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Scanty Master -seaside memory-

其の参

「…」
僕は言葉を失った。今日出会ったばかりのまなみさんの知り合いに、こんなところを見られるなんて。それもみゆきさんみたいなナイスバディの大人の女性に。僕は頭が真っ白になって、アソコを隠すことすら忘れていた。
(な、なんで?…みゆきさんが…こんなところに…で、でも…ど、どうしよう?…)
頭の中はパニック状態だ。思わずうな垂れる僕。きっとみゆきさんは、僕のことを気持ち悪がって嫌いになるに決まってる。(キャー)とか(変体)とか、きっと罵声を浴びせられるに違いないって思った。でも、僕の予想とは全然違う言葉が聞こえてきたんだ。
「あら?ごめんなさい、坊ちゃん。お取り込中のところ…」
「…え?…」
僕の方が呆気にとられてしまった。みゆきさん、大声を出すとか、呆然とするとか、全然そんなそぶりをまったく見せなかったんだ。まったく驚いてもいないみたいだ。
「あの、今日のご夕食ですけど…坊ちゃん、お肉とお魚、どちらがよろしいですか?」
「え?ええ…あ、あの…」
僕は股間を晒したまま、言葉に詰まった。当たり前だよ、オナニーしている最中に、物凄いプロポーションをした大人の女性が入ってきて、アソコを丸出しにしている僕のことなんか気にもせず、今日の夕食の献立を聞いているんだよ。どう考えてもおかしな光景だ。
「ん?どうかしましたか?坊ちゃん」
返事もできずアソコを丸出しにしたままの僕に向かって、みゆきさんはそんなことを聞いてくる。僕にしてみれば、どうしたもこうしたもない状況なのに。
「もしかして…坊ちゃん、両方ともお嫌いなんですか?…もしそうなら、困ったな…」
「ち、違う…そ、その…お、お肉が…いい…です…」
やっとのことで僕はそれだけ言った。すると、僕の返事を聞いたみゆきさんは、さも満足げにニコッと微笑んだんだ。
「お肉ですね。解りました」
みゆきさんはそう言って部屋を出ようとした。まるで、何事もなかったかのように。僕は何故かこのままみゆきさんを帰してはいけないような気がしたんだ。僕のオナニー姿に何の反応も見せないみゆきさんが、かえって怖く感じられたから。僕はみゆきさんを呼び止めた。
「あ、あの…」
「はい?なんですか?坊ちゃん…」
このとき僕は、まなみさんには黙っててとか、そんなことを言おうとしたんだ。けど結局何も言えなかった。なぜって、僕を振り返ったみゆきさんの表情には、やはり何の変化も感じられなかったんだもの。下半身丸出しの僕を、みゆきさんはごく普通に、ごく自然に見つめている。みゆきさんは、まったく何も気にしていないようだ。そのみゆきさんに、僕の方から何か言えるわけがないじゃないか。
「…い、いや…な、何でもない…です…」
「ん?な〜に?おかしな坊ちゃん…」
小首を傾げながら僕を見るみゆきさんの瞳は、どこかあどけない感じがする。みゆきさんに見られているうちに僕の方が恥ずかしくなってきた。今更ながら、アソコを両手で覆い隠す僕。もう、みゆきさんにはバッチリと見られているに違いないんだけど。
「じゃあ、私、支度に戻りますね…でも…」
「な、な、なんです…か?…」
急に言葉を止めたみゆきさんを、心臓をドキドキさせながら僕は見上げた。
「でも、よかった…」
「え?…な、なにが?…」
思わず聞き返す僕。みゆきさんの言葉の意味が全然解らなかったから。
「あの…私、さっきも言いましたけど…ちょっと不安だったんです。私がいるために、折角の夏休みに坊ちゃんがくつろげなかったら嫌だなって…でも、今の坊ちゃんを見て少し安心しました…」
「…え?…」
「そんなことしてるってことは、リラックスできてる証拠ですよね」
「え?…そ、そんなことって…こ、これは…そ、その…」
「ごめんなさいね、坊ちゃん。お楽しみのお邪魔をしちゃって…」
「お…お楽しみ…だなん…て…」
そんなことを言われて、僕はカッと顔が火照る思いがした。穴があったら入りたいって心境だ。でも最後にみゆきさんが言った言葉は、いやみゆきさんがした仕草は、僕にとってもっとショッキングな出来事だった。みゆきさん、右手の親指と人差し指、中指の3本の指で輪を作ると、自分の股間の前に手を持っていった。そして、ゆっくりと手を上下に動かしながら…。
「それじゃあ後でお呼びしますから…それまでに…コレ…済ませておいてくださいね」
そう言って、僕にウィンクしたんだ。あまりにも艶かしいその手つきが、僕の目に焼きついた。僕は頭がクラクラとしてきた。みゆきさんの手が上下に動くたび、まるでそこに僕のアソコが握られているかのような錯覚さえするほどに。みゆきさんが部屋を出ていった後も、僕は股間を丸出しにしたまましばらくの間、みゆきさんが立っていた辺りをただ呆然と眺めていたんだ。

「坊ちゃ〜ん、用意できましたよ〜降りてきてくださ〜い」
1時間程経った頃、みゆきさんの声が1階から聞こえてきた。けれど僕は中々部屋を出れずにいたんだ。落ち込んでたっていうか、泣きたい心境っていうか…とにかく夕食なんて食べる気がしなかった。何よりも、1階に下りて、みゆきさんの顔を見ることがとっても怖かったんだ。しょうがないじゃないか。みゆきさんに、あんなところを…オナニーしてるところなんか見られちゃったんだもの。もう気分は最悪だった。
(はぁ〜…どうしよう…みゆきさんの顔なんてまともに見れないよ…)
深い溜息をつく僕。結局あの時、僕はオナニーをやめてしまったんだ。いや、できなかったっていう方が正しい。あまりの驚きと、きまりの悪さと、それに恥ずかしさで、とてもオナニーなんてできる心境じゃなかったから。アソコも勝手に萎んじゃったし。
(みゆきさん…まさか、まなみさんに言ったりしてないよな…)
この時、僕が一番の不安に思っていたことがそれだった。まなみさんにまでオナニーのことを知られたら、とてもじゃないけどこの家でゆっくりなんてしていられない。
(大丈夫だよな…みゆきさんは、僕のオナニーなんて全然、まったく気にしてなかったもの…わざわざまなみさんに教えたりしないよな…でも…でも逆に、みゆきさんにはどうでもいいことすぎて、僕のことなんかお構いなしに、ポロッと言っちゃうかも…あぁ…あぁ、どうしよう…やっぱり、言わないでってお願いすれば良かった…)
電気もつけていない暗い部屋で、僕は一人、頭を抱え込んだ。
「わたる、聞こえないの〜歓迎会始めるわよ〜」
今度は、まなみさんの催促だ。そう言えば、今日の夕食は僕の歓迎会だった。折角2人が準備してくれたんだ。行かなければ、2人の好意を無駄にすることになる。それに、いつまでもこうして悩んでいるわけにもいかない。
(くそっ!どうにでもなれ…)
僕は半ば自棄になって、2人の待つ1階に降りていったんだ。
「わたる、ようこそ我が家へ!」
「ま、まなみさん…うわぁ、す、すごい料理だね…」
まなみさんは、おどけた調子で僕を迎えてくれた。テーブルの上には、まるでパティーでも開かれるかのように、料理がところせましと並べられている。
「さあ、坊ちゃん、座ってください。先生も、さあ」
「あ、ありがとう…み、みゆきさん」
ニコニコと微笑みながら、みゆきさんが、僕とまなみさんのために椅子を引いてくれた。でも、やっぱり駄目だ。僕には、みゆきさんの顔がまともに見れないんだ。みゆきさんを見た瞬間、顔が赤らむほど恥ずかしさが込み上げてくるんだもの。
「それじゃあ、はじめましょうか…みゆき、貴方も座りなさい…さぁ、まずは乾杯しましょう。わたるもワインくらいなら飲めるでしょ?…はい、みんなグラスを持って…かんぱ〜い」
まなみさんのテンションが少し高いような気がした。僕が来たことをこんなに喜んでもらえるなんて、僕にとってはとっても嬉しいことだ。けど残念ながら、僕の気分は沈んだままだった。僕は恐る恐る2人の顔色をうかがってみた。
「はい、坊ちゃん、これも食べてくださいね」
「そうよ、わたる。わたるはもっと一杯食べて大きくならなくちゃ」
まなみさんの態度は、最初あったときから全然変わっていない。僕の不安感が少し薄れていく。
(みゆきさん…きっと、まなみさんには話してないんだな…よかった…)
大好きなまなみさんにまで、僕がオナニーしてるなんて知られたらとっても悲しいもの。男の子がオナニーしてるところを見て、まったく気にしない人なんて、きっとみゆきさんぐらいしかいないだろうし。
(そう考えると、見つかったのがみゆきさんで良かった…2人に嫌われずに済んだし…でも…一応、後でみゆきさんにお願いしておかなきゃ…僕のオナニーのこと、まなみさんに言わないでって…)
「どうしたんですか?坊ちゃん。なんか元気ないですねぇ」
「そう言われればそうね…わたる気分でも悪いの?」
全然喋ろうとしない僕を心配したのか、2人が声をかけてきた。
「…え?…そ、そんな事ないよ…と、とっても楽しいよ…そ、それにしても、2人ともスゴイなぁ…こ、こんなにおいしい料理、食べたことないよ」
「あら、子供のくせに、お世辞なんか言って。生意気ねわたる」
「クスッ…でも嬉しいです。坊ちゃんに喜んでもらえて…さぁ、遠慮なく、もっと食べてくださいね」
「う、うん…ありがとう、まなみさん、みゆきさん」
よく考えてみれば、僕は今、物凄い美人かつナイスバディのまなみさんと、可愛くそしてとってもグラマーなみゆきさんという、2人の素敵な女性に囲まれて食事をしてるんだ。こんな幸せなことはない。さっきまでの暗い気持ちが嘘のように消えていた。この後、気を取り直した僕は、存分に2人が開いてくれた歓迎会を楽しんだんだ。
(プルルルル・プルルルル…)
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。テーブルの上の料理が8割がたなくなった頃、不意に電話が鳴り始めた。
「誰だろう、こんな時に…せっかくみんなで盛り上がってたのにね」
ちょっと迷惑そうな顔をして、まなみさんが電話をとりに席を立った。
「先生、最近忙しいんですよ。次の個展がもうすぐ開かれるんで…」
「あ、そうなんですか…もしかして、迷惑だったかなぁ?そんな時にきて…」
「いいえ、そんなことないですよ。先生、昨日から坊ちゃんが来るの楽しみにしてたんですから」
「え?ホント?みゆきさん…」
「ええ、ホントですよ」
みゆきさんの話しを聞いて、なんだか嬉しくなった僕だ。あのまなみさんが僕が来るのを楽しみにしてたなんて。我ながら単純だと思うけど、僕はその時本当に嬉しかったんだ。けど、しばらくしてまなみさんが戻ってくると、打って変わって寂しい思いをすることになってしまう。まなみさんに急に出かけなければならない用事ができちゃったんだ。しかも、泊りがけで…。
「ええ!それじゃあすぐ行かなければならないんですか?」
「そうなのよ。個展に出展する作品のことでどうしてもって、スポンサーが…明日の朝8時から打合わせしたいって…」
「8時ですか…確かにここからだと、明日の朝一番で出かけても間に合いませんね」
「そうなのよ…だから、これから出発して、今日は打合せ場所の近くのホテルにでも泊まらないと…」
「まったく、失礼しちゃいますね…」
「しょうがないわ…スポンサーには逆らえないもの…絵描きの悲しさよ…な〜んてね…でも、わたるには本当に申し訳ないわね…折角遠くから来てもらったのに…」
「そんな…しょうがないよ。まなみさんの仕事なんだし…それに今日、こんな歓迎会まで開いてもらって、とっても嬉しかった…だから、まなみさん、僕のことなんか気にしないで…」
「ん…そう言ってもらえると助かるな…でも、ホントごめんね。わたる…」
本当のことを言えば、僕は寂しくて寂しくて、絶対まなみさんに出かけてなんか欲しくなかった。でも、そんな子供みたいなこと言ってまなみさんを困らせるわけにはいかないもの。僕はもう大人なんだから。
「じゃあ、先生。もうご用意を始めないと…」
「そうね…で、みゆき、悪いんだけどホテルに電話して予約とってもらえないかしら…私、これからシャワーを浴びてそれから出かけたいから…」
「ええ、わかりました」

それから数十分後のこと、僕達3人は玄関にいた。もちろん、まなみさんは出かけるために、僕とみゆきさんはその見送りだ。
「じゃあ、2人共ごめんね。私は、多分明日の夕方には帰って来れると思うけど…そうだ、みゆきは明日帰る予定だったわね」
「ええ、明日の正午には…申し訳ありません、先生。こんなにお世話になっておいて、挨拶もできませんけど…」
「そんなこと気にしないで、みゆき。私の方が悪いんだから…それと、わたるは暫くの間1人にしちゃうけど…大丈夫?」
「うん、大丈夫、まなみさんそんなに心配しないで…僕はもう中学生なんだから」
「あら…ウフ…立派になったこと…叔母さん嬉しいわ…それじゃあ、後をよろしくね」
「いってらっしゃい」
「お気をつけて」
家の中に戻るとみゆきさんは歓迎会の後片付けを始めた。キッチンの方からカチャカチャと食器の音が聞こえる。一人ぽつんとリビングのソファで休んでいた僕は、今更ながら、今この家にはみゆきさんと僕しかいないんだって実感し始めたんだ。夕方のオナニー事件が、僕の頭に鮮明に蘇ってくる。
(良く考えたら…どうしよう…みゆきさんと2人きりなんて…あぁ…恥ずかしくて、話しなんかできないよ…でも…みゆきさんには…まなみさんに話さないようお願いしなくちゃならないし…あぁ…どうしよう…)
僕は頭を抱え込むようにして、あれこれと悩んでいた。すると片付けを終えたみゆきさんが、食後のコーヒーを持ってきてくれたんだ。
「はい、坊ちゃん、どうぞ…」
「あ、ありが…とう…みゆきさん…」
「ん?…坊ちゃん、元気ないですねぇ…やっぱり、先生がいなくて、寂しいんですね」
「そ、そんなわけじゃ…」
「いいんですよ、強がらなくて…坊ちゃん、先生に逢うことをとっても楽しみにしてたんでしょう?先生だって、坊ちゃんが来ることをあんなに…」
「で、でも、違うんだ、みゆきさん…ほ、本当に寂しくなんか…」
「嘘。だって、坊ちゃんとっても大人しくなっちゃったんですもの…」
みゆきさんは本気でそう思っているみたいだった。僕の前に腰掛けたみゆきさんは、僕をとっても心配そうに見つめている。そんなみゆきさんを見ていたら、僕はとっても後ろめたい気持ちになってきた。僕のせいでみゆきさんが悲しい思いをするなんて嫌だもの。
「ほ、本当に違うんだ、みゆきさん。僕ちょっと考え事をしていて…」
「考え事?…」
「…っていうか、その…実は…その…」
「ん?どうしたんですか?坊ちゃん…」
「い、いや…その…」
僕は決心して、みゆきさんにお願いしようと思った。もちろん、オナニーのことをまなみさんに言わないでってことをだ。でも、みゆきさんの顔を見てしまうと、中々声を出すことができない。
「どうしたんですか?まさか、坊ちゃん具合でも悪いんじゃ…」
「そ、そんなんじゃ…あ、あの…み、みゆきさん…ちょ、ちょ…っと…」
僕が否定をするよりも先に、みゆきさんは立ち上ると、僕に近づき、隣に腰掛けた。そして、僕の前髪をすっとかきあげ、みゆきさんの額を僕のそれに合わせてきたんだ。まさに今、僕の目の前に、みゆきさんの顔があった。女性特有のとても良い香りが漂ってくる。頭がクラクラとしてきそうだ。
(う…あ…あぁ…み、みゆき…さん…みゆきさん…)
それはほんの数秒の出来事だったと思う。でも、僕にはとっても、とっても長く感じられたんだ。心臓が高鳴り、息遣いも荒くなる。
「う〜ん…熱は無いみたいですねぇ…ん?でも、お顔が少し紅い…かな?…」
「だ、大丈夫…大丈夫だから…」
もちろん、顔が紅くなったのは、体調のせいなんかじゃない。それは、僕が一番良く知っていた。
「違うんだ…あの…僕は…その…」
「はい?僕は…なんですか?坊ちゃん」
またしてもあどけない表情で僕を見るみゆきさんだ。思わず目を逸らし俯いてしまう僕。俯いた僕の目に、隣に座っているみゆきさんのオッパイが映った。こんなに近くで見ると迫力さえ感じるほど、やはりみゆきさんオッパイは大きい。オレンジ色のタンクトップから胸の谷間が見えている。あまりにも大きなオッパイのため、それは深くクッキリと形成され、見ていると思わず吸い込まれそうになってしまいそうだ。でも、今はそんなエッチなことを考えている場合じゃない。
(お、お願いしなくちゃ…恥ずかしいけど…お願いしなくちゃ…)
僕は自分に言い聞かせた。そして深く深呼吸した後、みゆきさんの顔をまっすぐと見つめて話しを切り出したんだ。
「あ、あの…み、みゆきさん…ぼ、僕…みゆきさんに…その…お、お願いがあるんだ」
「え?お願い?…」
きょとんと僕を見るみゆきさん。僕が急に大きな声を出したから、ちょっと驚いているみたいだった。
「な、何ですか?坊ちゃん…お願いって…」
「あの…ゆ、夕方の…夕方のことを…ま、まなみさんに…言わないで欲しいんだ…」
「夕方のことを…先生に、ですか?…え〜っと…何でしたっけ?」
みゆきさんは心当たりが無いようなそぶりだ。惚けているのか、本当に解らないのか、僕には判断がつかなかったけど。
「夕方の…僕の…その…僕の部屋でのことだよ」
「坊ちゃんの部屋?ですか?…」
「みゆきさん、僕に今日の献立を聞きに来たでしょ…」
「えっと…ああ、そうでしたね。確か…お肉とお魚どちらがって…それが、何か?」
みゆきさんの態度は、とても嘘をついているようには見えなかった。みゆきさんにとっては、僕のオナニーを見たことなんか、事件でも何でも無いみたいだ。僕にとっては一大事の事なのに。
「あの時…その…あの時…僕は…」
全然解ってくれないみゆきさんに、仕方なく僕は自分から話し始めようとした。けれど、いざそのことを口にしようとすると、恥ずかしさが込み上げてきて中々声にすることができない。僕は途方にくれていた。でも次の瞬間、驚いたことに、僕が全然言い出せずにいた言葉が、いとも簡単にみゆきさんの口からサラッと発せられたんだ。
「あの時の坊ちゃん…ですか?…あの時って、確か坊ちゃんオナニーしてましたよね」
「!!!」
あからさまなみゆきさんの発言に、僕は驚くと同時に、恥ずかしさで胸が一杯になった。自分でも、顔が更に紅くなるのが解るほどに。でも…でも、みゆきさんの態度はやはり、まったく変っていなかった。ごく自然に、ごく普通に、まるで世間話でもしているかのように(オナニー)って言ったんだ。
「坊ちゃんのオナニーが何か?…あら?どうしんですか、坊ちゃん。急に黙ってしまって…ん?あれ?またお顔が紅くなってきたみたい…」
「…そ…その…ことだよ…」
「え?そのことって…え〜っと…坊ちゃんのオナニーですか?」
「…う、うん…そう…」
みゆきさんは、平気で(オナニー)を連発する。僕はもう顔ばかりじゃなく全身が紅くなる思いだった。
「そ、それ…を…僕が…その…そ、それをしてたってこと…まなみさんに話さないで欲しいんだ…」
目をギュッと瞑り、恥ずかしさに絶えながら、僕はやっとのことでそれだけ伝えた。心臓は、鼓動が聞こえるほど高鳴っている。一方、そこまで話したところで、みゆきさんはようやく解ってくれたみたいだった。
「あぁ、そういうことですか…クスッ…クスクスクス…」
両手を口に添え、さもおかしそうに笑うみゆきさんだ。チラチラと僕を見る視線が、どことなくからかわれているようにも思える。
「ウフフ…大丈夫ですよ、坊ちゃん。安心してください。先生には、何も言ってませんから…フフフ…坊ちゃんがオナニーしてたなんて…クス…でも、そうか…坊ちゃんはそれを気にしてたんですね…クスクスクス…」
「え?…う、うん…」
「そうですよねぇ。坊ちゃんにしてみれば、先生には知られたくないですよねぇ」
「う、うん…け、けど…あ、あの…みゆきさんは…なんとも思わないの?…」
「私ですか?…私は別に。でもそうですね、そう言われれば、私みたいな女の方が少ないのかな?」
「う、うん…そう思う…男のあんなところを見て…全然驚かないなんて…少ないっていうより、き、きっと、みゆきさんだけだよ…」
「フフ…そうかもしれないですね。私は、免疫がありますから…」
「免疫?…」
意味が解らず、僕はみゆきさんの方を見た。みゆきさんの顔に悪戯っぽい微笑みが浮かんでいる。
「あのね、坊ちゃん…私には弟がいるんですよ…それもすっごく歳の離れたね…」
「弟が…歳の離れたって…」
「ええ、10歳も違うんです…まだ高校生なんですよ。その弟がね…フフ…ちょうど今の坊ちゃんくらいの歳から…ウフフ、こんなこと言ったら、弟に怒られちゃうかな?それくらいから、やり始めたんですよね…オナニー…」
「み、みゆきさん見たの?」
「ええ。もっとも本人は、こっそりと隠れてしているつもりだったみたいですけどね…でも…男の子って、坊ちゃんくらいの年頃の子は、ほとんど毎日、オナニーしてるでしょう?…だから、なんていうか、見るつもりが無くても目撃しちゃうんですよね…さっきの坊ちゃんの時みたいに…ウフフフフ…」
その時、みゆきさんは薄っすらと笑みを浮かべながら僕にウィンクをした。まるで、お見通しなんだぞと言わんばかりに。
「そ、そんな…ぼ、僕は…ま、毎日なんて…」
僕はみゆきさんに逆らおうとした。毎日オナニーしてるなんて思われたく無かったんだ。でも、そんな僕に対しみゆきさんは…
「フフ…はいはい。解ってますよ…ウフフ…」
むずがる子供をなだめるようにそう言った。僕は、それ以上は何も言えなくなってしまったんだ。だって、本当はみゆきさんの言う通りだったんだもの。実際、去年の夏にまなみさんの太腿でオナニーを覚えてから、僕は数え切れないくらいオナニーしていた。その僕が、弟さんのことを実に良く知っているみゆきさんに向かって、反抗できるわけがない。首をすくめ小さくなってしまった僕だ。
「あら?坊ちゃん、そんなに気にしないで…男の子がオナニーするのは自然のことなんですから。私は坊ちゃんのオナニーしてるところを見ても、別になんとも思ってませんよ…それと…先生には、このことは2人の秘密にしておきましょ…ね?坊ちゃん」
「う…うん…」
項垂れている僕に、みゆきさんは優しくそう言ってくれた。
「さてと、あら?もうこんな時間なんですね…坊ちゃん、お休みになりますか?」
僕にとっては、いつもならまだ眠りにつくようなな時間じゃなかった。けど、旅をしてきたせいか身体が疲れている。僕は、お風呂に入ってから今日はもう寝ようと思った。でも本当のことを言えば、みゆきさんと話をしているのがちょっと恥ずかしくて、早くこの場から逃出したかったんだ。
「うん…お風呂に入ってから、今日はもう寝るよ」
「そうですね。坊ちゃん今日はお疲れですものね。お湯はもう沸いていますから、いつでもお好きなときにどうぞ」
「ありがとう、みゆきさん」
僕は、急いでお風呂に向かうことにした。