花色と色素
植物の説明で足りない内容を補足する予定です。このページは、随時、加筆・修正する予定です。ご了承下さい。
もし、内容に誤りがございましたら、お知らせ下さい。
最新の更新:2006年 2月19日主な色素の分類です。全ての色素・説明等を網羅しているものではありません。足りないものについては追加していきます。
- カロテノイド系…黄〜橙、橙赤
- カロテン
- αカロテン
- βカロテン
- γカロテン
- リコピン
- キサントフィル
- ルテイン(アフリカン・マリーゴールド)
- ビオラキサンチン
- フラボノイド系…白、黄、橙赤、赤紫、青など
- ベタレイン(betalain)…ナデシコ科を除くナデシコ目(中心子目)植物に特徴的に含まれる色素で、分子内に窒素が存在する。
- ベタシアニン(betacyanin)…ベタニジン(betanidin)に糖が結合したもの、赤
- ベタニン(betanin)(リビングストン・デージー)
- ゴンフレニン(gomphrenin)(センニチコウ)
- ベタキサンチン(betaxanthin)…黄
- クロロフィル…緑
アントシアニンの青色発現
- pH説
ドイツの有機化学者であるリチャード・ウィルステッター(Richard Willstätter;独語の発音でリヒャルト・ヴィルシュテッター。1915年にクロロフィルに関する研究でノーベル化学賞を受賞)が1913年に唱えた説です。アントシアニン類は、酸性で赤色、中性で紫色、アルカリ性で青色を示すことから、花色の違いは細胞のpHの違いによるという考えです。
- 現在、ソライロアサガオ‘ヘブンリーブルー’で立証されています。
- 金属錯体説
日本の植物性生理学者である柴田桂太らが1919年(1916年?)に唱えた説です。花びらの青色は、アントシアニンと金属元素が錯体(原子価ではなく、配位結合して出来た化合物)を形成することによって発現するという説です。花弁の細胞のpHは、弱酸性から中性であることから、pH説に反論しました。
- コピグメント説(copigment;助色素あるいは補助色素)
分子間コピグメント:1932年にイギリスの生化学者のロビンソンが唱えた説で、花弁の細胞の中には、無色の助色素(コピグメント)が存在し、アントシアン類と複合体を作ると、その複合体は青色を示すと言うもので、助色素としてフラボン類の一種やタンニン類が挙げられています。
分子内コピグメント:1972年に日本の斎藤らのグループが最初に発表したもので、キキョウのプラチコニンで発見されました。これによって発色する色素類は、分子内に多数の有機酸を含んでいます。
例:ヘブンリーブルーアントシアニン(ソライロアサガオ)青い花で、助色素が関係していると見られているものは、ライラック、サクラソウ、スイートピー、アイリス、アジサイ、他、非常に種類が多いそうです。
- 分子会合説
アントシアニン同士、あるいは、アントシアニンと他の分子が重なり合って結合することで青色が安定するという説で、1970年代以降に唱えられたそうです。
花弁の斑入り
- トランスポゾン(transposon)
トランスポゾンとは、ある染色体から他の染色体に移動することが出来る遺伝子(DNA断片)のことです。トウモロコシの実の斑入りを研究していたバーバラ・マックリントック(Barbara MaClintock)によって1951年に「動く遺伝子(transposable genetic element)」の概念が初めて提唱されました。しかし、斬新な概念であったためか、発表当時は、研究者の間でも受け入れられなかったそうです。その後、分子生物学の研究が進んでトランスポゾンの実在が確認されると、その先見性から、マックリントックは1983年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。マックリントックは1902年6月生まれらしく、授賞時は81歳という計算になりますが、その頃も研究に励んでいたそうです。
トランスポゾンによる花弁の斑入りは、色素を作るのに関わっている酵素をコードしている遺伝子にトランスポゾンが挿入することによって生じます。つまり、トランスポゾンが挿入された遺伝子は機能しなくなり、それによって色素を生合成する事が出来なくなり、花色は正常とは異なるものになります。しかし、トランスポゾンが抜けると、その遺伝子は正常な機能を回復し、再び色素を合成できるようになります。正常な機能が回復した遺伝子を含む細胞が多ければ大きい斑が生じ、そのような細胞が少なければ、斑の大きさも小さくなります。トランスポゾンの転移を制御する仕組みについては、まだ不明だそうです。
参考文献
このページを作成する際に参考にした本や論文です。植物ごとにまとめました。一般では入手しにくいものもあります(^^;;;
必要な部分をちょっと読んだ程度で、全て読んで理解したわけではないので、文献の内容に関するご質問は、ご遠慮下さい(^^;
- 色素全般
- 飯田 滋 編集.植物色素の生化学と遺伝学.蛋白質核酸酵素(PNE).第47巻第3号:197−230ページ.2002年
- 武田幸作.アジサイはなぜ七色に変わるのか?.PHP研究所.1996年
- 樋口春三.花のはなしI(15、17章).技報堂出版.1990年
- 安田 齊.改訂版 花の色の謎.東海大学出版会.1986年
- アサガオ、ソライロアサガオ(ヘブンリーブルーアントシアニン、pH説、トランスポゾン)
Inagaki, Y., et al. Isolation of a Suppressor-Mutator / Enhancer-like transposable element, Tpn1, from Japanese morning glory bearing variegated flowers. The Plant Cell. 6: 375-383.
西尾 剛ら.花の品種改良入門.初歩からバイテクまで.誠文堂新光社.2001年.
Fukuda-Tanaka, S., et al. Colour-enhancing protein in blue petals. Nature 407: 581. 2000.
星野 敦ら.転写調節遺伝子と液胞内pHによる花色の制御.p.1745−1752.岡田清孝ら編著.植物の形づくり.遺伝子から見た分子メカニズム.蛋白質核酸酵素.第47巻第12号(9月号増刊).2002年.
Yoshida, K. et al. Cause of blue petal colour. Nature 373: 291. 1995.
吉田久美.花色における分子会合機構の解明に関する研究.日本農芸化学会誌.第70巻第1号:9−14.1996年.
- アネモネ・コロナリア(アネモネレッドアントシアニン)
Toki, K. et al. Anthocyanins from the scarlet flowers of Anemone coronaria. Phytochemistry. 56: 711-715. 2001.
- オダマキ(交雑種)(アントシアニン生合成経路)
Bessho, M. Two genes controlling the conversion from flavanonol to anthocyanidin in sepals of genus Aquilegia Journal of the Japanese Society for Horticultural Science. 57: 462-466. 1988.
- キキョウ(プラチコニン)
前川 進ら.キキョウの花色に及ぼすMoの影響.園芸学会雑誌.第52巻:174−179ページ.1983年.
Goto, T. et al. Structure of platyconin, a diacylated anthocyanin isolated from the Chinese bell-flower Platycodon grandiflorum. Tetrahedron Letters. Vol.24(No.21): 2181-2184. 1983.
- キンギョソウ(オーロン、カルコン、オーレウシジン・シンターゼ)
Nakayama, T. et al. Aureusidin synthase: A polyphenol oxidase homolog responsible for flower coloration. Nature 290: 1163-1170. 2000.
- コスモス、キバナコスモス(オーロン、カルコン、サルフレイン、コレオプシン)
稲津厚生.コスモスにおけるイエロー花色品種に成立に関する生化遺伝学的研究.玉川大学農学部研究報告.第33号.75−140.1993年(コスモスの黄色い品種に含まれる色素について)
Shimokoriyama, M. and Hattori, S. Anthochlor pigment of Cosmos sulphureus, Coreopsis lanceolata and C. saxicola. J. Amer. Chem. Soc. 75: 1900-1904. 1953.(サルフレインとランセオリン発見の報告。50年近く前の論文です。一部しか読んでいませんが、戦中・戦後で海外の文献が手に入り難かったようなことも書いてあって、当時の苦労が偲ばれます。)
- 樋口春三.花のはなしI(17章).技報堂出版.1990年
- センニチコウ(ゴンフレニン)
Heuer, S., et al. Betacyanins from flowers of Gomphrena globosa. Phytochemistry. 31: 1801-1807. 1992.
Cai, Y., et al. Identification and distribution of simple and acylated betacyanins in the Amaranthaceae. Journal of Agricultural & Food Chemistry. 49: 1971-1978. 2001.
- デルフィニウム属(デルフィニジン)、オオヒエンソウ(シアノデルフィン、他)、デルフィニウム・ヌディカウレ(ペラルゴニジン)
Honda, K. et al. Analysis of the flower pigments of some Delphinium species and their interspecifis hybrids produced via ovule culture. Scientia Horticulturae. 82: 125-134. 1999.
Hashimoto, F. et al. Characterization of cyanic flower color of Delphinium cultivars. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science. 69: 428-434. 2000.
Hashimoto, F. et al. Changes in flower coloration and sepal anthocyanins of cyanic Delphinium cultivars during flowering. Bioscience, Biotechnology and Biochemistry. 66: 1652-1659. 2002.
- ツユクサ(コンメリニン、マロニルアオバニン、フラボコンメリン、金属錯体)
- 近藤忠雄.花の色はなぜ多彩なのか?−花色発現のメカニズム−.園芸学会雑誌.68巻別冊2:72−73.1999年
- 武田幸作.アジサイはなぜ七色に変わるのか?.PHP研究所.1996年
- 安田 齊.改訂版 花の色の謎(第2章).東海大学出版会.1986年
- 吉田久美.花色発現における分子会合機構の解明に関する研究.日本農芸化学会誌.70:9−14.1996年
- ヒナゲシ(ルチン、マルビジン、他)
Soulimani, R., et al. Behavioral and pharmaco-toxicological study of Papaver rhoeas L. in mice. Journal of Ethnopharmacology. 74: 265-274. 2001.
- ポピー(アイスランド)(ペラルゴニジン)
Cornuz, G. et al. Pelargonidin 3-malonylsophoroside from the red Iceland poppy, Papaver nudicaule. Phytochemistry. 20: 1461-1462. 1981.
- マリーゴールド(アフリカン)(ルテイン)
Moehs, C. P. Analysis of carotenoid biosynthetic gene expression during marigold petal development. Plant Molecular Biology. 45: 281-293. 2001.
- リビングストン・デージー(ベタレイン)
Heuer, S., et al. Synthesis of betanin from betanidin and UDP-glucose by a protein preparation from cell suspension cultues of Dorotheanthus bellidiformis (Burm. f.) N. E. Br. Planta. 186: 626-628. 1992.
Vogt, T. Subatrate specificity and sequence analysis define a polyphyletic origin of betanidin 5- and 6-O-glucosyltransferase from Dorotheanthus bellidiformis. Planta. 214: 492-495. 2002.