の食糧難の時代には、水洗いして毒を抜いてデンプンを食料にしたそうです。能登には、葛餅と同じようにデンプンを煮詰めて作る「ヘソビ餅」と呼ばれる食べ物があるそうです。また、このデンプンは、糊としても使用できたそうです。
 その他、去痰・鎮咳の作用もあるそうですが、具体的な使用方法は分かりませんでした。また、浮腫(むくみ)を治すのに、鱗茎をすりつぶした物を足の裏に張り付けるという利用法もあるそうですが、文献によっては皮膚炎を起こす作用もあると説明している物もあるので、注意が必要だと思います。

追記(2003.12.13.)
 リコリス属の解説を追加したのに伴い、内容の一部をそちらに移しました。

追記2(2008.1.14.)
 写真の追加と差し替えをしました。


本棚以外の参考文献
  • 竹村英一.ヒガンバナ.世界の植物.2290−2293.朝日新聞社.1977年.

  • 森源治郎ら.ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)の球根植物の生育開花習性に関する研究.第1報.Lycoris属の生育開花習性.園芸学会雑誌.第45巻第4号:389〜396ページ.1977年.

  • Mori, G. et al. Effects of temperature on flower initiation and leaf emergence in Lycoris radiata and L. squamigera. Bulletin of the University of Osaka Prefecture. Series B. 40: 11-17. 1988.

  • 森源治郎ら.Lycoris属の開花に及ぼす温度の影響.園芸学会雑誌.第59巻第2号:377−382.1990年.

  • 梅本敬太郎編集(刈米達夫解説).薬用植物画譜.武田薬品工業株式会社.1971年.(非売品)

  • 植松黎.毒草を食べてみた.文春新書(099).文藝春秋.2000年.

コメント

 職場で自生しているもので、自分で育てたものではありませんが、説明をしておきたかった植物なので(^^ゞ。理系のことよりも、もっと文化史的なことも書いた方が良かったかな、と思いつつ、まとめ切れませんでした。何か付け加えたい事柄が見つかったら、随時追加していきたいと思います。(2002.10.28.)

もう一言(2008.1.14.)
 2〜3年くらい前に撮影した写真ですが、今更ながら追加と差し替えました。左の写真は、一つの花の構造(花被片6枚、雄しべ6本、雌しべ1本。子房下位というのは難しいでしょうか)が分かるかと思います。右の写真の背景は、キウイフルーツです。所々に果実がなっています。

 
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