コラム/インターネット論

◎大岡みなみの「HPジャーナリスト」


(6)「正当な評論」の限度を超えた傲慢〜サイト批評ページ/下

 前々回から3回にわたって「サイト批評のページ」について考えているが、今回はこれまでの考察を踏まえて、「正当な評論」の範囲を逸脱した行為について論じたいと思う。

       □■□

 インターネットを始めてしばらくたったころ、どこからどう飛んだのかは覚えていないが、とても胸の苦しくなるおぞましいホームページを見つけた。

 業界人らしき人物が作っているページだった。女性のホームページを対象にして「ろくでもない小娘ページ」と決め付けて勝手にリンクを張り、侮辱的な紹介文を掲載して、訪問者に「みんなでこのページを嬲(なぶ)りものにしよう」と呼びかけていたのだ。

 「レイプリンク」と題するそのページには、趣旨としてはとてもご大層なことが書かれてあった。「ウェブ上でホームページを開設している女の子の自意識過剰ぶりとプライバシー露出の無自覚ぶりには、目に余るものがある。切り売りするものが『女性である自分』しかない。反省を促すためにみんなで嬲りものにしよう」というのである。

 「女性性を無自覚に切り売りするページに反省を促す」などと言えば、一見するとフェミニズム論者のようで聞こえはいいが、しかし実際にこの人物がやっていることは、暴言によるいじめであり「レイプごっこ」だ。侮辱的で名誉毀損に値する行為である。もしも反省を促すと言うのならば、わざわざ「嬲りもの」だとか「レイプ」といった言葉を使う必要などない。そこに、隠された「集団リンチの欲望」が見て取れる。

 そもそも、他人の創作物・著作物に対して発言する態度として、常識的に許される範囲を明らかに逸脱している。少なくとも、相手に面と向かって言える内容でなければ「正当な批評や評論」とは言えないだろう。

 確かに、何のために世界中に公開しているのか意味不明で、自己完結の極みのようなホームページは世間にたくさんあるから、そういうものに対する苛立ちは分からないでもない。でも、他人に迷惑をかけない限りはどんな恥ずかしいページを公開しようが、それは本人の責任と権利の範囲内の問題だ。それをもって、不当に侮辱されるいわれはない。

 だが、この人物によるおぞましいページはこれだけではなかった。「つまらない」と決め付けたホームページを勝手にリンクして笑い者にするページを作っていたのだ。その中に「カウンターを無闇に回そう」というコーナーがあった。

 対象とされたホームページの作者がまるで知らないところで、寄ってたかってページをリロード(再読み込み)してアクセスカウンターを回し、当人がどんな反応をするかを楽しもうというのだ。その結果、当初はわずか25だったカウンター値がたった2日で1000も増えてしまう。そして、原因が分からず戸惑う当人をみんなで笑い者にするのだった。

 「カウンターに人がどれだけ支配されるかの壮大な実験」などと説明しているが、噴飯ものの自己正当化の論理だ。単に大勢で弱い者いじめをして楽しんでいるだけではないか。無邪気と言えば無邪気だが、その無神経さと想像力のなさとあまりにも傲慢・不遜・横暴な態度に、僕は猛烈な憤りを覚えた。

 こんなことが許されるのだろうか。批評でも何でもない。こういうことが平気でやれる感覚に恐怖すら感じる。

 ちなみに、先の「レイプごっこ」のためのリンクページは、契約するプロバイダーから「誹謗中傷」を理由に削除を命じられたが、別のプロバイダーに移転して今も公開が続けられている。これに対してこの人物は「プロバイダーによる検閲」を強く批判している。しかし他人の名誉や尊厳を無視しておいて、表現の自由や言論の自由などを主張しても説得力がなかろう。

 オノレの品性の下劣さと醜悪さを、詭弁を弄しながら正当化し、表現の自由を持ち出すのはみっともない。

 それよりもむしろ、このようなページがまかり通ることによって、「だからインターネットなんていうものは…」などと世間から非難され、公権力による規制強化や不当な介入が進むことを僕は恐れる。市民を管理・監視することが大好きな人たちや、通信傍受(盗聴)法は絶対に必要だと力説する勢力に、それこそ口実を与えるばかりだということに気付くべきである。

 せっかくの表現手段をいたずらに浪費し、自分の首を締めるようなことをしてはいけない。

(この項、おわり)

◆該当するホームページのアドレスは掲載しません。人権侵害への加担を避けたいと判断するからです。雑誌掲載時も編集部と相談した上で、同様の措置を取りました。

初出掲載(「ニフティ・スーパーインターネット」1999年10月号)

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