シリーズ●検証/石原「日の丸」教育(9)

 都教委の「君が代」強制さらに一歩

「生徒の適正指導」を職務命令


【前文】さらに一歩、「君が代」の強制が進められた。都教委の意向に沿って、都立高校長が教職員に「適正に生徒を指導すること」とする内容の職務命令書を手渡したのだ。そもそも、生徒を「適正に指導する」とはどういうことなのだろうか。校長の職務とは何なのだろうか。

 都立高校の卒業式などの国歌斉唱の際に、教職員に起立・斉唱を求める職務命令が出されている問題で、創立記念行事(周年行事)などを行う都立高校二校の校長が教職員全員に対し、「日の丸・君が代」について、「学習指導要領に基づき、適正に生徒を指導すること」とする内容の職務命令書を手渡した。教職員に起立や斉唱を強制するだけでなく、生徒の意思や行動を制約するところまで踏み込んできたとして、教育関係者や保護者の間に衝撃と波紋が広がっている。

 職務命令を出したのは、十月二日に創立八十周年記念式典を実施した深川高校(江東区)と、今春開校して同じ日に記念式典を行った千早高校(豊島区)の校長。いずれも九月二十二日付で教職員全員に職務命令書を手渡し、起立やピアノ伴奏などを求めるとともに、生徒を「適正に指導する」ことも命じた。

 東京都教育委員会は五月、不起立の生徒が多かった高校の管理職や担任ら計五十七人に、指導不足を理由に厳重注意などの「指導」を発令。さらに六月の都議会本会議で横山洋吉教育長は、校長の権限で児童生徒を指導するように職務命令を出す方針を示し、これを受けて九月七日の校長連絡会で都教委は各校長に、「適正に生徒を指導すること」を職務命令として出すことを要請した。

 深川高校の松葉幸男校長は、「生徒たちには私から事前に、記念式典の意義を説明した上で節度ある行動を取るように話しました。立ちなさい歌いなさいという言い方はしていません」と説明する。

 「学習指導要領に基づいて日常的に指導するのは基本ですが、さまざまな環境の生徒がいるわけで、起立しないからといって生徒が罰せられることはない。不起立の生徒がいても教員の処分には直結しません。立てと言うのも立つなと言うのもどちらもおかしいでしょう。立つなと命じるような適正でない指導があれば問題になるということです」

 一方、千早高校では今春の入学式の際にも、「生徒に適切な指導を行う」との項目は職務命令に入っていたという。「生徒指導の一環としてマナーの大切さを話していますが、立てとか歌えとは言っていない。国旗や国歌のための式ではないので、そんなに騒がれても」(佐藤芳孝校長ら)と戸惑いを隠せない。

 深川高校の男子生徒の一人は「先生は自由にしろと言ってました。職務命令が出たことも説明してくれたけど、何の説明もなかったクラスもあったみたい」と話す。別の女子生徒は「日本人だから立って歌うのは自然だと思うけど、強制するのはおかしいと思う」と話していた。

 両校とも「式典は整然と粛々と進行し、適正に行われた」という。

 問題点は二つある。一つは都立高校の多くの校長たちが、生徒指導を求める都教委の指導(要請)を「職務命令」と受け止めてしまっていることだ。昨年十月に国旗・国歌に関する通達(実施指針)が出された時は、都教委は口頭ではっきりと「これは職務命令だ」という言い方をした。しかし九月の校長連絡会では、生徒への指導が職務命令であるとの明言はなかったという。指導や助言する立場の都教委が、教育内容に踏み込んで命令すること自体がおかしいし、「職務命令なんて出したくない」と内心で思いつつ、大半の校長は都教委の意向に沿って動く。

 もう一つは、生徒を「適正に指導する」とは何かという問題だ。都議会での保守系議員と教育長のやり取りだと、「起立・斉唱させる指導」以外は認められないことになってしまうが、本来ならば「日の丸・君が代」の歴史や思想・良心の自由などの問題をふまえ、国旗と国歌のあり方を問いかけてもいいはずだ。「立て」とか「立つな」という一方的な指示がまかり通ることこそ、そもそも教育が最も反省すべき点だろう。

初出掲載(「週刊金曜日」2004年10月8日号)

=雑誌掲載時とは表記や表現など一部内容が異なります。


●写真説明(ヨコ):都立深川高校の創立80周年記念式典。音楽教員が「体調不良」で欠席したため、「君が代」はCDで流された=2004年10月2日午後0時58分、東京都江東区の「ティアラこうとう」(江東公会堂)で


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