コラム/インターネット論

◎大岡みなみの「HPジャーナリスト」


(8)掲示板への「乱入者」/管理人は大変だ…

 今年2月から、僕は自分のホームページに掲示板(BBS)を試験的に設置している。広告収入で企業が運営する無料レンタルのものを使っている。

 掲示板は、ホームページにアクセスした人が訪問の足跡を残す場であるほか、訪問者と運営者、あるいは訪問者同士が交流する「広場」のような存在にもなり得る。テレビや映画や音楽の話題を書き込んだりあいさつを交わしたり、もちろんそれだけでも面白く楽しい会話は盛り上がるが、さらにうまく機能すればいろいろな人との意見交換を通じて話の輪が広がっていく楽しみもある。

 1対1の関係を基本とする電子メールの交換と違うのは、掲示板という場を通じて、訪問者が不特定多数に向かって発言できるという点だ。アクセス制限をしている会員制の掲示板や、電子メールを利用した会員制掲示板と言える「メーリングリスト」といったものもあるが、掲示板の多くは、不特定多数の訪問者がほかの訪問者とともにコミュニケーションできる場となっている。

 しかし、不特定多数に開かれた掲示板には、不心得者が乱入してくる場合もたまにある。商品の宣伝や無意味ないたずら書きを延々と書き込んでみたり、誹謗中傷やプライバシー侵害に相当するような内容の嫌がらせがあったりするのだ。どこの世界にもお調子者はいる。こういう場合に、掲示板の設置管理人は敢然と「管理者権限」を行使して、不適切な書き込みを削除しなければならない。放置しておくと掲示板が荒れるだけでなく、法律違反や人権侵害に加担することにもなりかねないからだ。

 いたずらやプライバシー侵害ではないけれども、僕も掲示板では不愉快な思いをしたことがある。掲示板の設置から一カ月くらいして、僕が毎日更新している「身辺雑記」に書いた発言に対して論争を挑んできた人がいたのだ。

 もちろん建設的な論争は大歓迎であるし、自分の考え方と異なるからといって反対意見を排除するつもりは毛頭ない。論争を通じて相手とより深く分かり合えるのは魅力である。また仮に議論が平行線で終わったとしても、お互いの視点や立場の違いが鮮明になれば、それはそれで議論した意味は十分あると考える。しかし、詭弁や論理のすり替えを平然と繰り返すような人とは「まともな議論」にはならないだろう。

 意図的にすり替えているのか、論理をすり替えていることが分からずにやっているのかその辺のことは分からないが、そういった手法は論争相手を愚弄している。残念ながら掲示板で僕に議論を吹っかけてきたその人は、そんなやり方を繰り返すのだった。最初のうち僕は、この人物に対して正面からきちんと対応・反論していたのだが、相手は詭弁や論理のすり替えばかりか、その「主張」が公序良俗に反する内容へと次第にエスカレートしてきたのである。まともな議論を挑むならまだしも、暴論と詭弁を執拗に書き込んでくるのだ。

 僕はなぜかこの時、朝日新聞阪神支局の襲撃事件を思い出していた。あの事件で全国の新聞記者はそれなりに恐怖を感じたはずだ。そして中には、無意識のうちに委縮する気持ちが内心に生まれた者もいるだろうと思う。正直言って執拗な掲示板への書き込みを、ほんの少しだが怖く感じた。直接の暴力ではないが言葉の暴力でもあっても、相手に怖さを感じさせることはできるのだなあと僕は痛感したのだった。

 「管理者責任による削除」という選択の代わりに、僕はこの人を一切相手にしない方法を取った。常連訪問者のバックアップもあって乱入者は掲示板から立ち去った。しかし世間には延々と嫌がらせを書き続ける輩もいるというから、たぶんこれはラッキーな事例だったのかもしれない。掲示板の管理は難しい。

(おわり)

初出掲載(「ニフティ・スーパーインターネット」1999年12月号)

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