第一回 宇治拾遺物語

第一回 宇治拾遺物語


三、鬼ニ瘤被取事

 これも今は昔、右の顔に大きなこぶのあるおじいさんがいました。大きなみかんくらいの大きさでした。薪をとりに山へ行きましたが、雨風がひどくなり帰れなくなってしまいました。恐怖に怯えながら木の穴に潜んでいると、遠くからにぎやかな音がします。人の気配に安心して見てみると、赤かったり、黒かったり、目が一つだったり口がなかったりと、恐ろしい姿をした鬼共が100人ほどひしめき集まって、おじいさんの隠れていた木の周りをとりかこんで酒をくみかわし、踊りをおどっていました。おじいさんは「私も飛び出して踊ろう。死んだらそれまでだ」と思い、鬼の前に飛び出しました。鬼はとても喜び、「こんな踊りは見たことがない。次回の宴会にも必ず来るように」と言いました。おじいさんは「かならず参りましょう」といいましたが、別の鬼が「なにか質をとっておこう。こぶは福の物なのでこれを取っておけばきっと惜しんでまたくるであろう」と言ったので、おじいさんは「こぶだけはお許し下さい」と泣いて頼むので、鬼は「そんなに大切なものならなおさら」とこぶを質に取って、おじいさんを返したのでした。おじいさんはこぶがなくなったのが嬉しくって、薪を取ることも忘れて家に帰りました。

 隣に住んでいたおじいさんは左の顔に大きなこぶがありました。こぶの無くなったおじいさんに話を聞くと、同じように山の中に入り、木の穴に隠れて鬼を待ちました。鬼に呼び出された隣のおじいさんはへこへこと下手な踊りを踊ったため、鬼は怒って、「前のこぶを返すからもう来るな」と右のほっぺに投げつけると、隣のおじいさんは両方にこぶがついてしまいました。むやみにうらやましがるものではありませんね。


 以上はおなじみ「こぶとりじいさん」のお話です。じつはこの話は鎌倉時代に既に語られていたお話だったのです。心優しいおじいさん(おばあさん)と、欲張りな隣のおじいさん(おばあさん)という組み合わせは、「はなさかじいさん」や「したきりすずめ」など、昔話に多くみられます。

 また『宇治拾遺物語』にはほかにも皆さんによく知られた物語がおさめられています。芥川龍之介の『鼻』や『芋粥』『地獄変』のモデルになった話もあります。


六、中納言師時法師玉茎検知事

 これも今は昔、中納言師時という人がいました。あるとき彼の所に墨染めの衣に不動袈裟をかけた立派な僧が訪れました。中納言が「おまえはなにをする僧だ」と尋ねると、僧は哀れな声で「この世ははかなく、煩悩にとらわれて浮き世から逃れられないのです。このことが無益に思えて、私は煩悩を切り捨てて、修行に打ち込んでいる聖人でございます」と言いました。中納言は「煩悩を切り捨てるとはどのようなことだ?」と尋ねると、僧は「これをご覧下さい」と言って、衣の前をまくりあげると、なんと○○はなく、ひげばかりでありました。「これは不思議なことだ」と見ていましたが、下に下がっている袋が不審に思えて、側に使える侍に命じて、僧を寝かせ、足を広げて押さえさせました。そして十二三歳の小侍を呼んで股の上をさすらせました。僧は最初はすました顔をしていましたが、いじわるくさすり続けると、毛の中から松茸の大きな物が、ふらふらと出てきておなかにうちつけるのでした。中納言と侍達、そして僧までも転げ笑うのでした。

 ○○を袋に隠し米粒を練ったのりで毛をつけて、知らん顔して人をだまし、物を乞わんとしたインチキ法師だったのでありました。


 いや〜ん (*^_^*)。いつの時代もこういう話は好きなようです。ちょっと露骨すぎるお話ですが、ほんとに『宇治拾遺物語』のなかにあるんですよ。空也聖人など立派なお坊さんのお話が紹介されている一方で、タヌキにだまされたお坊さんの話や欲張りなお坊さんが失敗する話も紹介されています。


二七、季通欲逢事々

 昔、駿河前司橘季通という人がいました。彼が若かったとき、ある女の所にこっそりと通っていたのですが、その家の侍達は、「見知らぬ若造が夜中にこっそり出入りしてるらしいぞ。捕まえてこらしめよう」と企てました。そんなことも知らずに、季通は使いの少年を一人連れて、女の家を訪れ、使いの少年に「明け方に迎えに来て下さい」と言って帰しました。様子をうかがっていた侍達は、家中の門を閉じて、見張りをつけ、帰れないようにしてしまいました。家の異変に気付いた女と季通はあれこれ思案をめぐらしましたが、逃げられそうにありません。

 そうこうしているうちに、明け方になり、使いの少年が迎えに来ました。様子を察した少年は「読経の僧の童子でございます」となのり、通り過ぎました。季通は「頭のいいやつだ」と感心していると、道の方から「ドロボー!!殺されるー!!」と女の叫び声が聞こえたので、門の前の侍達は急いで声のほうへかけつけました。少年の仕業だと悟った季通は、このすきに門から逃げ出すことに成功したのでした。

 少年と合流した季通が「どのように仕組んだのか?」と尋ねると、「門の前に侍が立っていて問いつめられたので『読経の僧の童子」だと名乗って過ぎたのですが、怪しまれると都合が悪いので、隣の家の少女が用を足していたところを、頭をつかんで服をはぎとったら大声で叫んだので、侍達を引き寄せることに成功したのです。きっと季通様が逃げ出せると思ったので、わたしもその場を去って、こうやって合流することができました」と答えました。少年でもかしこく気が利いているものであります。


 いじわるな侍の罠にはまった主人が、頭の良い使いに助けられたというお話でした。こっそりと夜に女の元を通って愛をはぐくむのがこの時代の恋愛だったのですが、女の家族に認められないうちに見つかってしまっては大変な事になってしまいます。 夜中に訪れてそのままお昼まで眠ってしまい、恥ずかしい思いをしたという話も残っています。秘密の恋をするのも大変ですね。


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