メモ | フラガリア属の解説は、こちらをご覧下さい。 和名はエゾヘビイチゴですが、ヘビイチゴはダチェスネア属(Duchesnea属)で別属です。 主に北半球の温帯に分布し、他に中南米にも分布しているそうです。
多年草です。花は両性花です。栽培種のイチゴ(F. × ananassa)と比較して、全体的に株が小さいです。果実は柔らかく、芳香があるといわれていますが、写真の‘ミグノネット’はあまり香りませんでした。もしかしたら、品種や栽培方法によって変わるのかもしれません。痩果は赤く、果実(正確には肥大化した花托)から浮いています。 栽培種と比較して、ワイルドストロベリーの果実には、香気成分では、エチルアセテートが多く、食味に関わる成分では、リンゴ酸が少ないという特徴があるそうです。 栽培種の登場により、現在は商用の栽培は行われていないようですが、ヨーロッパと北アメリカでは今でも栽培されているようです。果実はジャムとして利用できるそうです。
Staudt氏によると、以下の亜種(subspecies; ssp.)や品種(forma; f.)があるそうです。命名者を見ると分かると思いますが、Staudt氏が既存の種を再分類して学名を付け直したようです。なお、異名は、一部を除いて省略しました。
- F. vesca ssp. americana (Porter) Staudt
- F. v. ssp. bracteata (Heller) Staudt
- f. albida f. nov.
- f. bracteata (Heller) Staudt
- f. helleri (Holzinger) Staudt
- F. v. ssp. californica (Chamisso et Schlechtendal) Staudt
- F. v. ssp. vesca
- f. alba (Ehrhart) Staudt
- f. efflagellis (Duch.) Staudt
- f. roseiflora (Boulay) Staudt
- f. semperflorens (Duch.) Staudt
(異名:F. v. var. semperflorens (Duch.) Persoon、他)
- f. vesca
園芸品種(cultivar)として、写真の‘Mignonette(ミグノネット)’(カタカナ表記はタキイ種苗のカタログによります)の他、‘Alexandria’、黄色い果実を着ける‘Alpine Yellow’、ピンク色の花を咲かせる‘ビバローサ(Vivarosa)’、その他があります。
染色体数は、栽培種が2n=8x=56の8倍体で遺伝が複雑であるのに対して、ワイルドストロベリーは2n=2x=14の2倍体で遺伝が単純であると言われています。このため、ワイルドストロベリーはイチゴ属のモデル植物としての利用価値があると言われています。また、ワイルドストロベリーは、イチゴ属の他種と交雑して、8倍体の種の成立に関わったそうです。現在でも、栽培種の品質改良(芳香、耐病性)のための育種素材として使われています。他に、耐熱性・耐乾性に関しても、栽培種に導入出来るような優れた性質を持っているそうです。
f. vesca は一季成り性で、ランナーを発生させるそうですが、f. semperflorens は四季成り性で、ランナーを発生させず、種子繁殖するそうです。f. semperflorens の四季成り性の遺伝は単因子劣性で、劣性ホモ(f. semperflorens)は四季成り性、優性ホモ(f. vesca)とヘテロ(f. vesca と f. semperflorens の交雑第一代)は一季成り性を示すそうです。栽培種の四季成り性は一つ以上の遺伝子が関わる優性であるとの見解が一般的なので、栽培種の四季成り性は、F. vesca(ssp. vesca f. semperflorens)の四季成り性とは独自に発達したと推察されています。したがって、このことに関しては、ワイルドストロベリーでモデルとして解明されたとしても、栽培種には一概には当てはまらないと思います。なお、f. vesca のランナー発生に関する遺伝は、単因子優性だそうです。 一季成り性を示す f. vesca の花房発生は温度に依存するようで、19℃では花房が発生しないそうですが、10℃では、8時間日長の短日でも17時間日長の長日でも花房が発生するそうです。栽培種も、高温では花芽分化しませんが、温度が低い場合は日長に関わらず花芽分化するので、似ていると思います。これに対し、四季成り性を示す f. semperflorens は、温度(10℃、あるいは、19℃)や日長時間(8時間、あるいは、17時間)に関わらず、コンスタントに花房を発生させるそうです。 ランナーの発生に関しては、f. vesca は高温(19℃)・長日(17時間)で、ランナーが発生し易いそうです。
追記(2004.10.24.) 写真を差し替え、メモをほぼ全文改訂し、コメントを追加しました。
本棚以外の参考文献
Hancock, J. F. Strawberries (Crop Production Science in Horticulture 11). CABI Publishing. 1999.
望月龍也ら.Fragaria vesca と栽培イチゴの種間交雑後代に得られた高香気性系統の果実成分.園芸学会雑誌第61巻別冊1.370〜371ページ.1992年.
Staudt, G. Systematics and geographic distribution of the American strawberry species. Taxonomic studies in the genus Fragaria ( Rosaceae: Potentilleae). University of California Publications in Botany Vol. 81. University of California Press. 1999.
Battey, N. H., et al. Genetic and environmental control of flowering in strawberry. p. 111-131. In: K. E. Cockshull, et al. (editors.). Genetic and Environmental Manipulation of Horticultural Crops. CABI Publishing. 1998.
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