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アサガオ

アサガオアサガオアサガオ
桔梗咲き絞り咲き・午前撮影絞り咲き・午後撮影
 
アサガオ
アサガオ
‘暁の雪’桔梗咲き(左)とキキョウ(右)


ヒルガオ科イポメア属(サツマイモ属)
学名正名:Ipomoea nil (L.) Roth、異名:Pharbitis nil (L.) Choisy
英名Japanese morning glory
和名アサガオ(朝顔)
別名 
花言葉儚い恋
メモ

 イポメア属の解説は、こちらをご覧下さい。また、Pharbitis属(ファルビティス属、アサガオ属)の解説は、こちらをご覧下さい。
 原産地は、従来は、中国南部から東南アジアと言われていましたが、最近の研究から、アメリカ大陸であることが有力視されています。この研究によると、アメリカが原産であることがはっきりしているイポメア属植物(I. meyeriI. hederaceaI. eriocalyxI. lindherimeriI. pubescensI. laeta)に、アサガオは遺伝的に近縁であることが確かめられたそうです。ただし、コロンブスがアメリカ大陸を発見する前の8世紀後半〜9世紀前半に、日本にすでに渡来したと考えられています。コロンブスが新大陸に到達するよりも早くアジアに伝搬した経路については不明だそうです。また、アメリカからアフリカへ伝搬するには大西洋を横断しなければなりませんが、この方法についても明らかでないそうです。
 日本には、8世紀後半〜9世紀前半頃(奈良〜平安時代)に、中国(唐)から遣唐使によって、薬草(種子は、牽牛子〔けんごし〕と呼ばれる下剤)として伝来したそうですが、渡来した正確な時期や経緯については記録に残っていないそうです。アサガオが日本に伝来する以前は、キキョウやムクゲのような朝に開花する花がアサガオと呼ばれていたそうで、現代のアサガオの意味で「阿佐加保」という言葉が出来たのは平安時代初期だそうです。918年に成立した日本最古の本草書である「本草和名」には牽牛子のことが記録されていて、アサガオという和名が当てられているそうです。ただし、詳細な植物学的記録や絵が少ないことから、本当に牽牛子=I. nil かどうかは分からないそうです。絵としての日本での最古の記録は、1164年に完成した「平家納経」(厳島神社所蔵。国宝)の第17巻「妙法蓮華経分別功徳品」に描かれているものとされているそうです。

追記(2002.9.21.)
 これまで学名を、「Pharbitis」を正名、「Ipomoea」を異名としていたのを訂正しました。

追記2(2003.11.8.)
 イポメア属とアサガオ属の解説を追加したのに伴い、説明を一部改訂しました。

追記3(2003.11.15.)
 原産地と日本への渡来に関する説明を追加しました。


本棚以外の参考文献
  • Austin, D. F. et al. A Putative tropical american plant, Ipomoea nil (Convolvulaceae), in pre-Columbian Japanese art. Economic Botany. 55: 515-527. 2001.

  • 渡辺好孝.江戸の変わり咲き朝顔.平凡社.1996年.


 江戸時代には、突然変異の花や葉をつける変化朝顔が流行しました(第1次ブーム:文化文政期〔1804−1829年〕、第2次ブーム:嘉永安政期〔1848−1860年〕)。突然変異は劣性遺伝子に因るもので、例えば、桔梗咲きでは、桔梗渦と名付けられた遺伝子(遺伝子記号:stars)がss(劣性ホモ)の時に、変異が現れ桔梗咲きになります。花が変異した個体は不稔性になることがあり、その様な場合は、親木をヘテロ(例えばSs)で維持する必要があります(これはあくまでも例であって、桔梗咲きには稔性があります。)。また、色々な変異を組み合わせることも、江戸時代の時に既に行われていたそうです。変異の現れていない親木を維持し、その種子の中からある確率で現れる変異体を探し出すことは、メンデルの遺伝の法則の「優性の法則、分離の法則」に則っていますし、変異を組み合わせることは、同じく「独立の法則」に則っています。経験的なこととは言え、メンデルの法則発見(1865年)以前に、このようなことを知っていたことは、当時の栽培家の観察眼の高さを伺わせます。

品種解説
・桔梗咲き
 園芸店でも販売されている変化朝顔の一種です。その名の通り、キキョウのような花を咲かせます。私は、タキイの通販で、青・白・赤の3色混合のものを買いましたが、そのうちの白と青が咲きました(午後撮影の花は、後述しますが、青が変色したものです)。八重咲きの性質を持ち合わせ、写真のように葯が弁化した花弁を着ける花もあります。

・‘暁の雪’(2004年10月10日追加)
 サカタのタネから発売されている物を購入しました。コレクション入りです。


参考文献

 アサガオに含まれている色素はアントシアニンであり、pHが低いときは紫、高いときは青色になります(ウィルステッター[ヴィルシュテッター]説。これについては、ソライロアサガオで確認されたので、ここでは割愛します。)。アサガオ花弁の液胞のpHが変化する仕組みについては、岡崎国立共同研究機構・基礎生物学研究所の飯田教授らのグループによって解明されました。突然変異で紫色の花を咲かせるアサガオでは、液胞外のナトリウムイオンを液胞内に取り入れ、液胞内の水素イオンを液胞外に排出する働きがあるトランスポーター(ナトリウムイオンと水素イオンを交換する輸送体:InNhx1Ipomoea nil Na+/H+-exchanger 1)をコードしている遺伝子(PurplePr)が変異していて、輸送体が機能しないために、液胞内の水素イオン濃度が高く(pHが低く)なっているそうです。Prのような、花弁の液胞のpHを上昇させる機能を持つタンパク質をコードしている遺伝子が同定されたのは、これが初めてだそうです。なお、purple変異は、Tpn4と名付けられたトランスポゾンが、Purple遺伝子に挿入することによって起こるそうです。
 朝(写真上段中央)と夕方(写真上段右)でも色変わりしますが(本当は、同じ花を午前と午後に撮影するべきですが、都合により違う花です(^^ゞ 2004年10月10日に差し替えました。)、これも、おそらく花弁のpHが変化することに因るものだと思われます。ただ、午前と午後で色が変わることについて調べた論文は見つからなかったので(読んだような気がしないでもないですが、当該論文が見つからないので、記憶違いかもしれません)、はっきりしたことは言えません。なお、総説を読んだだけでオリジナルの論文は読んでいませんが、「Purple遺伝子の発現は開花時の花弁に限定されている」とのことなので、開花開始から時間が経っていれば、萎れる前であっても、Purple遺伝子が発現しなくなっていて、結果として液胞内の水素イオン濃度が高くなって、花の色が赤っぽく見えているのかもしれません。
 雨に濡れた後、滴が付いた跡の色が赤っぽくなっていることもあって、もしかしたら、酸性雨の影響かな、などと思いました。雨が降った後の花弁の写真は、ソライロアサガオのページで紹介しています。説明があっちこっちに散らばっていて、すみません。

 花弁に斑が入っていることがありますが、これには、動く遺伝子である
トランスポゾンが関わっています。「雀斑」と呼ばれる斑の入り方がありますが、これについては、アントシアニンの素である3 Malonyl-CoAを代謝してアントシアニンを生合成する酵素の一つであるDFRdihydroflavonol-4-reductase)をコードしている遺伝子に、トランスポゾンであるTpn1が挿入していることで斑が生じているそうです。つまり、トランスポゾンが挿入している遺伝子がある細胞では、色素が生合成されず無色になり、トランスポゾンが抜けた細胞では色素が生合成される機能が回復して、花全体としては、部分的に色が着くことで斑が入るとのことです。また、「吹掛け絞り」と呼ばれる斑では、CHI遺伝子(カルコンをフラバノンに代謝する酵素であるカルコンイソメラーゼ(chalcone isomerase)をコードしている遺伝子)にトランスポゾンが挿入していることが明らかにされているそうです。

追記(2002.9.21.)
 一部改訂・斑入りについての説明を追記しました。


本棚以外の参考文献
  • Fukuda-Tanaka, S. Colour-enhancing protein in blue petals. Nature 407: 581. 2000

  • 星野 敦ら.転写調節遺伝子と液胞内pHによる花色の制御.p.1745−1752.岡田清孝ら編著.植物の形づくり.遺伝子から見た分子メカニズム.蛋白質核酸酵素.第47巻第12号(9月号増刊).2002年.

  • 星野 敦ら.花を彩る遺伝子.蛋白質核酸酵素.第47巻第3号:210−216.2002年.


 典型的な短日植物で、一回の短日処理でも花芽を分化することから、花芽分化の実験にも頻繁に利用されています。特に、‘ムラサキ(英名:Violet)’という品種(系統)は、発芽して子葉が展開したばかりの芽生えでも花芽を着けることから、実験に都合がよいそうです。
 短日性であるにも関わらず、夏至前の短日では花芽を着けず、一番日の長い夏至頃から花芽を着ける原因については、1)夜温が高くなるまでは花芽を着けない、2)明期での光質が影響する(青色光の割合が高い条件で花芽形成増大)、など諸説あるようですが、現在のところ、確かなことは明らかにされていません。
 短日性ですが、低温(15℃以下;先の高夜温と矛盾するようですが)、貧栄養、強光などの条件下では、連続光下でも花芽形成を誘導することが出来ます。それぞれの条件下で育てられたアサガオの子葉抽出物を分析したところ、花成を誘導する物質が明らかにされ、アサガオの花成にはフェニルプロパノイド代謝が関わっていることが推察されました。しかし、長日開花の全てにフェニルプロパノイド代謝が関わっているのではなく、他にも重要な代謝や、花成を誘導する因子があると言われています。

本棚以外の参考文献

  • 瀧本 敦.花を咲かせるものは何か 花成ホルモンを求めて.中央公論社・中公新書.1998年

  • 山崎敬亮ら.光質および光強度がアサガオの花芽形成に及ぼす影響.生物環境調節 38:39−46.2000年

  • Shinozaki, M. et al. Biochemistry of short-day and long-day flowering in Pharbitis nil. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 67: 1134-1138. 1998


 大気汚染物質であるオキシダント(Ox)の指標植物としても利用されているようです。アサガオ8品種を供試した実験において、Oxの被害を最も受けた(感受性が高かった)品種は、‘スカーレットオハラ(Scarlet O'Hara)’()だったそうです。
 被害が現れた(葉に白や茶の斑が入った)のは、Oxが7pphm(0.07ppm)以上の濃度が数時間続き、日最高値が8pphm(0.08ppm)以上を示した日の翌日だったそうです。
 感受性があったのは、第15葉位(腋芽を摘んで主茎一本仕立てにし、一番新しい葉を第1葉位とする)前後から下の成熟した葉っぱで、古い葉っぱほど被害が大きかったそうです。この感受性の違いについては、葉の表面の気孔開度や、葉位別クロロフィル含有量が関わっていると推察されています。

 ‘スカーレットオハラ’は、文献によって、ソライロアサガオ(I. tricolor)とされていますが、実際は、アサガオ(I. nil)のようです。また、海外のページで確認しましたが、マルバアサガオ(I. purpurea)にも、‘スカーレットオハラ’という品種があるようです。


本棚以外の参考文献
  • 久野春子ら.アサガオのオキシダント被害程度とオキシダント発生量の関係(光化学オキシダントの指標植物に関する研究 第2報).東京農業試験場研究報告.第14号:26−38.1981年.

  • 服田春子ら.光化学スモッグによる園芸植物の被害とその指標性について.第2報.オキシダントによるアサガオの被害とその特徴について.園芸学会発表要旨.昭和49年春:376−377.1974年.


コメント

 5月半ば過ぎに播種、およそその5日後に発芽、最初の開花は8月半ば過ぎです。アサガオの思い出と言ったら、やはり小学1年生の理科の教材ですね。それで育ててからは、毎年のようにこぼれ種から咲きました。今年は実に十数年ぶりの栽培ですが、普通のアサガオを育てるのはつまらないと言うことで、桔梗咲きの品種を栽培してみました。文献検索していたら、たまたま国立歴史民族博物館の資料のことを知り、購入したら、オマケで変化朝顔のタネが数品種付いていました。来年は、これに挑戦してみます。それにしても、小学1年生の教材になるような植物が実験植物として重要な位置を占めているなんて、アサガオって意外と奥が深いですね(笑)。だけど、小学生でアサガオを育てるのって、何が目的だったんだろう・・・( ̄▽ ̄;
 アサガオに関する論文は、それこそ、ごまんとあります。ここでは、比較的新しい資料を紹介しただけであり、代表的なものであるとは限りません(特に、花芽分化関連)。ご了承下さい。(2001.10.6.)

もう一言(2002.9.21.)
 学名・色素の記述を改訂、大気汚染の記述を新しく追加しました。
 昨年は、歴博資料のオマケの変化アサガオを育てようと意気込んでいましたが、今年は、色々な植物に手を出しすぎて、育てられませんでした。アサガオの種子は、保存条件が良ければ、30年くらいは発芽力が落ちないそうなので、落ちる前までには(^^;、育ててみたいと思います。

 
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