‘福羽(ふくば)’(1899年作出)
新宿植物御苑掛長であった福羽逸人氏が、フランスから導入した‘General chanzy(ゼネラル・シャンジー)’から実生選抜して作出した、日本で育成された最初の品種だそうです。果重が70gにもなる大果品種だそうです。明治時代は新宿御苑から門外不出とされていたそうですが、大正時代に苗が普及されるようになったそうです。1921年(大正10年)から1970年(昭和45年)にかけて栽培されていた息の長い品種だったようで、石垣栽培と呼ばれる促成栽培の一種で有名だったそうです。現在は営利栽培は行われていません。
‘ダナー’
アメリカのカリフォルニア大学で育成されて1945年に発表された品種で、日本には昭和25年頃に導入されたと言われているようです。1962年(昭和37年)から入荷され、1980年代に‘宝交早生’や‘麗紅’が登場するまでは日本で一番入荷量が多かった主要な品種だったそうですが、1990年頃に入荷されなくなったそうです。
‘宝交早生(ほうこうわせ)’(1953年作出、兵庫県)
‘幸玉’と‘タホー’から作出されたそうです。栽培のピークは1980年代半ばだったそうです。促成栽培に向かないこと、果実が傷みやすいことから、一部の地域を除き営利栽培されなくなったそうですが、栽培育成されてから50年が経った現在でも、一般向けの種苗カタログに載っています。
‘とよのか’(品種登録1984年、野菜・茶業試験場久留米支場)
‘ひみこ’בはるのか’により育成された品種だそうです。平均果重約16グラム、Brix糖度約10%。日持ちが良く、モモの香りがするのが特徴で、西日本を中心に栽培されていました。
‘女峰(にょほう)’(品種登録1985年、栃木県)
‘はるのか’、‘麗紅’、‘ダナー’を基に育成された品種だそうです。平均果重12〜13グラム、Brix糖度8〜10%。品質が良く栽培が容易なことから東日本を中心に栽培されていました。
‘アイベリー’(愛知県)
別名は‘愛ベリー’で、愛知県で育成されたことから名付けられたそうです。種苗登録されているかどうか不明で、交配親に関するデータは不詳です。大果系(大きいもので50グラム以上)の品種で、他の品種の育種親として利用されているようです。
‘章姫(あきひめ)’(品種登録1992年、静岡県)
静岡県の民間育種家であった萩原章弘氏が、‘久能早生’ב女峰’より育成した品種だそうです。平均果重約18グラムと他の品種より大きく、Brix糖度は約8〜11%だそうです。時々四季成り性を示すそうです。やや高温に弱いらしいです。
‘とちおとめ’(品種登録1996年、栃木県)
‘久留米49号’ב栃の峰’により育成された品種だそうです。‘女峰’と比較して、果実が大きく(平均15g)、糖度が高く(Brix糖度9〜10%)、酸度が低いという特徴があるそうです。
‘さちのか’(品種登録2000年、野菜・茶業試験場・久留米支場)
‘とよのか’בアイベリー’により育成された品種だそうです。果実は‘とよのか’より小さいものの、日持ちが良く、糖度が高く、ビタミンCが豊富という特徴があるそうです。
‘北の輝(きたのかがやき)’(品種登録2000年、野菜茶業試験場・盛岡支場)
‘ベルルージュ’בPajaro(パファロ)’により育成された品種だそうです。萎黄病に中程度の抵抗性を持ち、収量が高いのが特徴のようです。中間型品種と呼ばれる、普通の一季成り性品種より高温・長日下における花芽分化に優れる品種の一つだそうです(研究報告のデータを見る限り短日性のようで、長日性の四季成り性品種とは異なります)。休眠が深く、休眠が打破されるのに必要な低温遭遇時間は5℃以下で1000〜1250時間と言われています(‘女峰’、‘とよのか’は数百時間程度)。一季成り性品種では休眠が打破されてからは花芽分化しなくなるそうですが、加温するなどして低温遭遇時間を短くすると休眠が打破されず、花芽を分化する期間が長くなります(寝惚けていると表現されるらしいです(^^;)。この性質を利用し、長期の収穫が出来る「低温カット栽培(寒冷地向き半促成栽培)」という栽培方法に向いているそうです。
‘大石四季成(おおいししきなり)’(品種登録1970年、福島県)
民間の育種家であった大石俊雄氏が育成した日本の古典的な四季成り性品種だそうです。‘Institute X2’を種子親とし、日本最初の四季成り性品種である‘大石四季成一号’(1954年[昭和29年]作出)を花粉親として育成されたそうです。育成中は‘大石四季成り二号’と言う品種名だったそうですが、種苗名称を登録する際に‘大石四季成’と変えられたそうです。
‘サマーベリー’(品種登録1988年、奈良県)
奈良県の農業試験場の泰松恒男氏が‘夏芳’と‘麗紅’の自然交雑実生系統から育成した四季成り性品種だそうです。‘サマーベリー’が育成される以前の四季成り性品種は草勢が弱いというイメージがあったそうですが、それを覆した草勢が強い画期的な四季成り性品種だそうです。また、果実が硬くて日持ちが良いという長所もあるそうです。
現在栽培されている品種として、「平成13年度東京都中央卸売市場青果物流通年報」には、‘女峰’、‘とよのか’、‘アイベリー’、‘とちおとめ’、‘章姫’が取り上げられています(それ以外の品種はその他扱い)。今からおよそ10年くらい前は「西の‘とよのか’東の‘女峰’」と言われるくらい、西日本では‘とよのか’、東日本では‘女峰’が栽培されていて、1990年には日本で生産されたイチゴの95%がこの2品種で占められたそうです。しかし、現在、‘女峰’は‘とちおとめ’に取って代わられつつあるそうです。また、各地方がオリジナルの品種を育成・栽培しているのが現状のようです。
なお、「平成13年度東京都中央卸売市場青果物流通年報」によると、平成13年のイチゴの取扱高は、数量では7位(1位・ミカン類、2位・バナナ、3位・リンゴ類、4位・スイカ類、5位・メロン類、6位・ナシ類)、金額では1位だったようです。
イチゴの栽培で重要になるのは花芽分化だそうで、これが早いか遅いかで出荷時期が左右されるそうです。ここでは特に大きな影響を及ぼす温度と日長について紹介したいと思います。
現在、日本で栽培されている主要な品種は一季成り性品種だそうですが、花芽分化は一定より短い日長でないと花芽分化しない質的短日性だそうです。しかし、温度によって左右される物らしく、30℃では全く花芽が分化せず、24℃では12時間以下の日長で、17℃では16時間以下の日長で花芽分化するそうです。更に、5〜9℃では24時間日長でも花芽を分化することが出来るそうです。このように、温度が低くなると、花芽分化可能な日長の範囲が広くなるようです。自然条件下では、一年に一度、秋になって気温が下がり、日長が短くなる時期にしか花芽分化しないそうです。同じような環境の春に花芽分化しないのは、この時期は栄養成長が活発になるために、花芽分化が抑えられるためであると考えられているそうです。
イチゴには一季成り性品種とは別に四季成り性品種と呼ばれる品種もあります。先述しましたが、四季成り性品種は冬季を除くほぼ一年を通して花芽分化し、着果するという特徴があるそうです。国内のイチゴの生産では、夏季が端境期になりますが、この時期は主にアメリカから果実を輸入しているそうです。しかし、輸入果実より国産品で需要を賄いたいと言う要望があることから、夏でも果実を生産できる四季成り性品種によってそれを満たそうとしているそうです。主に、北海道や東北地方など寒冷地を中心に生産が試みられているようですが、まだ少ないようです。
四季成り性イチゴの花芽分化に関しては、15〜25℃くらいの温度では短日より長日でより開花しやすい量的長日性を示すそうです。このため、人為的に温度や日長を変化させなくても、自然条件下で冬以外の時期に花芽を分化し着果することが出来るそうです。ただし、温度が30℃に近いような高温の場合は、短日(13〜14時間以下)で花芽を形成しなくなるとも言われているようです。
四季成り性の形質は突然変異に由来するそうですが、ヨーロッパでは1847年まで遡ることが出来るそうです。また、アメリカでは、‘Bismark’という品種の突然変異に由来する‘Pan American’という品種(1898年発見)が四季成り性品種の育種素材として利用されたそうです。この他、F. virginia ssp. glauca を栽培品種に交配させ、日長の長短に関わらずコンスタントに花を咲かせる Day-neutral型品種という品種が、1970年代後半にカリフォルニア大学で育成されたそうですが、Day-neutral型品種の花芽分化の日長反応に関しては、従来の四季成り性品種とほとんど変わらないとする研究報告もあるそうです。
四季成りの形質は、短日の形質に対して遺伝的に優性だそうですが、遺伝様式に関しては、単因子優性、補足遺伝など諸説あるそうで、明らかにされていないようです。これは、イチゴが8倍数体(2n=8x=56)で遺伝が複雑になることによるそうです。
なお、イチゴの四季成り性品種は冬季を除いてほぼ一年を通して着果させることから「四季成り性(英語でeverbearing)」であって、「四季咲き(英語でperpetual)」とは区別した方が良いと思います。
果実は偽果で食用となる部分は花床(花托)です。本当の果実は表面に付いているツブツブで、痩果と呼ばれています。果実(正確には花床ですが)の成熟は低い温度が向いていて、高い温度では果実が肥大しにくく酸味が低下しないそうです。また、果実の肥大には、植物ホルモンの一種であるオーキシンが必要で、痩果がオーキシンの合成に関わっていると言われています。痩果を取り除くと果実が肥大しなくなりますが、痩果の一部を取り除いて他をそのままにしておくと、痩果を着けたままの部分のみ果実が肥大する奇形果が形成されるそうです。また、痩果を取り除いても、オーキシンを塗布することで、正常の果実とほとんど変わらない果実を形成させることが出来るそうです。
ビタミンCが豊富に含まれていることでも知られていて、品種にもよるようですが果実100グラム当たりに80ミリグラムが含まれているそうです。
イチゴの花は白色ですが、近縁のキジムシロ属の Potentilla palustris を属間交配させることによって、‘ピンクパンダ’や‘花笠小町’(それぞれの本名?は‘フレール’、‘セレナータ’で、イギリスで作出)のような赤い花を咲かせる品種が育成されたそうです。なお、‘ビバローサ’と言う四季成り性の品種が家庭向けに販売されていますが、これは、ワイルドストロベリーの品種のようです。
野菜か果物かと言うことが取り沙汰されることがありますが、扱う分野で異なります。草本性植物を野菜として扱っている日本の園芸学上では野菜ですが、海外の園芸学上では果樹とされています。生産段階では野菜ですが、流通段階や卸売市場では果実として扱われています。更に、日常生活では果物ですから、結構ややこしいです。
追記(2003.6.9.)
メモを全文改訂しました。