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Share MILF -島原 吉野-

其の壱

ようこそShareMAID(シェアメイド)へ!!
私達シェアメイドは 『 働くミセスを応援する! 』 を合言葉に、日々お忙しい奥様、お母様達の手足となって
『 お家のお仕事 』 をサポートする家事代行サービスをご提供いたします。
奥様、お母様達の貴重なお時間を少しでも有効にご活用して頂けますよう、お好きな時にお好きな分だけ、
どうぞお気軽に私共を 『 シェア 』 してくださいませ!


光沢のある白地の用紙に薄桃色の文字。
少々派手な装いのチラシ広告に書かれた住所を頼りに吉野が辿り着いたのは、一見ごく普通のマンションの一室だった。
あたかも個人宅のようでインターホンを鳴らすのも躊躇われたが、表札には確かに小洒落たアルファベットの筆記体で『 ShareMAID 』 と表記されている。
吉野はそっとハンドバックからあるものを取り出した。
それは派手なチラシとは対照的に乳白色を基調とした落ち着いた色合いの和紙の封筒だ。
そしてまるでお守りやお札の類にそうするように封筒を額に当て拝むように一礼すると、漸く吉野はインターホンに人差し指を伸ばしていった。
「はい!シェアメイドです!」
刹那、ファストフードの店員真柄の実に元気のある女性の声がインターホンから聞こえてきた。
思わずビクッとしつつ、吉野はしどろもどろに返事をする。
「あ、あ、あの……わ、私は……し、しま……島原というものですが…」
「お電話くださった島原様ですね!お待ちしておりました!どうぞお入りください!」
言い終わるや否やドアノブの辺りからカチャリと冷たい金属音が響いた。
どうやらロックが解除されたようだ。
ここまで来たらあとは野となれ山となれ。
吉野は覚悟を決めるかのように小さくウンと頷くと、恐る恐るドアを開けていった。
ごく普通のマンションのように見えた外観とは裏腹に、中はまるで役所の窓口のような無機質な空間が広がっていた。
そこにはおそらくインターホンの声の主だろう。
吉野よりは4,5歳若い20台半ばくらいの年齢と思われる女性が一人立っていた。
ここの制服なのだろうか。
黒いワンピースに白い小さなエプロンをあしらったその落ち着いた雰囲気の衣装はあたかも西洋のメイド服のようだ。
「島原様、私共シェアメイドをお尋ねくださりどうもありがとうございます。さ、どうそこちらへ」
「あ、は、はぃ…」
ガラス張りのローテーブルを挟んで二人掛けのソファが向い合せに並べられていた。
その一つに吉野が腰を降ろすと、メイド服のその女性は反対側に腰掛ける。
「こちらのご利用は初めてでございますよね。それではまず私共のサービス内容をご説明させて頂きますね」
「え、あ、あ、あの…」
元気の良い女性が大抵そうであるように、彼女もかなり押しの強そうな女性だ。
実はまずこちらから訊ねたいことがあったのだが全く口を挟むことができず、結局そのままチラシ広告に書かれた内容を一通り聞く羽目になってしまった。
「私達は、働く奥様、お母様たちを応援する!をモットーに家事代行サービスをご提供しております。掃除洗濯炊事の家事全般は勿論、お庭のお手入れ、ペットの散歩、お子様のお世話など、私たちが出来得ることならば何でもお手伝いさせていただきますので何なりとご相談くださいませ」
「あ、あの……その……じ、時間……時間の…」
「はい、提供時間についてですね。私共のサービス提供時間は朝9時から夕方6時までの9時間です。この9時間を3分割して、午前9時から正午までをモーニングサービス、正午から午後3時までをデイタイムサービス、午後3時から午後6時までをイヴニングサービスと呼び若干提供価格が異なっています。なおサービスは1時間単位で提供させていただきますが、3時間まとめてご依頼くださると割引料金での提供となりお得にご利用いただけるようになっています」
ちゃっかりと費用の説明までするなんて流石だなと思いつつも、吉野はここぞとばかりに食いついた。
何しろこのまま彼女のペースで話されては、本当に普通に『表』のサービスを受けることになってしまいかねない。
「あ、あ、あ、の……そ、そ……そ、その時間帯のことで……お、お話が…」
「はい、なんでございましょう?」
「あ、あの……私は、その……その後の……6時以降の時間をお願い……したいのですが…」
瞬間、今まで絶えず笑顔を浮かべていた彼女の顔が不意に真顔になった……ような気がした。
が、それもつかの間。
「はい、サービス時間の延長についてですね。イブニングサービス時間帯よりも少々料金はお高くなりますがお客様のご都合により延長サービスも承って…」
違う、そんな話じゃない。
吉野は慌てて彼女の話を遮った。
「ち、ち、ち、違うんです。わ、わ、私がお願いしたいのは、つ、次の時間帯……よ、四つ目の時間帯なんです!」
柄にも無く慌てた様子で吉野は一息でまくし立てた。
そんな吉野を見るメイド服の彼女の表情は、今度こそ怒っているとも怯えているとも取れそうな摩訶不思議な表情に変わっていった。
吉野の言葉に何か心当たりがあるのは間違いないだろう。
少なくとも吉野にはそう思えたが、彼女はあくまでも知らぬ存ぜぬといった態度を貫こうとしてくる。
「島原様……私共が提供しているサービスには3種の時間帯しかございませんが…」
取り付く島もない……が、その時、吉野は一番最初にすべきある大切なことを思い出した。
少しばかり取り乱した様子でハンドバックから何やら取り出す吉野。
「こ、こ、これを……わ、私、こ、これを頂いてきたんです!」
吉野がハンドバックから取り出したもの。
それはあの例の乳白色の和紙の封筒だった。

「それではこちらでお待ちくださいませ」
吉野が通されたのは、先ほどいた役所の待合室のような部屋に隣接する個室。
毛並みの良い絨毯の上には明らかに高級そうなソファやテーブルが配置され、壁に掛けられた時計も天井から吊るされた照明もどこか小洒落た感じがする。
ここがシェアメイドの応接室であることは間違いないだろう。
まるでモデルハウスのような空間は、今の吉野にとってはかえって居心地が悪いものだ。
しばらくの間、ばつが悪そうに部屋の片隅に立ち竦んでいることしかできない吉野だった。
(カチャリ…)
その時、扉が開いた。
「ようこそいらっしゃいました。私、このシェアメイドの代表を務めております吉原高尾(よしわらたかお)と申します」
吉原と名乗ったその女性は、30代半ばくらいだろうか? 吉野より4、5歳は年上のように思える。
エプロンこそ無いものの先程応対してくれた女性と同じような黒を基調としたシックなワンピース。
決して衣装は派手ではないのだが、緩やかにウェーブする艶やかな黒髪や目鼻立ちのはっきりとした美人顔のせいだろう、同性の吉野から見ても思わず溜息が出てしまいそうになるほど彼女はとても煌びやかに見えた。
「は、初めまして……わ、私は…」
「島原吉野(しまばらよしの)様……ですね? さ、どうぞお座りください」
まるで値踏みするように上目使いに吉野を見た高尾だ。
手には事前に吉野が渡した例の和紙の封筒を持っている。
「は、はい……し、島原です。し、失礼します」
「島原様、この封書……この和紙と墨は、都心から遠く離れた山中に存在するとある小村で作られた特別なものなのです……」
吉野の向いのソファにゆっくり腰を下ろしながら、高尾は手にした封筒を差し出した。
「え?ふ、封書…ですか?……」
「はい、この和紙と墨は特別なものなのです。決して偽物など作ることはできない。その上この筆跡。この紹介状が本物であることに疑う余地はありません」
「は、はぁ…」
いったい何の話だろう?吉野は少々戸惑った。
「ですので、この紹介状に書かれている 『島原吉野』 様が間違いなく貴方様ご本人であることをまず確認させていただきたいのです」
「あ…」
吉野は高尾の言わんとすることをやっと理解した。
高尾は証明してもらいたいのだ。
紛れもなく自分が紹介状を渡された島原吉野本人であることを。
「は、は、はい。こ、こ、これを……こ、この、め、免許証でよろしいでしょうか?…」
滑稽なほど慌てながら運転免許証を差し出す吉野。
それとは対照的に落ち着いた様子でそれを受け取る高尾。
そして免許証の写真と吉野の顔を交互に見つめる。
「はい、結構です。なるほど、島原吉野様……に間違いございませんね。どうもありがとうございました」
やっと納得してくれたのか、高尾は優しく微笑んだ。
「疑い深くて申し訳ございません。気を悪くされましたでしょう?」
「い、いえ、そ、そ、そんなことは…」
吉野は理解していた。
確かにこれから自分が相談する内容を考えれば、高尾は慎重にならざるを得ないのだろう。
「それでは次に……この紹介状を渡されたときに説明をお受けになったと思いますが、家族構成の分かる住民票を提出願えますか?」
「は、はい……こ、これを…」
吉野にとってそれはあまり他人に見せたくないものだったが、これが決まりであるならば仕方がない。
吉野はおずおずとそれを差し出した。
するとやはり、一通り住民票に目を通した高尾から吉野があまり聞かれたくないことを質問されてしまう。
これも毎度のことと言えばその通りなのだが。
「島原様とお子様の二人暮らし……なのですね。失礼ですが、旦那様とは…」
「は、はい……息子が生まれる前に……」
「…………そうですか」
しばしの間、まるで何を読み取ろうとするかのように吉野の表情を見つめていた高尾だったが、吉野の意に反しそれ以上は何も詮索してこなかった。
そして……
「島原様、これで書類審査は完了しました。」
「し、審査?」
「はい、島原様がサービスをお受けになる資格がおありになるか否かの審査です。私共が提供する四つ目の時間帯のサービスの…」
「よ、四つ目の…」
「はい、四つ目の……云わば『裏の時間帯』……ナイトサービスです」
「ナ、ナイト…サービス…」
吉野はゴクリと唾を飲み込んだ。

「島原様がお聞きになったように、私共は確かに四つ目の時間帯のサービスを提供しています。しかしこれはあまり人には知られたくはないサービスなのです」
「は、はい…」
吉野も少しは理解している。
そういうサービスだからこそ吉野はわざわざここにやってきたのだから。
「ですので、少々面倒な紹介状という形式をとらせて頂いております。身元が確かなことを確認させていただくのも確実に秘密を守っていただきたいためです。最初に少々脅かせてしまいますが…」
「な、なんで……しょう?…」
「もし秘密が守られなかった場合、それなりのペナルティを追ってもらわねばなりません。詳細は伏せさせてもらいますが……それでもよろしいですか?」
「ゴクッ…」
少々凄みの聞いた低い声を出した高尾に、言葉通りに脅かされてしまった吉野だ。
けれど…
「は、は、はい……お、お願いします。ぜ、絶対に秘密にします……だ、だって……わ、わたし……も、もう……し、心配で……心配で……」
吉野とて覚悟の上でここに来たのだ。
悩みに悩んだ上で、覚悟を決めてここまで来たのだ。
そんな切羽詰まった吉野の様子が分かったのだろう。
いや、ここに依頼に来る客は皆、きっと吉野のようにある意味追い込まれた状態で来るのに違いない。
高尾はそういう客の対応は心得ているようで、努めて優しい表情で吉野に語りかけた。
「わかりました、島原様。微力ではありますがどうか私共に協力させてくださいませ。それではまずは……ナイトサービスについて説明させていただきますね。おおよその話は紹介状を渡された方からお聞きされているかもしれませんが…」
そう一言断りを入れてから、高尾はナイトサービスの説明を開始した。
それは大まかな話を聞いていた吉野にとっても、想像していた以上にショッキングな内容だった。
「ナイトサービスは、その目的によって二種類のサービスに分かれています。一つはShareWIFE(シェアワイフ)、もう一つが ShareMILF(シェアミルフ)です」
「シェ、シェアワイフ……とミ、ミルフ?…」
「はい。まずシェアワイフですが、これは奥様に成り代わって旦那様との夜のお務めを果たさせていただくサービスです」
「夜の……お務……め?……え? ……そ、そ、そ……それって… 」
「はい、要は、旦那様のセックスの相手を務めさせていただく、ということです」
「セ、セック……スの……」
ダイレクトな高尾の言葉に思わず頬が赤らむ吉野。
そんな吉野をよそに、高尾はあくまでも事務的に冷静に話を進めていく。
「驚かれるのも無理はありませんが、島原様、様々な諸事情によっては旦那様の夜のお相手が務まらない、務められない奥様達も多くいらっしゃるのです」
「…………」
「生理を含め奥様の健康状態がすぐれない時や、あるいは奥様が妊娠され安静にしていなければならない時などです。あとは単純に旦那様の性欲が非常にお強くて、毎日毎日、毎晩毎晩、セックスを強要されるような場合ですね。そんな旦那様の場合は、とても付き合いきれない、辛いとお思いになる奥様もいらっしゃるのです」
「そ、それは……そうでしょう、ね…」
ほんの少し羨ましいと思ってしまう気持ちを抑えた吉野だ。
「そんな時に、奥様に代わって私共が旦那様のお相手を務めさせていただくのです」
高尾の話は分からないでもない。
けれどそれでは……吉野は頭に浮かんだことを思わず口走ってしまっていた。
「で、でも、それじゃあ、ま、まるで、せ、性風俗…」
「島原様、私共は決して性風俗サービスを提供しているわけではありません」
吉野の言葉を遮るように、高尾は毅然と言い放った。
「私共はあくまでも働く奥様達の味方……そのスタンスは『表の時間帯』となんら変りません。その証拠に、私共はあくまでも奥様達からのご依頼しかお受けしないのです」
「あくまでも、奥様……から?…」
「はい、そうです。島原様、奥様達が旦那様のお相手をできない状態が続けば、どんなに奥様に正当な理由があるにせよ、結局それは奥様達のご不幸に繋がってしまうのです。例えば旦那様の不倫という形で」
「ふ、不倫……奥様達の……不幸に…」
確かにそれは容易に考えられることだった。
「不倫となればいろいろな問題が生じます。場合によっては訴訟問題に発展する場合もあります。そんなことになるくらいなら、とお考えになる奥様達もいらっしゃるのです。また素性の分からない女性を相手にされるくらいならいっそ自分が用意した女性を、とお思いになる奥様もいらっしゃるようです」
それは吉野にもわかる気がした。
自分が知りもしないどこの誰とも分からない女と不倫され悶々とした日々を過ごすくらいなら、いっそのこと自分が相手をあてがってやり孫悟空を掌で遊ばせる釈迦の気分にでも浸っている方が精神衛生上にも良いだろう。
「わ、分かる……気がします…」
「ご理解いただけて助かります。あともう一つ、私共が奥様達のためと胸を張って言える理由の一つに『ご報告』がございます」
「ご……報告?」
「はい。シェアワイフをご利用いただいたお客様には、サービス終了後、実施した作業内容を包み隠さずご報告させていただいているのです」
「作業内容?……そ、それって…」
「はい。ご依頼者様の旦那様と実際どのような行為をしたのかをです。作業時間はどのくらいだったか?作業場所はどこだったか?作業中旦那様は『何回』満足されたか?また、その方法は?等、出来得る限り詳細にご依頼者様にご報告をさせていただいているのです」
しばし吉野は唖然としてしまった。
自分以外の女性との夫のその時の様子を詳細に聞かされるなんて吉野には考えられないことだったからだ。
そんな吉野の気持ちも高尾には手に取るようにわかるらしい。
「島原様が困惑するのも理解できます。いえ、きっと普通ならばそのような方のほうが多いでしょう。ですが、島原様。私共にサービスをご依頼くださるお客様は少々事情が異なるのです」
「事情が?」
「はい。私共のサービスを利用くださるお客様は少なからず旦那様に負目を感じておられる方も多いのです。旦那様の期待に応えてあげたい、けれど精神的、肉体的な理由でそれが出来ない。悩みに悩んだ末、藁をも掴む思いで私共の助けを必要としてくださるのです。きっと少しでも旦那様に良い思いをとお考えになられるのでしょう。旦那様の好みの体位やどこをどうすればお喜びになるのか等を事細かに教えてくださる方もいらっしゃいます。そして、その成果を是非聞かせて欲しいと仰る奥様達もいらっしゃるのです」
「……わ、分かる……ような気も…します…」
高尾の話を理解できたというより、毅然とした態度の高尾の迫力に負けて思わずそう答えてしまった吉野だった。
「ありがとうございます。島原様は本当にご理解がお早くて助かります……いえ、いくら説明しても、私共のサービスを低俗な性風俗だ、などと頑なに仰られる方々もいらっしゃるので……」
「そ、そんな!!」
「え?」
不意に、今度は吉野が高尾の言葉を遮るように少し大きめの声を上げた。
それは、高尾に何か訴えたいことでもあるようなそんな素振りだった。
けれど……
「あ……ご、ご、ごめんなさい。お、大きな声を…………あ、あの……シェ、シェアワイフが……せ、性風俗とは異なる……ということは分かりまし…た…」
「……?…………ご理解、ありがとうございます。それでは次にシェアミルフの説明に移らせていただきますね」
「は、はい……お、お願いします」
暫し訝し気に吉野を見つめていた高尾だったが、吉野はそれ以上何も語らないと感じ取ったのだろう、高尾は説明を再開した。
「シェアミルフ……こちらは少々漠然とした言い方になってしまうかもしれません」
「漠然とした?」
「はい。シェアワイフの場合は、ご利用になる目的・理由は奥様方それぞれに様々ではありますが、私共が提供するサービスとしては結局旦那様の性欲処理、それしかないのです」
それを言っては身も蓋も無い、という感じがしないでもないが、まぁ高尾の言うことはその通りだろう。
依頼側がどんなに様々な理由を抱えていようとも、高尾達側にすればやることは結局依頼者の夫とのセックスなのだ。
「ですが、シェアミルフはそうではありません。ご依頼者の……お相手によってこちらの作業が変わってくるからです」
「あ、相手の……そ、その……お、お相手とは?…」
正直それは吉野にも分かっていることではあった。
だかろこそ、ここを訪れたのだから。
そして、高尾の口から予想通りの回答が返ってくる。
「シェアミルフのお相手は、日々お忙しいお母様達の……お子様達です」
再びゴクリと唾を飲み込んだ吉野だった。