ニュース記事/司法改革●地方公聴会

第4回地方公聴会

捜査や裁判のおかしさ指摘

東京、河野さんや聴覚障害者ら8人

 政府の司法制度改革審議会の第4回地方公聴会が7月24日、東京の日比谷公会堂で開かれた。身近で開かれた司法の実現に向けて、市民から広く意見を聴くのが目的。大阪、福岡、札幌と開かれてきた地方公聴会の4回目で、今回が最後になる。医療過誤で子どもを亡くした母親、警察に犯人扱いされて取り調べを受けた会社員、聴覚障害者ら8人の公述人が、刑事捜査や裁判のおかしさ、理不尽さなどについて意見を述べた。

 これに先立って22日夜には、市民集会「市民が創る地方公聴会」が東京・霞が関の弁護士会館で開かれ、交通事故被害者の遺族、司法試験指導塾の塾長、漫画原作者ら十七人の市民が意見発表した。集会の冒頭では陪審制の重要性などを訴える寸劇があったほか、意見発表の途中では「どこまで、司法改革はすすんでいるのか/審議会の現場から」と題して、審議会委員の中坊公平弁護士による記念講演も行われた。

 地方公聴会では、公述人がそれぞれの体験から司法の問題点に言及した。

●病院側にこそ立証責任●

 生まれたばかりの乳児を病院で亡くし、医療過誤裁判を7年間続けている専門学校講師の櫛毛冨久美さん(40歳)は「医師は密室で起きた事故の当事者であり、原因の詳細を知っている。カルテなどの証拠もすべて握っていて、患者とは絶対的に力の差がある」と述べて、原告にある立証責任を被告である病院側に転換すべきだと訴えた。さらに「裁判官に市民感覚を取り入れるために、陪審制や法曹一元の導入を希望する」と涙ながらに主張した。専門参審制については「医師の善し悪しで裁判が大きく左右され、密室化され患者の反論の機会が少なくなる」として、まず公平な鑑定の確保を求めた。

●被疑者に公費で弁護を●

 松本サリン事件の後遺症に苦しむ中、警察から犯人扱いされて一方的な取り調べを受けた河野義行さん(50歳)は「長時間にわたって事情聴取され、自白を強要された。早い時期に弁護士を依頼していなかったらすぐに逮捕されて、冤罪事件から抜け出せなかっただろう。法律という盾で弁護士がサポートしてくれたから闘えた」と話し、被疑者への公費による弁護制度実現を訴えた。「被疑者の人権ばかり守られ、被害者の人権は守られていないと世間では言われているが、警察では被疑者に人権はないことを体験した」と述べ、逮捕されたから悪い人だと決め付けたり、被疑者を守る弁護士を非難したりする風潮に警鐘を鳴らした。

 「冤罪や不当な量刑は、逮捕から起訴までの時期に決まる。公平な裁判を受ける市民の当然の権利を守る当番弁護士が、ボランティアで行われていていいのか」と疑問を投げかけた。

●法廷手話通訳を公費で●

 聴覚障害者で関東ろう連盟理事長の野沢克哉さん(60歳)は「費用の心配をしないで弁護士の援助を受けられるシステムを作ってほしい。裁判所での手話通訳の費用を公費負担してほしい」と述べ、社会的弱者である障害者にとって利用しやすい司法の実現を求めた。「障害者の生活実態を理解できない裁判官や、『弁護士がいるんだから手話通訳は要らない』などと言う裁判官もいる」として、人権感覚が豊かな弁護士が裁判官になってほしいと訴えた。法科大学院(ロースクール)構想については「障害者が締め出されることがないように配慮してほしい」と希望した。

●訴訟期間の短縮を要望●

 道路公害や環境問題の住民運動を続けている標博重さん(74歳)は「現在の裁判制度では公害を未然に防ぐことができない。訴えの利益を守れるように訴訟期間を短縮するとともに、原告適確を幅広く認めてほしい」などと要望した。

 弁護士を探すのに困ったという会社員の井出晴郎さん(54歳)は「弁護士と信頼関係が築けない時の苦情窓口が分からない。司法関係の情報を充実を。弁護士の大幅増員がアクセスを容易にする」と話した。

●法律家に専門知識必要●

 亜細亜大学法学部4年生の小川ひろみさん(21歳)は「専門知識を持った法律家のニーズが高まってくると思う。市民に分かるように説明できることが大切だ」と述べ、裁判官に対して、当事者に説明できるだけの能力やサービス精心を求めた。

 国際結婚して12年目になるフリーライターの関口千恵さん(37歳)は「国際結婚や国際公法・私法に対する知識や関心のない弁護士が多く、頼りにならない」と断じて、日本の司法はもっと国際化すべきだと訴えた。

 一部上場商社で法務担当をしている堀真理さん(41歳)は「裁判官は経済活動の実態を理解していないのではないか。裁判官が商取引の実態に触れる機会を増やしてほしい」と述べ、弁護士から裁判官になる法曹一元も必要だと提案した。

 この日の公聴会に出席した審議会委員は、佐藤幸治(会長)、竹下守夫(会長代理)、石井宏治、井上正仁、高木剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、吉岡初子の10氏。法曹関係者や市民ら約500人が意見発表に耳を傾けた。

●市民公聴会に多彩な面々●

 22日夜には、全国各地の「当番弁護士制度を支援する市民の会」などが主催する市民集会「市民が創る司法改革公聴会」が弁護士会館で開かれ、市民や学生ら約400人が集まった。

 交通事故で長男の隼君(当時8歳、小学2年生)をひき逃げされた片山徒有さんは「刑事裁判で私たち被害者はじっと見ているしかなかった。必要なのは情報公開だと思う」と訴えた。司法試験指導塾の塾長の伊藤真さんは「さまざまな経験をしてきた人や、法学部以外で学んできた人が広く活躍できるシステムが必要だ」と述べ、ロースクールに公平性と多様性を求めた。

 別居中の両親が離婚調停をしたという女子学生は「パート収入と父からのわずかな仕送りに頼って生活していたので、母親は弁護士を頼めなかった。低所得者も平等に裁判できるように公的扶助を拡大してほしい」と要望。「申立人だけでなく、申し立てられた側の言い分も書面に残すべきだ。仕事に影響のない時間帯に調停できないか」と提案した。

 全国消費者団体連絡会事務局長の日和佐信子さんは、市民感覚とかけ離れた判決を批判した上で「司法を市民の手に取り戻すために、陪審制の導入を」と呼びかけた。一方、現職裁判官で日本裁判官ネットワークの北澤貞男さんは「司法行政が優位の体制は変わらず、上意下達のによって現職裁判官は委縮している。法曹一元の実現しか日本の司法を変える道はない」と訴えた。

 「家栽の人」などの作品で知られる漫画原作者の毛利甚八さんは「裁判官が何を考えているかさっぱり分からないのに大事な役割をしている。自由に質問を受けて自分の考えを述べては」と話した。また、作家の伊佐千尋さんは「裁判官は自白調書を偏重して重要な証拠を見逃している。冤罪事件を防ぐためにも陪審制を導入すべきだ。刑事陪審は国民の権利であって、自由と人権にかかわる問題だ」などと主張した。

初出掲載(「月刊司法改革」2000年9月号)


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