メモ | イポメア属の解説は、こちらをご覧下さい。 原産地は、メキシコ・中央アメリカです。 ‘ヘブンリーブルー’は、青い花を咲かせる原種から育成されたもので、日本には昭和10年頃に輸入されたそうです。その頃はドイツアサガオという名前が付けられていたようです。 ‘フライング・ソーサーズ’ですが、日本では‘フライング・ソーサー’と表記されていますが、「The New RHS Dictionary of Gardening」では、先に書いた通り、「Saucers」となっていたので、ここでも「ズ」を付けました。ご了承下さい。
非耐寒性の多年草ですが、栽培上は一年草として扱います。アサガオの種子は硬実種子(種皮が硬くて、発芽に必要な酸素や水を通さないような種子)なので、播種の前に種皮に傷を付けて、発芽しやすくなるようにします。タネ播きは春に行いますが、発芽適温は20〜25℃(資料によっては18℃)だそうです。水捌けが良く、余り肥沃でない砂質の土が向いています。生育適温は20〜30℃で、日当たりの良いところを好みます。アサガオと同じく短日性で、日長が短くなってから花芽を分化します。露地植えして、種子が出来ても熟さない場合は、潅水量を少なくすると良いそうです。
青い花を咲かせる花の色素は、デルフィニジン系アントシアニンであることが多いようです。しかし、ソライロアサガオの‘ヘブンリーブルー’の主要な色素であるヘブンリーブルーアントシアニン(heavenly blue anthocyanin: HBA)は、シアニジン系アントシアニンの一種です。HBAは、‘ヘブンリーブルー’の他、アサガオの‘maioogi(舞扇?)’、‘暁の波’、‘藤娘’など、明るい青スミレ色の花を咲かせるアサガオに含まれている主要な色素です。HBAは、ペオニジンを母核とした配糖体で、グルコースが6分子、コーヒー酸(カフェ酸)が3分子結合し、多アシル化されているそうです。青色に呈色するのは、分子内コピグメント作用と、花弁の表皮細胞内液胞のpHがアルカリ性になることによるそうです。 スミレ色、紫、青などの色の花を咲かせる18品種アサガオから、5種類のアシル化されたペオニジン配糖体が単離されたそうですが、コーヒー酸残基をより多く結合しているペオニジン配糖体を含む花ほど、花色の青味が強かったそうです。また、これらの色素をpH6.86のリン酸バッファーに溶かしたところ、HBAともう一つの多アシル化された色素は、それ以外のアシル化されていない3種類の色素より、安定していたそうです。 普通、植物の色素は、酸性で安定していますが、HBAは、アルカリ性でも安定している色素です。一般に植物の花弁の液胞のpHは酸性から中性(pH3〜7)に保たれています。しかし、‘ヘブンリーブルー’の花弁の表皮細胞の液胞のpHを、細胞内微小pH電極を用いて測定したところ、開花前の蕾は弱酸性(pH6.6。このとき、花弁は赤紫色)、開花した時は弱アルカリ性(pH7.7。花弁の色は青)だったそうです。なお、表裏の表皮細胞の間に挟まれた柔組織(海綿状組織)は無色で、この組織のpHは、蕾の時と開花時でおよそ6.0と変化がなかったそうです。赤紫の蕾と青い開花した花に含まれていた色素はHBAだけであったことが、高速液体クロマトグラフィーによる分析で確かめられています。また、HBAを単離してpHを調整した水溶液中に入れたところ、弱酸性で赤、弱アルカリ性で青と、花弁の中と同じ様な呈色をしたそうです。また、酸性の水溶液中のHBAにアルミニウムイオンや鉄イオンを添加しても色が変わらなかったことから、金属錯体を形成して青色になるのではないことも確認されています。青い花は、アントシアニン類がアルカリ性では青色になるためであると説明したpH説は、ドイツのヴィルシュテッターによって唱えられましたが、このことが実際に確かめられている植物は、現時点では、アサガオとソライロアサガオの2種だけだそうです。なお、液胞の中のpHが上昇する仕組みについては、アサガオのページをご覧下さい。
| 左の写真は、雨が降った後に‘フライング・ソーサーズ’の花弁を撮影したものですが、滴が出来たところが赤っぽく変色しています。もしかしたら、酸性雨の影響かもしれません。元が白いところも赤っぽく見えますが、そこにも色素が含まれていると言うことなのでしょうか? ‘ヘブンリーブルー’の方が良かったかもしれませんが、生憎、天気が晴れか曇りの時にしか咲きませんでした。 |
‘フライング・ソーサーズ’の花弁の斑入りは、トランスポゾンによるものと考えられます。アサガオの花弁の斑入りについてはトランスポゾンの関与が確かめられているので、詳細については、アサガオのページをご参照下さい。
サツマイモ属の植物の多くは、リセグル酸の誘導体(LSDに似た成分)を含みますが、ソライロアサガオの種子にも麦角アルカロイドが含まれていて、アステカ族(メキシコの原住民の一つ)は、魔術の儀式の時に幻覚剤として用いたそうです。 また、メキシコの伝統農法のようですが、メキシコ中南部のモレロス州の農民は、休閑中のサトウキビ畑にソライロアサガオを植えることで、雑草の防除をしているそうです。これは、ソライロアサガオに他の植物の成長を抑える働きがあるためです。ソライロアサガオのアレロパシー(※)物質の主成分として、トリコロリンA(tricolorin A)が単離されています。トリコロリンAは樹脂配糖体(糖脂質の一種)で、葉緑素中の、光合成における電子伝達を阻害することが明らかにされています。 アレロパシー関連については、論文の要約やイントロダクションを読んでまとめた程度で、本文は読んでいません。これ以上のことは、ご勘弁下さい(^^;
※ アレロパシー(allelopathy;他感作用)とは、「ある生物(特に植物)が、離れた場所にいる他種の生物(他の植物、昆虫類、微生物など)の活動や成長などを、促進または阻害するような影響を及ぼす現象」のことで、何らかの化学物質が関わっていることが知られています。
本棚以外の参考文献
浅山英一ら.園芸植物図譜.平凡社.1986年.
Lu, T. S. et al. Acylated peonidin glycosides in the violet-blue cultivars of Pharbitis nil. Phytochemistry. 31: 659-663. 1992.
Yoshida, K. et al. Cause of blue petal colour. Nature 373: 291. 1995.(吉田久美.花色における分子会合機構の解明に関する研究.日本農芸化学会誌.第70巻第1号:9−14.1996年.に、日本語の要約があります。)
星野 敦ら.転写調節遺伝子と液胞内pHによる花色の制御.p.1745−1752.岡田清孝ら編著.植物の形づくり.遺伝子から見た分子メカニズム.蛋白質核酸酵素.第47巻第12号(9月号増刊).2002年.
Achnine, L. Tricolorin A, a potent natural uncoupler and inhibitor of photosystem II acceptor side of spinach chloroplasts. Physiologia Plantarum. 106: 246-252. 1999.
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