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Senior Mania -foster mother-

其の捌

数分後、志乃の部屋には向かい合って座る志乃とわたるの姿があった。
浴衣とはいえ和服に身を包み凛として正座する志乃は、まるで老舗の旅館の女将のような貫禄がある。
まぁ、こうなることを見越して志乃は今日浴衣を着ていたのだが。
その僅か半畳ほど前でわたるは、志乃とは対照的にみすぼらしく首を垂らして正座していた。
情けないのは志乃がすっかり身繕いをしているのに対し、わたるは志乃に見つけられた時の格好のまま、そう下半身丸出しのまま座らされていることだろう。
だからわたるは両手で股間を隠し小さい体をさらに小さく縮こまらせて黙って俯いていることしか出来なかった。
そんなわたるの耳に再び観音様のお言葉が聞こえてくる。
「わたるちゃん?あなたは一体何をしていたんですか?」
「…………」
その言葉にビクっと身体を震わせることしか出来ないわたる。
今のわたるの心情は羞恥よりも恐怖の方が遥かに勝っていた。
徐々に身体の震えが大きくなる。
肩も膝もプルプル、プルプルと震えている。
そんなわたるを少々気の毒に思うが、最初が肝心の言葉通り今は甘やかす場面ではない。
志乃は心を鬼にして、さらにわたるを問い詰める。
「わたるちゃん?黙っていては、おばさん、何もわかりませんよ。さぁ、おばさんの顔を見て。ほら、シャンとしなさい、シャンと」
ほんの少しだけ語気を強めた志乃だ。
わたるは股間を両手で覆い隠したまま、顔だけをおずおずと上げなんとか志乃の顔を見た。
いつも自然な微笑みを浮かべている志乃なのに、今はまるで能面のように無表情だ。
美しい顔立ちがかえって恐ろしさを感じさせる。
「……う……うぅ…」
怖さのためか恥ずかしさのためなのか、わたるの目に涙が浮かび始めた。
それを座視して志乃は質問を繰り返す。
「さぁ、わたるちゃん?もう一度聞きますね?わたるちゃんは、一体何をしていたんですか?」
「……あ、う……ぅぅ…」
ついにホロリとわたるの目から涙が零れた。
それを見て、つい溜息を漏らした志乃だ。
「ふぅ……わたるちゃん?思い違いをしているかもしれないので言っておきますけど……おばさんはね、別にオナニーのことを言っているわけじゃないんですよ?」
「え!?……あ、あ、あ、あの……そ、そ、それ……は……そ、その…」
慌てたのはわたるの方だ。
まさかこの志乃の口からオナニーなどという下世話な単語を聞かされるとは思ってもいなかったのだから。
「確かに……こんな女の子みたいに可愛らしいわたるちゃんがもうオナニーをしていたなんて……おばさん本当に驚きましたよ」
「あ……ぅ…」
「それにお風呂で見たわたるちゃんのは……とっても小さくて毛も生えてないようなまだまだ幼いお子様チンチンでしたから」
「う……ぅぅ…」
「ですが……男の子ならそのうち誰もがし始めることですものね。わたるちゃんはあんなに元気にチンポコをピンピンにしちゃうおませ坊やだし……オナニーくらいしていても不思議ではないのかもしれませんね」
志乃が喋れば喋るほどわたるは身が縮む思いだ。
下半身丸出しの恥ずかしさ、ペニスを子供扱いされた悔しさ。
色んな感情が渦を巻くが、今一番大きいのはやはり恐怖だった。
そんなわたるの心情などお構いなしに、さらにわたるを追い詰めるような質問をする志乃だ。
「わたるちゃんは、いつからオナニーしているの?」
「!!!……そ、そ、それは…………」
不躾な質問に口籠るわたる。
そのわたるの態度に志乃は深々と溜息を吐いた。
「はぁ……わたるちゃん?さっきから全然おばさんとお話ししてくれないんですね……ずっとこんな調子なら、おばさん、報告しなくちゃなりませんよ?」
「え?ほ、報告?」
「はい。あの人……社長にです。わたるちゃんが何もお話ししてくれないなら、おばさんは見たままのことを…」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!ごめんなさい、奥様!ぼ、ぼ、僕、もう……もうしませんから!お、奥様、そ、そ、それだけは……それだけは許してください。お願いします、お、奥様ぁ!」
堰を切ったようにわたるは謝罪の言葉を並べ始めた。
やっとのことで手に入れた家族、生活。
それがすべてふいになってしまうのが恐ろしかったからだ。
そんな慌てるわたるを制するように、志乃は優しく語りかける。
いつしか志乃の表情にいつもの自然な笑みが戻っていた。
「はい。分かりました。おばさん、内緒にしてもいいですよ。だけど……それはわたるちゃんが正直におばさんの質問に答えてくれたら、ですよ?」
「…………は……はぃ、お、奥様…」
「あ、一つ忠告です。おばさん、嘘だけは許しませんからね。間違って失敗してしまったような時は怒ったりはしませんが、嘘を吐くような子は……嫌いですよ」
「は、はぃ……わ、わ、わかりまし……た…」
志乃の言葉にすっかり観念したわたるだ。
「さぁ、それではわたるちゃん?わたるちゃんはいつからオナニーしているんですか?」
「そ、それは……そ、その…こ、今年の…は、春くらいからです…」
わたるは、まさに蚊の鳴くような声で白状した。
わたるの素直の態度に志乃は満足げにいつもの自然の笑みを浮かべる。
「まぁ、そうなの。では……わたるちゃんはまだオナニー覚えたて、なんですね」
「……は、は……ぃ…」
耳まで真っ赤に染めてわたるは頷く。
こんな綺麗な年上の女性に、なんでこんなことを言わなくちゃならないんだ。
そうは思うが、今のわたるには志乃に抗う術などありはしなかった。
「じゃあ、精通したのはいつくらいなのかしら?」
「そ、それは……そ、その時……オ、オナニーをは、初めてし、した時です」
こんな調子で志乃は執拗にわたるを問いただした。
結局わたるは、施設でまるで兄弟のように育てられた三つ年上のお兄さんにエッチな本を見せられたこと。
その本を見ているうちにペニスが硬くなって痛くて痛くて仕方なくなったこと。
その夜、ムズムズするペニスをベッドに押し当てていたら突然気持ちよくなって初めて射精してしまったこと、などを白状させられてしまうのだった。
「まぁ、そうなの……3つ上のお兄さんか。いいお兄さんだったんでしょうね。ちょっとエッチな……うふふ…」
「あ、は、はい……な、仲は……よ、良かったです。その人が……春くらいに僕よりも早く施設を出て……その時にその本を…」
「なるほど……その本が『いけない』置き土産だったってわけなんですね。あ、でもわたるちゃんにとっては大事な大事な宝物だったのかしら?……クスクス…」
「い、いえ、そういうわけじゃ……そ、それに……こ、こちらにお世話になることが決まった時、その本は下の子にあげてしまったし…」
「あら、それじゃあ、今度はその子が精通を迎えて、オナニーを覚えたのかもしれませんね……うふふふふ…」
「そ、そ、そうかも……しれません……ね……あは……あはは…」
志乃の笑顔に今置かれている状況も忘れ、思わず釣られ笑いをしてしまうわたるだった。
わたるが落ち着きを取り戻したの感じたのか、志乃はさらに一歩踏み込んでわたるに問い掛ける。
「でも……ということは、わたるちゃんはもう知っているのかしら?」
「え?……な、何を……ですか?…」
「ん……おばさんがお風呂で言ったこと覚えてますか?ほら、わたるちゃんがチンポコをピンピンにしていた時……」
「あ…」
志乃の言葉を思い出したのか、今更ながら顔を赤らめ思わず俯いてしまうわたるだ。
志乃はクスリとほくそ笑む。
「その様子じゃあどうやら覚えているようですね。そう、おばさん言いましたよね?チンポコがピンピンになるのは、おしっこ以外の使い方をする時だって」
「……は、は……ぃ……お、覚えて……ます…」
「それで……わたるちゃんは、もう知っているんですか?オチンポコの使い方を」
「……そ、それ……は……そ、その……」
「うん?知りませんか?……クスッ……やっぱりまだまだお子ちゃまなんですねぇ、わたるちゃんは。チンポコはね、おしっこと自分で『おいた』するためだけにぶら下がってるわけじゃないんですよ?」
含み笑いながらわたるを小ばかにする志乃。
わざとらしいまでの挑発だったが、幼いわたるはいとも簡単にその挑発に乗ってしまう。
「し、し、知ってます!ぼ、僕、それくらい知ってます!」
「本当?だったらおばさんに教えてくださいな。ピンピンに勃起したチンポコの使い方」
疑っているような素振りの志乃。
勿論演技なのだが、わたるはやはり馬鹿にされているように感じてしまうらしい。
結局志乃の思い通りに答えてしまうわたるだった。
「そ、それは、その……せ、せ……せ、性交の……ためで……す…」
わたるは恥ずかしい思いをしながらもなんとか志乃の問いに答えた。
しかし、志乃は……
「えぇ?……ふっ、うふふふふ……やーねぇ、わたるちゃんたら。ふふふ…」
わたの返答を聞いた途端、急に笑い始めたのだ。
何かおかしなことでも言ってしまったのだろうか?わたるは困惑の表情だ。
そんなわたるの様子に気づいた志乃は、場を取り繕うようにコホンと小さな咳をした。
「あら、ごめんなさいね。わたるちゃんがおかしな言い方をするからつい…」
「おかしな?……あ、あの、ぼ、僕、何か変なこと言いましたか?」
「いえ、何もおかしくはありませんよ。ただわたるちゃんがあんまり堅苦しい言い方をしたのでつい……ふふふ……性交なんて言い方しないで普通にセックスでいいんですよ?……うふふふふ」
「あ……」
勿論わたるだってセックスという言葉は知っていた。
だけれどもそれを口に出すのが恥ずかしくて、わざわざ保健体育で習った言葉に言い換えたのだ。
それなのにいとも簡単に志乃の口からセックスと聞かされ、思わず顔を赤らめてしまったわたるだ。
「そうですか。わたるちゃんはもう勃起したチンポコの使い方を知っていたんですね。では、何のためにセックスするかも当然分かっているんですね?」
「は、はい……そ、それは、こ、子供を作るため……です…」
「……ふむ、なるほど……わたるちゃんには座学は必要なさそうですね……」
「え?お、奥様?い、今、なんて?…」
志乃の最後の言葉はまるで独り言を呟くように小さくて、わたるにはよく聞き取れなかったのだ。
だからわたるは何を言ったのか志乃に訊ねようとしたのだが、志乃はそれには応えなかった。
それどころかわたるにとってさらに答えにくい質問を志乃はしてきたのだ。
「いえ、なんでもありませんよ。それで……わたるちゃんは、もうしたことはあるのかしら?」
「…………え?した……こと?……」
「セックスですよ。わたるちゃんは、もうセックスしたことあるんですか?」
「えぇっ?!……そ、そ、そ、それは……そ、その…」
元より赤らめていた顔が見る見るうちにまるで茹蛸のように真っ赤に染まったわたるだった。
不躾な質問をする志乃から目を背け、股間を抑えながらただでさえ小さい身体をさらに小さく縮こまらせている。
志乃はそんなわたるの姿を見て、フッと一つ溜息のような笑みを零した。
「クスッ……ごめんなさいね、わたるちゃん。ちょっと意地悪な質問でしたね」
「え?……」
志乃は、自分で言った通りの少しばかり意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「だって、わたるちゃんのあの小さなチンポコが……クスッ……まだまだ幼いあのお子様チンポコが女を知っているわけがありませんものねぇ……クスクスクス…」
「……そ……そんな……こ……と…」
勿論、志乃の言う通りわたるはセックスの経験などありはしない。
しかしこうも人を小馬鹿にしたような言い方をされれば、まだ子供のわたるとて少しは反抗したくもなるものだ。
けれど……
「わたるちゃん?おばさん、言いましたよね。嘘吐きは嫌いだ、と」
「ぁ、ぅ……は……は……ぃ……」
いとも簡単にあしらわれてしまったわたるだった。
シュンとするわたるに、志乃はまた一つ苦笑い交じりの溜息を漏らした。
「そんなにしょ気ないの。ちょっと意地悪な言い方しちゃいましたけど……大人の女なら誰だってわかりますよ?わたるちゃんがまだ童貞坊やだってことくらい」
「……ぅ、ぅぅ…」
「ほら、そんな顔しないの。でも、女の子とセックスはしたことがなくてもキスくらいなら経験あるんでしょう?」
「え?……ぁ、ぅ……ぅぅ…」
「あらあら、その様子じゃあ……クスッ……まだ女の子とキスもしたことないんですね?本当になんて可愛らしい坊やなんでしょう。わたるちゃんは」
「……そんな…」
「おばさん、別に馬鹿にしているわけじゃないんですよ?わたるちゃんがあんまり無垢で初心だから嬉しくなったんです。色々と教え甲斐のある童貞坊やだなぁって、ね」
「え?……え!……えぇっ?!お、教え甲斐?!お、お、お、奥様?……」
志乃の口から出た『教え甲斐』という言葉に心惹かれたわたるだった。
(お、教え甲斐だって?……ど、どういうこと?……ど、ど、童貞の僕に……お、奥様が、お、教え甲斐?……そ、そ、そ、それって…)
普段から邪なことを考えては包茎を擦り立ててばかりいる童貞少年だ。
志乃の言葉に興味をそそられない分けがない。
なんとかして志乃の真意を確かめたい。
だから珍しくわたるは志乃に食い下がるように質問したのだが……
「お、お、お、奥様?……あ、あ、あの……い、い、今のは……ど、ど、どういう…」
「どうしたんです?急に。そんなに慌てて」
「あ、ご、ごめんなさい……で、でも……あ、あの、奥様……い、今の……その……お、教え甲斐って、その…」
「やっと、元気が出てきたみたいですね、わたるちゃん」
「え?」
志乃はまるで先程の言葉など無かったかのような態度だった。
「最初メソメソして全然口をきいてくれなかったから心配してたんですよ」
「え、あ、あの、そ、それは……い、いえ、そ、そうじゃなくて、その……さ、さっきの…」
「これだけ元気に話せるようになったのなら、そろそろ最初の質問に答えてくれますよね?」
「え?…………あ…」
わたるの質問など意に介さず淡々と話を進める志乃。
最初の質問と言われて『教え甲斐』の意味するところを確かめることも出来なくなってしまったわたるだ。
勿論、わたるはその質問を覚えている。
「わたるちゃん?おばさん、最初に聞きましたよね?わたるちゃんは、一体何をしていたんですか?って」
「ぅ……ぁ……」
そしてそれはオナニーのことではないとも志乃は言った。
ならば志乃が聞いているのは、わたるの犯したもう一つの『悪さ』のことに違いないのだ。
思い出したように手や膝がぷるぷると震え始める。
志乃の顔をとても見ていられず、股間を覆い隠したまま身体を縮こまらせて俯くわたる。
「はぁ……まただんまりですか?わたるちゃん。困った子ですねぇ……おばさんはわたるちゃんが何をしながらオナニーしていたのかを聞きたいだけなんですけど」
「……………………」
「ふぅ……それでは違う質問をしますね。これ……これは何ですか?」
志乃がスッと畳の上を滑らせながら、わたるの目の前に何かを差し出した。
俯いたわたるの視界にフェードインしてきたそれは、直径7〜8センチほどの丸くて薄い黒い金物。
「!!!」
それを見た瞬間、わたるは全身をビクンと震わせた。
あまりの驚きで心臓が止まるのではないかと思ったほどだ。
そして志乃は、全身を震わせていつまでも何も語れずにいるわたるを静かに見つめながらゆっくりと口を開いた。
「これ……襖の引手の金具ですね。わたるちゃんのお部屋に落ちていたんですよ。わたるちゃんが外したんですか?」
「…………そ、それ……は……ぅ……ぅぅ……」
一番最初に外したのは自分ではない、それは勝手に落ちたのだ。
そう言いたい気持ちもあったが、その後の自分の行動を考えれば何の言い訳にもならないだろう。
「実はおばさんの部屋の襖は引手の金具を全部外してあるんです。近いうちに取り換えようと思っていたので…」
知っているし、その理由もわたるの予想通りだった。
「だからね……わたるちゃん側の引手の金具を外すと小さな穴が開いてしまうんですよ。ほら、あんな風に…」
きっと志乃はあの襖の穴を指差しでもしているのだろう。
けれどわたるは俯いたまま顔を上げることなど出来なかった。
そもそもそこに穴が開いてることなどとうにわたるは知っているのだ。
「さぁ、もう一度聞きますよ?わたるちゃんは一体何をしながらオナニーしていたのですか?」
万事休す。
既に志乃は全てに気づいているのだろう。
もはや、わたるにとって出来ることなどたった一つのことしかなかった。
「ぉ……お、お、奥様……ご、ご、ごめんなさい!……ごめんなさい、奥様!ど、どうか……どうか、お、お許しください!」
頭を畳に擦り付けるようにして土下座をし、涙ながらに許しを請い始めたわたるだった。
わたるにはもうこれしか……全てお見通しの志乃にただただ誠実に謝るしか術は無かったのだ。
しかし志乃は、あえて惚けるような態度を見せる。
「どうしたんですか?急に……何をそんなに謝っているんです、わたるちゃんは?土下座なんかして…」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……お、奥様……ぼ、僕……ご、ごめんなさい!」
「だから何をそんなに謝っているんですか?もしかしてオナニーのことかしら?おばさん、別にわたるちゃんがオナニーしていたことを咎めている訳じゃありませんよ」
「そ、それは……い、いえ、そ、そうじゃ…」
「言ったでしょう?幼いわたるちゃんがもうオナニーをしていたことは驚いたけど、男の子ならどうせそのうちし始めることだ、と。それに……クスッ…」
「え?」
そこで意味ありげに含み笑いをした志乃だ。
何事かと思わず顔を上げ志乃の表情を窺うわたる。
「それにおばさん分かっていますから。わたるちゃんみたいな精通したての童貞坊やがオナニーなんて覚えたら……クスクス……暇さえあればオナニーばっかりするようになってしまうってこと」
「そ、そんなこと……ぅ……ぅぅ…」
オナニーばかりしていると決めつけられて少しは反論したい気持ちもあるが、実際にオナニー現場を取り押さえられた今となってはそれも出来ない。
含み笑う志乃をただ恨めし気に見返すしかないわたるだった。
「ね?だからわたるちゃんがオナニーしてたからといって別に責めているわけじゃないんです。おばさんはね、ただわたるちゃんが何をしながらチンポコを弄っていたのかを聞いてるんですよ?」
「……ぁ……ぅ……ご、ごめんな……さぃ……お、奥様……ぼ、僕……そ、その……ご、ごめんなさい」
「だから……はぁ」
堂々巡りの会話に溜息を吐く志乃。
そしてまた笑みの消えた能面の表情に変わると、わたるに止めを差すかのように静かに一言呟いた。
「やっぱり……社長に報告するしかないようですね」
「!!!」
その一言にわたるは小さく縮こまらせた身体をビクッと震わせた。
「……ま、ま、待って!ま、待ってください、奥様!」
「なんですか?話してくれる気になりましたか?」
志乃の完全なるチェックメイトに、もはやリザインするしかないわたるだった。
「ぼ、僕は……ォ……オナニーしながら……そ、そ、その……お、奥様の……奥様の部屋を……の、の……の、覗いていました……」
土下座をして顔を伏せたまま、とうとうわたるは蚊の鳴くような小さくか細い声で志乃に自分の『わるさ』を白状した。
「……………………」
志乃はしばらく黙っていた。
時間にしてみればわずか十秒ほどだったのだが、その沈黙はわたるにとってまさに拷問に等しい長く苦痛な時間だった。
やがて……
「やはり……そうだったのですね」
志乃が静かに呟いた。
「ご、ご、ご、ごめんなさい!」
「引手の金具が外れていたのでもしやとは思っていましたが……おばさんがっかりですよ。女の子みたいに可愛らしいわたるちゃんが、まさか女の部屋を覗き見するような助平小僧だったなんて」
「ごめんなさい、ごめんなさい、お、奥様……ひっく……ぼ、ぼ、僕、なんてことを……ひっく……ご、ごめんなさい、ゆ、ゆ、許してください!」
必死の思いで許しを請うわたる。すでにその声は泣き声交じりだ。
ポタリポタリと涙が数滴零れ落ち畳を濡らしていく。
しかし志乃はそんなわたるにはお構いなしにさらに答え辛い質問を投げかける。
「それで、おばさんの部屋を覗いたのは今日が初めてなんですか?」
「……ぁ……ぁの……それ……は、その…」
「どうなんですか?わたるちゃん………あ、何度も言いますが、嘘吐きはおばさん許しませんからね」
「ぁぅ……は……はい……きょ、今日が……は、初めて……じゃないで…す」
能面顔の志乃はわたるにとってよほど恐ろしいようだ。
観念したわたるは正直に白状していった。
初日、襖の穴に気が付いたこと。
その穴から志乃のバスタオル姿やパンティを履く様子を覗き見たこと。
そして、首にかけたバスタオルの影となってオッパイこそ見えなかったものの、正面から志乃のパンティ姿を見て興奮の余り思わず股間を弄り、そのまま射精してしまったこと。
涙声でつっかえつっかえではあったが、嘘偽りなく正直に白状したわたるだった。
「やれやれ困った助平小僧だこと。それで2日目……昨日も同じようにおばさんの霰もない姿を見ながらオナニーしてしまったのですね」
「……は、は、ぃ……お、奥様の……バ、バスタオル姿が……あんまりす、素敵だったから…」
「誉め言葉に聞こえませんよ、わたるちゃん」
「ごっ、ご、ごめんな……さ……ぃ…」
わざとらしく深々と溜息を吐く志乃。
そんな姿さえ『わるさ』を咎められている気になってしまうわたるだ。
「それで今日もあわよくばオナニーしようと覗いていたというわけですか……やれやれ…あ、でもおばさん、今日は浴衣を着ていましたよね?それでも興奮してしまったんですか?わたるちゃんは」
「ぃ……いえ、そういうわけでは……さ、最初は少しがっかりしたんですけど……お、奥様が椅子に座っているときに浴衣の裾が開けて…」
「ああ、湯上りでちょっと暑かったので足を扇いでいたのです。それが?」
「それで……そ、その……お、お尻の方まで捲れあがって……お、奥様が浴衣の下には、な、何も……し、下着を履いてないことが分かったんです……それで…ぼ、僕、興奮しちゃて…」
「えぇ?……クスッ…クスクスクス……まったく…童貞坊やの想像力の逞しさには呆れてしまいますね。本当になんてエッチな子なんでしょう、わたるちゃんは」
「ご、ごめんなさい…」
「それにしても……」
「え?…」
不意に志乃の声のトーンが変わった気がした。
怪訝に思って志乃の顔を見上げてみると、志乃は何やら思案でもしているかのような仕草をしている。
「ぉ……お、奥様?……ど、どうか……し、しました……か?…」
「いえ別に……ただ、ね。ちょっと不思議に思ったんです。わたるちゃんから見ればおばさんなんて本当に文字通りのオバサンなのに……わたるちゃんはおばさんを見ながらオナニーしていたのでしょう?」
「……は……はい……ご、ごめんなさい」
「テレビに出てくるアイドルとか学校の同級生とか、同じ年頃の女の子のことを考えたりしないのですか?あ、それとも……助平な童貞坊やは女のパンティ姿なら誰でもいいのかしらね?……クスッ…」
「そ、そ、そんなこと、な、ないですっ!」
今までジッと静かにしていたわたるだが、その時だけは少しばかり大きな声を出した。
これには志乃も驚いたようだった。
「び、びっくりしたぁ。どうしたんです、わたるちゃん?急に大声を出して」
「ぉ……ぉ、お、奥様は…」
「ん?おばさんが、何?」
志乃はわたるの顔を覗き込もうとするが、わたるは顔が畳にくっ付くほど下を向いていたのでその表情を窺うことは出来なかった。
そしてわたるは、その不自然な姿勢のままポツリポツリと小さな声で囁くように告白をし始めた。
「ぉ……奥様は、と、とっても綺麗で……ぼ、ぼ、僕は……ぼ、僕は……お、奥様みたいに綺麗な女の人を見たのは……ほ、本当に生まれて初めてで…」
「な……な、何を言い出すの、わたるちゃんたら…」
ほんの少し志乃に動揺が見られた。
例え相手がわたるのようなまだまだ年端のいかない子供だったとしても、志乃は本当に褒め殺しに弱いようだ。
けれどそんな志乃の変化にはわたるは気づく気配もない。
まるで畳にでも話しかけるかのように、一人言葉を紡いでいた。
「だから……こ、この家に招いてくれて本当に嬉しくて……ちゃ、ちゃんと……し、しっかりしなくちゃってお、思ったんです……で、でも…」
「でも?」
「お、奥様は……ぼ、僕のことなんか、ま、まるで……こ、子供扱いで…」
「あ……初めて会った時のことかしら?あれはごめんなさいね。でもおばさん、決してわたるちゃんを馬鹿にしたわけじゃ……」
「い、いえ、そうじゃないんです。お、奥様に子供に思われてしまうこと自体は……しゃ、社長に言われたように、ぼ、僕が…僕自身が頑張らなくちゃいけないことで……でも、そ、そういうことじゃなくて…」
「そういうことじゃない?」
「お、奥様は、そ、その……ぼ、ぼ、僕のことを……そ、その……こ、子供だと思ってるから……」
「え?おばさんが、わたるちゃんのことを子供だと思っていると……何なのです?」
「あの……だ、だから……その…」
何か言いたいことはあるようなのだが、わたるは中々口に出せずにいる。
当然志乃にもわたるが何を言おうとしているのかなど分かるはずもない。
身体を小さく縮こまらせて震えているわたるは不憫に思うがこのままでは埒が明かない。
志乃ほんの少しばかり語気を強めた。
「どうしたんです、わたるちゃん?何を言いたいのです?ほらもじもじしないの。男の子でしょうわたるちゃんは?小さくてもちゃんとチンポコだってぶら下げてるんでしょう?だったら男らしくはっきりなさいな」
「は、は、はい……ご、ごめんな……さぃ…」
「わかったのなら、はっきりと言いたいことを言ってくださいね」
「は……はぃ……お、奥様は僕のことをまだ子供だと思ってるから……そ、その……ぼ、僕の目……とか、あんまり気にされてないみたいで…」
「わたるちゃんの目?……どういうことですか?」
「そ、その……お、奥様は、と、時々ぼ、僕の前で……屈んだり、お、大きく足をひ、開いたりされるので……し、下着が……み、見えちゃうことがあって…」
相変わらず顔を伏せているためどんな表情をしているかは判らないが、小さく震え耳まで真っ赤にしている様子から察するにきっとわたるは恥ずかしさや気まずさを堪えやっとのことで志乃にそれを伝えたのだろう。
なんだそんなことかと志乃はやれやれと溜息を吐いた。
「そうでしたか。それはごめんなさいね。確かにおばさん、わたるちゃんの前ではあまり自分の姿勢は気にしていないかもしれませんね。でも……それがどうしたんです?わたるちゃんは何が言いたいのかしら?」
「だ、だから……さ、最初の日、僕は……お、奥様にお会いした時から……ず、ずっと……オチン……チン……お、大きくなってて……とても……つらくて…」
「まぁ、そうだったんですか……じゃあもしかして、社長と3人でお食事していた時とかも?」
「は、はい…もう……ずっと……で、でも!ち、違うんです!ぼ、僕、いつもはそんなんじゃないんです!」
わたるは顔を上げ、まるで志乃に訴えかけるるように少し大きな声を出した。
その瞳は潤んでいるようだ。
「ぼ、僕……、学校の女の子の友達の……時々、見ちゃった時がありますけど…」
「パンティを?……まぁ、困った子だことわたるちゃんは。学校でも助平な覗き小僧なんですか?」
「ち、ち、ち、違います!ぼ、ぼ、僕、お、奥様の部屋以外は……こ、これまで一度もそんなことしたことないです!学校のは……他の男の子がスカート捲りとかしててたまたま見えちゃっただけで……本当です!」
「本当かしら?わたるちゃんも一緒に女の子のスカート、捲ってたんじゃないんですか?」
「し、し、してません!ぼ、ぼ、僕、そんなこと、し、してません!」
「まぁ、信じてあげますけど……ねぇ、わたるちゃん?おばさん、さっきからわたるちゃんが何を言いたいのかよくわからないんですけど…」
「あ、ご、ごめんなさい……ぼ、僕が言いたかったのは……こ、こんなに……こんなにオ、オチンチンが…い、痛くなるくらい硬くなっちゃったのは、お、奥様が、は、は、初めなんです」
「え?……」
「お、奥様のし、下着……ブ、ブラジャーやパ、パンティを見てたら……く、苦しいくらい膨らんで……でも、どうしようもなくて……だ、だから誰でもいいんじゃないんです。お、奥様だから……奥様だから!」
「わ、わたる……ちゃん…」
おかしな内容ではあったが、まるで恋の告白でもしているようなわたるだった。
いや、わたるがというより、むしろ志乃の方か。
若かりし日、何度か男性に交際を申し込まれたこともある。
今まさに志乃の胸には、その時のような甘酸っぱい思いが蘇っていた。
「コ、コホン……わ、分かりました。まったくもう、そんなに真剣な顔をして……はいはい、分かりましたよ。女のパンティ姿なら誰でもいいと言ったのはおばさんの間違い。そう言いたいのですねわたるちゃんは」
「は、はい……そ、そ、そうです……ぼ、ぼ、僕は……僕は、奥様だから…」
「だ、だから、分かりましたって言ってるでしょう?……はぁ……本当にもうこの子は……」
真剣な表情で訴えかけるわたるに、今や志乃の方が慌ててしまっていた。
自分を落ち着かせるように一息吐く志乃。
わたるを見れば相変わらず土下座の姿勢のまま顔だけを上げ志乃の表情を潤んだ瞳で見つめいている。
志乃の口元にフッと笑みが浮かんだ。
「クスッ……本当にわたるちゃんは……困った坊やですね」
「ご、ごめんな……さぃ……」
志乃が微笑んだことにより、わたるは場の空気が少し和んだような気がした。
しかし、それは一瞬のこと。
わたるのあまりの純真さについ『隙』を作ってしまった志乃だったが、本来の目的を見失うわけにはいかない。
照れ隠しにコホンと一つ咳払いをすると、その表情からまたスッと自然の微笑みが消えていった。
「とすると……」
「え?……な、なんですか?お、奥様……」
志乃の低く静かな声が、再びわたるの緊張感を呼び覚ました。
ゴクリと唾を飲むわたる。
そんなわたるをジッと見つめながら、志乃はまたわたるにとってとても答え辛い質問を投げかけた。
「わたるちゃんは、他の誰でもないおばさんの霰もない姿を見たからチンポコをピンピンに膨らませてしまったんですよね?それでついオナニーしてしまった、と言うのですよね?」
「……は、はぃ……そ、そう……です…」
「とするとわたるちゃんは……………………おばさんとセックスでもしたいのかしら?」
「………………ぇ?………セ?……え?……え!?えぇっ!?……セ、セ、セ……セ、セックスぅ!?……」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまったわたるだった。
驚いて志乃の顔を見上げてみる。
しかし志乃の様子は変わらない、ちょっと怖いあの無表情の能面顔だ。
わたるをじっと見据える志乃の視線とわたるの視線が合う。
恥ずかしさにとても見ていられず、またわたるは顔を伏せて土下座の姿勢に戻った。
(な、な、な、何を……お、お、奥様は、な、何を言ってるんだろう?……セ、セ、セックス?……お、お、奥様と?……ぼ、ぼ、ぼ、僕が?……)
わたるはすっかりパニックに陥ってしまった。
土下座をしたまま身動きすら出来なくなってしまったようだ。
(ま、ま、まさか……ね……奥様と僕が……セ、セ、セックスなんて……き、きっと……きっと僕の聞き違いだよ……そ、そうだよ……きっとそうだよ)
思考を停止させ、聞き違いだと自分に言い聞かせるわたる。
しかし……
「そうです。セックスです。わたるちゃんはおばさんとセックスでもしたいんですか?」
「!!!」
やはり聞き違いでは無いらしい。
セックスという単語にピクリと身体を震わせるわたるだった。
「……………………ふぅ……」
しばらく土下座をするわたるを静かに見つめていた志乃だったが、中々返事をしようとしないわたるに一つ小さな溜息を吐いた。
実は志乃にしても、この質問にはわたるは容易に応えることは出来ないだろうと思っていた。
自分が世話になる家の主の妻とセックスがしたいだのと、普通なら言えはしないだろう。
けれどこの質問は……この質問に対するわたるの返事は、志乃にとって大きな意味を持っていたのだ。
わたるの性教育を請け負うとすでに老人に言ってしまった志乃だったが、やはり心のどかこかに引っかかるものがあった。
いくら老人やこの家の為だとしても、こんな年端のいかない少年の性の相手などしていいものなのか。
そう思う気持ちがいまだ志乃の胸の奥で燻っていた。
だから志乃はこの質問に賭けたのだ。
わたるの性教育をするにあたり志乃が老人に認めさせた条件の一つ、わたる自身が志乃を受け入れること。
それをはっきりとわたるの口から聞くことで、自分の心に踏ん切りを付けたいと思っていたのだ。
「……………………」
いつまでも中々口を開こうとしないわたる。
業を煮やし、志乃は少々意地の悪い言い方でわたるに問い掛ける。
「どうなんですか、わたるちゃん?おばさんとセックスでもしたいんですか?それとも……やっぱり童貞坊やは、オナニーがしたいだけだったのかしらね?」
「……そ、そんな…」
揶揄い口調の志乃に、沈黙していたわたるが反応する。
やはりこの少年は、少し子ども扱いしてやるとむきになるようだ。
思い通りのわたるの反応に、志乃の口元に薄っすらと笑みが浮かぶ。
「毎日毎日暇さえあればオナニーばっかりしてるせんずり小僧ですものね。女のパンティ姿で小っちゃなチンポコ膨らませて、人目を盗んでコソコソとオナニーしている方がやっぱり好きなのかしらね。わたるちゃんは」
「そ、そ、そんな……そ、そんなこと…………ひっく……ひ、酷い……ですよぉ……」
意地悪な志乃の言葉がわたるの胸に突き刺さる。
いつしかわたるの目にまた涙が浮かんでいた。
「あら、違うんですか?お猿さんみたいにオナニーばかりしているくせに……やっぱりわたるちゃんは、チンチンを膨らませてくれる女のパンティ姿なら誰のでも良かったんじゃ……」
「ち、ち、違いますっ!」
執拗な志乃の蔑みの言葉に耐えられなくなったのだろう、わたるは顔を上げ志乃の顔を毅然と見つめながら声を荒げた。
そのわたるの瞳から涙が一筋ポタリと畳に零れ落ちる。
志乃は黙ってわたるを見つめた。
「……ぼ、僕は……は、初めての時は……ず、ずっと……お、奥様みたいな……す、素敵な……お、大人の女性がいいと……お、思っていました……」
「……っ……………………」
「ぼ、僕は……お、お、奥様に……奥様に、お、お、男にしてもらいたいです……お、お、奥様と……お、奥様と……セ、セ……セ、セックスしたいですっ!」
目からポロポロ、ポロポロと涙を零し途切れ途切れにつかえながらもやっと本心を志乃に告げたわたる。
その言葉を聞いた志乃は、静かにそっと目を閉じた。