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サルピグロッシス・シヌアータ

サルピグロッシス・シヌアータ
系統名:ロイヤル系


ナス科サルピグロッシス属(サルメンバナ属)
学名正名:Salpiglossis sinuata Ruiz et Pav.
異名:S. grandiflora hort.S. variabilis hort. Vilm.、他
英名Painted Tongue, Velvet Flower
和名サルメンバナ(猿面花?)
別名アサガオタバコ(朝顔煙草)
花言葉 
メモ

 サルピグロッシス属の説明は、こちらをご覧下さい。
 原産はチリ、ペルーで、日本に渡来したのは1879年(明治12年)だそうです。

 カラフルでペチュニアに似た花を咲かせる一年草です。茎もペチュニアと同じように、ベトベトしています。播種は春に行います。発芽の適温は18〜20℃(あるいは25℃)、発芽までに8〜12日くらいかかると言われています。日当たりと排水が良く、多肥な土地を好むそうです。水遣りに関しては、やや乾燥気味が良いとか乾燥を嫌うとか、資料によってまちまちです。ナス科なので連作に弱いそうです。草丈が高くなるので、支柱を立てると良いようです。定期的に花殻を摘むと、花の大きさを維持することが出来ると言われています。花芽分化に関しては長日性であり、細かい条件は不明ですが、長日条件では発芽後65日程度で開花することが出来るそうです。また、8時間くらいの短日では、ロゼット化するそうです。受粉は虫媒によるそうです。花壇のボーダーの他、切り花としての需要もあるそうです。

 スミレ属の花で見られるような、閉鎖花(花冠が開かないで、蕾のまま自家受粉する花)が生じますが、観賞価値がないことから、発生は望ましくないと言われています。サルピグロッシスの閉鎖花に関する研究論文を最初に発表したのは de M. D. Vilmorin という人で、1894年のことだそうです(論文が掲載された雑誌はフランスの物のようです)。開放花と異なり、閉鎖花は蕾から次の発達段階に進まないそうです。花冠の長さに関しては、閉鎖花は開放花の1/6くらいにならないそうですが、細胞のレベルではやや小さい程度だったそうです。雄蕊や雌ずいの大きさも、閉鎖花の方が小さいですが、こちらは細胞のレベルでも小さいそうです。
 閉鎖花は単因子優性遺伝することが確かめられています。その遺伝子は、閉鎖花を意味する英語の「cleistogamous flower」の頭文字を採って、「C」 と表されています。CC(優性ホモ)、Cc(ヘテロ)、cc(劣性ホモ)によって、閉鎖花の発生率が異なります。CC では、開花期間を通して閉鎖花の発生率が高く(ただし、後半ほどより高い)、Cc では、開花期間の始めのうちは低いものの、半ばから高くなり、開花期間の終わりにはほぼ100%に近い花が閉鎖花になり、cc では、開花期間を通して閉鎖花が発生しなかったそうです。このようなことから、閉鎖花を発生させる遺伝子 C は部分的優性であることと、 C を持った植物体では老化に伴って閉鎖花の発生率が高くなることが推察されています。また、環境が閉鎖花発生に及ぼす影響としては、25℃の高温と長日を組み合わせた場合に、閉鎖花の発生率が高くなるそうです。なお、同じ植物体上の花であっても、開放花(花冠を開く普通の花)の花粉を閉鎖花に受粉させても結実しないそうです。

 染色体数は、2n=2x=44 で二倍体ですが、種子をコルヒチン処理をして染色体数を倍加させた四倍体(2n=4x=88)が実験的に作られています。参考文献に載っていた写真を見る限り、四倍体の方が花筒の口が狭く、花冠のしわがより深くなっているように見えました。また、写真は白黒でしたが、解説によると、四倍体の方が色が力強かったそうです。もっとも、1輪しか載っていなかったので、他の四倍体の花も同じだったかどうかは、分かりませんが。四倍体のその他の特徴として、刮ハ当たりの種子数が100〜200と、二倍体の半分ほどだったそうです。四倍体が市場に出回っているかどうかは分かりません。更に、二倍体と四倍体を掛け合わせて、三倍体の作出が試みられたこともあるようですが、種子の形成は二倍体同志の組合せと遜色がなかったものの、発芽率は8%程度と著しく低かったそうです。育成された三倍体は成長が旺盛で、花の特徴は四倍体の物と似ていたそうです。なお、三倍体の花粉には異常があり、自家受粉させた場合は、稔性はほとんどなかったそうです。

 花冠はビロードのように光っていますが、これが英名(Velvet Flower)の由来になったと思われます。花色は、赤、黄、青と豊富で、黄色の縞模様が入ることもあります。
 色素として、アントシアニンが含まれていて、マホガニー色の品種からはデルフィニジンとペチュニジンが同定されたそうです。また、暗黒条件下では、マルビジンが合成されたそうです。色素の合成には光が必要で、強い光ほど色素の量が増加しますが、暗黒条件下では色素はあまり蓄積しないそうです。照射する光の光質(赤色光、遠赤色光、青色光)は、色素の合成に影響を及ぼさないそうです。
 アントシアニンの合成にはいくつかの遺伝子が関わっていますが、それらの対立関係については、十分に解明されていないそうです。現在、以下のようなことが推測されています。

  • 青、赤、青銅色、ラベンダー色の中で、青は他の色に対して劣性、赤は優性。

  • 黄色の遺伝子は、上位性の劣性遺伝子で、劣性ホモ(yy)の時にアントシアニンの形成を阻害し、黄色が発現する。優性ホモかヘテロの場合はアントシアニンが表現される。

  • 縞模様に関連する遺伝子 St は、劣性ホモ(stst)の時に縞模様が発現する。

 また、開花時には赤色だったのが老化に伴って青くなることがあったそうで、これについては、花冠のpHが変化したためではないかと推察されています。


本棚以外の参考文献
  • Lee, C-W., et al. Cleistogamy in Salpiglossis sinuata. American Journal of Botany. 66: 626-632. 1979.

  • Lee, C-W., et al. Inheritance of cleistogamy in Salpiglossis sinuata. Journal of Heredity. 67: 267-270. 1976.

  • Erickson, H. T., et al. P1 - P8, diplpid and tetraploid Salpiglossis germplasm. HortScience. 17: 260. 1982.

  • Erickson, H. T., et al. Fecundity of tetraploid × diploid crosses and fertility of the resultant triploid in Salpiglossis sinuata. HortScience. 27: 835-837. 1992.(アブストラクトのみ参考)

  • Miller, J. H., et al. Anthocyanin synthesis in Salpiglossis sinuata. American Journal of Botany. 54: 1163-1170. 1967.(アブストラクトのみ参考)

  • Conner, P., et al. Inheritance of corolla striping and flower color in Salpiglossis sinuata. HortScience. 26: 1549-1550. 1991.

コメント

 播種は4月下旬、発芽は約10日後、最初の開花は9月上旬です。
 今年は密植してしまったせいで、他の植物と同じように、サルピグロッシスの生育も悪く、1株・2花しか咲きませんでした。もしかしたら、生育が悪いせいではなく、閉鎖花が発生していたのかもしれません。(2002.12.22.)

 
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