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Share MILF -島原 吉野-

其の伍

翌日、吉野は朝10時に自宅の入口前に到着していた。
高尾には12時までに帰宅すればよいと言われてはいたが、朝起きるや否や居ても立っても居られない気持ちに襲われ、ついつい早く帰宅してしまったのだった。
「はぁ……やっぱりちょっと早すぎるかな?……過保護だって吉原さんに笑われちゃうかも……ふ、ふわぁ〜……」
ばつの悪さからか中々自宅に入れずにいる吉野は大きな欠伸をする。
実は吉野はあまり良く寝ていなかった。
息子のことを思うと悶々としてしまい中々眠りにつけず、ついつい疼く股間を慰めてしまったのだ。
「まったく、あれから2回もしちゃうなんて……一晩に3回って……思春期の童貞坊やじゃあるまいし。もう、何やってんだろ、私」
結局、吉野が眠りについた頃、時計は3時を回っていた。
けれどそれでも7時には目が覚めてしまったのだ。
普段たっぷり8時間近く睡眠を取る吉野にとって4時間はあまりに少なすぎる。
「それもオナニーしてたからなんて……恥ずかしくて誰にも言えないわ……はぁ……って落ち込んでいてもしょうがない、か…」
確か昨晩も同じようことを言ってなったか?
情けなさに自己嫌悪を感じつつも、吉野は覚悟を決めて玄関のインターフォンに指を伸ばしていった。
「はい、島原です……あ、島原様?……少々、お待ちください、今、開けますね」
高尾の声だ。
勿論吉野は鍵を持っているのだが、自分の家とはいえ何となく今日は黙って入ることが憚られインターフォンを鳴らした吉野だった。
そしてゆっくりと家の扉が開かれる。
「随分と早いご帰宅でしたね。坊っちゃん?お母様がお帰りになられましたよ」
「え?ボク?……あ、あぁ、ボク、ただい…」
どこに息子が?と思った瞬間、高尾に即された息子が、高尾の背後からヒョコっと姿を現わしたのだ。
そして彼の表情を見た瞬間、吉野はつい言葉を詰まらせてしまっていた。
息子はと言えば『お帰り』と一言告げると、そそくさとリビングに戻ってしまった。
「あらあら、お母様に会うのが恥ずかしいのかしら?おかしな坊っちゃん…クスクスクス…」
高尾の言う通り、確かにそれは吉野と顔を合わすことを恥ずかしがっているかのようなそんな素振りだった。
けれどその時、吉野にしても息子にかける言葉は見つからなかったのだ。
何故なら、一瞬見えた息子の表情……それは明らかに昨日までの息子と違う、どこか大人びたそれだったからだ。
少なくとも吉野にはそう思えた。
(あ、あぁ…や、やっぱり、ボクは…)
男になってしまったのだろうか。
もしかしたらセックスなど望まないかもしれない。
心の片隅に残っていたそんな淡い期待は、息子のあの大人びた表情を見た瞬間、無残にも一瞬で消し飛んでしまっていた。
「それは……そう、よね……」
誰に言うでもなく吉野は小声で呟いた。
男の生理など自分は良く知っているではないか、いつまで未練がましくこんな想いを引きずっているのか。
「ふっ…」
泣き出しそうな表情で自嘲気味に溜息交じりの笑みを零す吉野だ。
恐らく息子は、昨晩、高尾に性について色んな話を聞かされたのだろう。
座学の際には実際に女の肌を見せることもあると高尾は言った。
サマーセーターの上からでも分かる豊満な乳房を露わにし、あの腰に纏わりつくスカートをパンティもろとも脱ぎ去る高尾。
初めて目にする大人の女の全裸姿は、きっと息子の目には女神そのものに映ったことだろう。
そしてその女神は、性教育の一環として無垢なペニスを精通させ、射精の快感を覚えさせる。
シェアミルフはオナニーの手ほどきもサービスの一つという。
きっと息子は、射精を知ったばかりのその幼いペニスに、女に射精させられる悦びを何度も何度も刷り込まれたに違いない。
ならば……大人の男性だって思わず股間を熱くしてしまうだろう高尾の豊満な全裸を目の前にして、そんな快感を刷り込まれた少年がセックスしてみたいと思わない方が不自然だろう。
「どうされました?島原様」
その時、肩を落とした吉野を変に思ったのか高尾が声をかけた。
しかし……
「い、いえ、な、何も……」
としか答えられない吉野だった。

吉野がリビングに入ると、息子は食事を取っていた。
息子の前の席には恐らく高尾のものだろう、もう一人分の用意がしてある。
「坊っちゃんが少し起きるのが遅かったので今、朝食を…というかこの時間ならブランチですわね。島原様はお食事は?……もしよろしかったらご一緒にいかがですか?」
「え、えぇ…じゃ、じゃあ…」
こうして3人で食事をすることになったのだが、吉野は少しばかり後悔することになる。
息子と高尾の距離の近さをまざまざと見せつけられたからだ。
いや実際の物理的な距離のことではない、それはいわば心の距離だ。
吉野の目にはやけに息子が高尾に懐いているように見えたのだ。
息子がちょっと食べものを零すと高尾が甲斐甲斐しくそれを拭き取り軽く息子を嗜める。
すると息子は、嗜められたことすら嬉しそうに眩し気に高尾を見つめながらペコリと頭を下げるのだ。
吉野の心にまたモヤモヤが湧き出し始めていた、と同時に…
「それは…そうよね。そう…なっちゃうわよ…ね…」
少しばかり寂しげな顔をしてまた小声で呟く吉野。
高尾はあくまでも仕事として接したとはいえ息子にとっては初めての女だ。
相手がどんな女であれ初めての女は男性にとって特別な女になるらしい。
そのことは吉野は十分過ぎる程承知していた。
やがて3人が食事を終えると、高尾が息子に声をかけた。
「さて、あとは食事のお片づけをして……それで私の仕事はお終いです。最後にお母様と大切なお話がありますので、坊っちゃんはお部屋に戻って『復習』でもしていてくださいね」
吉野は見逃さなかった。
そう言いながら高尾が息子に向かってウィンクしたその瞬間を。
『子供は部屋に戻ってオナニーでもしてなさい』という意味なのだろうか?
高尾の言葉に思わず苦笑いを浮かべた吉野だった。

数分後、吉野の寝室で向かい合って座る高尾と吉野の二人の姿があった。
さほど広くは無い吉野の寝室にはベッドと床起きのテーブルがあり、吉野はベッドを背もたれ代わりにしてテーブルに向かい、その対面に高尾は座していた。
すでに吉野は外出着から部屋着に着替えていたのだが、珍しく今日はスカートを身に付けていた。
高尾から息子の成長話を聞かされるに辺り、少しでも母親らしい装いをと思ったのかもしれない。
そんな慣れないスカート姿で高尾の言葉をジッと待つ吉野。
すると、吉野の緊張を解すように高尾が易しく微笑みながら声をかけた。
「島原様、少しお疲れのような……昨晩、あまり眠れなかったのですか?少し目に隈が…」
「あ、そ、そうですね…た、確かにちょっと睡眠が浅かったかもしれません…」
「お疲れならば、『ご報告』は日を改めて…」
「い、い、いえ、だ、だ、大丈夫です。ほ、報告を……お、お願いします」
確かに昨日、あまり寝ておらず体調がいいとはいえない吉野だったが、『ご報告』を先延ばしにしたところでそれまでの間またモヤモヤとした悶々とした日々を過ごすことになるだけだ。
こんなことは早く終わらせたい、そう思った吉野だった。
そんな吉野の表情を暫く見つめた後、高尾が静かに口を開く。
「かしこまりました。では『ご報告』させていただきますが、その前にまず島原様に謝らせていただきことがあるのです」
「?…あ、謝る?……な、何をでしょうか?」
「私の…この服装のことです」
「え?ふ、服?…」
いきなり何を話し出すのだろう?怪訝な表情の吉野をよそに高尾はさも申し訳なさそうに語り始めた。
「はい。いい歳をした女がこんな露出の多い淫らな格好をして……島原様もさぞ不愉快に思われたでございましょう?」
「え?…い、い、いえ…そ、そんなことはありませんけど……」
「お気遣いありがとうございます。ですが、正直に仰っていただいてもよろしいですよ。着ている私自身、恥ずかしい格好だなぁと思っておりますので」
「え?…で、でも…そ、それは吉原さんの、ふ、普段着ではないのですか?」
「いえいえ、まさか……これはシェアミルフの時に着用する制服のようなものなのです」
「せ、制服?」
確かにセクシーな出で立ちだと思ってはいたが、まさか制服だったとは。
目を丸くする吉野に、困っような表情で身に付けている服装の説明をする高尾だ。
「はい、制服なのです。シェアワイフは勿論ですが、幼いお子様がお相手のシェアミルフでも、対象者にはある程度私共に性的に興味を持っていただく必要がございますので…」
それはそうかもしれない。
吉野の息子のような座学からの子供であっても、実際に勃起や射精のことを教える際には……きっとサービスを与える側は女を感じてもらう必要があるのだろう。
その意味で高尾の今の服装が非常に効果的であろうことは、吉野にもよく理解できた。
「そ、そう…でしょうね……それは…わ、分かります。あ、だ、だけど…わ、私、本当に不快に思ったりしていませんよ。た、確かに…少し大胆だなぁとは思いましたけど…」
「ありがとうございます。本当に島原様は私共のことをよくご理解くださって……心から感謝いたします」
「い、いえ、そんな……そ、それでうちの子は……ど、どうだったでしょうか?」
不意に高尾に感謝の言葉を告げられ、後ろめたさに思わず話題を逸らした吉野だった。
確かに昨晩は、息子の前でこんな卑猥な格好をする高尾に腹を立てたりもしていたのだから。
けれど、その思わず逸らした話題は、吉野の胸にまたモヤモヤを湧き出させることになってしまうのだ。
「坊っちゃん、ですか?そうですね……おかげさまで、というと御幣がありますが、坊っちゃんにも興味を持っていただけたようですよ。島原様はお気づきになられませんでしたか?……はい、昨日島原様がお出かけになる時のことです」
「あ…そ、それ…は…」
忘れるわけがない、あのあからさまに腰を引いたみっともない息子の姿を。
その吉野の表情をみた高尾は、満足げに頷いた。
「やはり、島原様もお気づきになられていたのですね。後で坊っちゃんに尋ねてみたのですが、やはりあの時坊っちゃんはズボンの前が窮屈に感じる程、激しく勃起されていたようですよ」
「…っ!………………そ、そうです……か…」
分かってはいた。
分かってはいたが、息子の秘密を高尾にハッキリ口に出されることのなんと恥ずかしいことだろう。
ある意味で、自分の恥ずかしい部分を他人に指摘されること以上に羞恥を感じさせられる。
まだ本格的な『ご報告』が始まったわけでもないのに、吉野の顔はもう赤く染まり始めていた。
「あと、これはサービスを始める前の出来事なのですが……クスッ…クスクスクス…」
「?……な、なんですか?」
高尾が何やら思い出し笑いをし始めた。
自分の知る限りではいつも冷静な高尾なのに珍しいこともあるものだ、と興味を惹かれた吉野だった。
「島原様がお出かけになられた後、夕食を二人で食べたのです。はい、先程ブランチをいただいたテーブルで。その時のことなのですが…クスクスクス…」
「そ、その時?…」
「坊っちゃんが箸を落とされたのです。それも2度3度と……最初私は、随分と落ち着きのない子だなぁと思ったりしたのですが…」
「え?…そんなことは、1度も……それにどちらかと言えばうちの子は、慎重すぎて臆病と言われるくらいの…」
そこで高尾は、軽く手をかざして吉野の言葉を遮った。
「はい、一晩ご一緒してそれはよく分かりました。だからその時は…クスクス…坊っちゃんは、わざと箸を落としていたみたいです。テーブルの下に潜るために…」
「え?わざと?……テーブルの下に?………………あ!」
あることに思い当たり、思わず声をあげてしまった吉野だ。
そんな吉野に高尾は薄く笑いながら『ええ』と相槌代わりに首を軽く縦に振る。
「はい、どうやら坊っちゃんはテーブルの下に潜って……私のスカートの中を覗いていたようなのです……クスクスクス……」
「も、もう!あ、あの子ったら!」
母親にしてみれば、これはあまりに恥ずかしい。
まさに顔から火が出る思いだ。
「それで、さすが3回目には私もピンと来て……このままでは一向に食事が終わらないし、仕方ないので…」
「し、仕方がないので?」
「こう、テーブルの下を覗き込んで、しっかりと坊っちゃんと目を合わせて『そんなにテーブルの下がお好きならそこでご飯を食べますか』と……ウフフ……そしたら坊っちゃんたら、慌ててテーブルの下から這い出してきて『箸が見つかりました』って……クスッ……可愛らしい坊っちゃんですよね……クスクスクス…」
「な、なんてことを……もう!……あ、あの、ご、ごめんなさい、吉原さん、う、うちの子が…」
そんな拙い演技で誤魔化せるとでも思ったのだろうか。
息子のなんとも情けない悪事に、流石に謝罪の言葉を口にする母親吉野だった。
けれど高尾は、そんなにも幼い吉野の息子をいたく気に入ったらしい。
そもそもこの程度のこと、高尾にしてみれば子供の悪戯にも及ばない『おふざけ』くらいにしか思っていないのだろう。
「いえいえ……どうかそんなことを仰らないでください。無理もありませんよ。女性の下着に興味を持ち始めたばかりの幼い子の前に、こんなふしだらな格好をした女が現れれば……いくらずっと年上のオバサンだったとしても、坊っちゃんじゃ無くなってスカートの中くらい覗きたくなってしまうものですよ」
「は、はぁ……ど、どうもすみません…」
正直、高尾のその言葉は吉野にとってなんの慰めにもなっていなかったが、高尾が気にするなというのだ。
黙って、高尾に従う吉野であった。
「島原様。それではシェアミルフのサービス報告をさせていただきますが、報告するに辺り一つお約束させていただきたことがございます」
「お約束…なんでしょうか?」
「はい、私共の報告内容は、対象者様にご連絡にならないようにお願いいたします」
「は、はい?…え、えぇ、それは…勿論です」
息子に内緒で依頼したシェアミルフだ。
そのことについて息子と話すわけなどありはしない、単純に吉野はそう思ったのだが…
「頭では理解されていても、つい感情的になってしまう奥様、お母様方がいらっしゃいますので…私共から報告を聞いているうちに旦那様やお子様にお腹立ちになって、つい本人達に口走ってしまいそうになったりとか。そういったことが無いようにお願しているのです」
「あ……ご、ごめんなさい……は、はい、わかり…ました……き、気を付け…ます…」
つい今しがた自分の息子に腹を立てたばかりの吉野だ、高尾が心配になってしまうのも仕方がないことだろう。
素直に高尾の言うことに従う吉野だった。