インタビュー/司法改革

第1回地方公聴会で公述人として発言

「司法への市民参加は陪審復活から」

「裁判フォーラム」事務局員●大東美智子さん


◆模擬陪審を積み重ねて◆

 ──司法の問題に関心を持ったきっかけは何だったのですか?

 大東 9年前、新聞で募集があった模擬陪審に応募したのがきっかけです。それまで弁護士さんばかりで模擬陪審をやっていたのですが、市民も一緒になった「フォーラム」を立ち上げようということになったんですね。それで、その年の10月に「開かれた裁判を求める市民フォーラム」(以下「裁判フォーラム」)が設立されてから、ずっと参加しています。高校生の時に国選弁護人の地道な活動を描いたドラマを見て、ずっと心の中に弁護士という仕事にあこがれを感じていたこともあったのかもしれませんね。

 ──地方公聴会で訴えたかったのは、どんなことですか?

 大東 意見発表の募集が今年1月にありました。それでとりあえず、私たちの「裁判フォーラム」は陪審裁判の復活を重点に置いて活動してきましたので、そのことを言おうと考えていました。もちろんほかにも、法曹一元とか法律扶助の問題とか司法試験のこととか、いろいろと課題はあるのですが、それはたぶんほかの方たちが何らかの形で触れられるだろうと思い、とにかく陪審制度を知ってもらおうと、陪審のことに絞ろうと思いました。そんなわけで私は陪審制度を前面に出すことにしたのです。

 一番訴えたかったのは、陪審制のことですね。私たちのグループ「裁判フォーラム」では、一般の方から「陪審員」を募集して陪審劇をやって、その後で評議をするという活動を何度かやってきました。その結果、一般の方でも十分に評議はできる、事実認定するには法律の専門的な知識は必要ない、ということが分かりました。

 「陪審員」になってくれた人や模擬陪審裁判の会場に聴きに来てくれた人たちは、皆さんが「陪審はいい」という感想を書いてくれました。裁判フォーラムではこれまで模擬陪審を七回ほどやってきたのですが、そうした活動を踏まえて、陪審制度が今の日本でも十分に機能するのではないかということを公聴会では訴えました。

◆「影の陪審」新聞で公募◆

 ──陪審制度は60年前の日本にもあったんですよね?

 大東 日本でも1928年(昭和3年)から1943(昭和18年)まで、日本でも陪審裁判をやっていたんですよ。そういうことを知らない人がたくさんいる。私も知らなかった一人なんですが、陪審法が停止されたままで、いまだに復活されていない。どうして日本では復活されないのか。日本人には陪審がなじまないとか、陪審員は世論に影響を受けやすいとか、裁判は裁判官に任せればいいとか言う人がいますが、陪審制度を否定する人は自分たちが司法に参加するということを最初から拒否していますよね。でも本当にそれでいいのか、ということを発言させてもらいました。

 ──「裁判フォーラム」では、実際の刑事裁判を傍聴して市民の立場から評決する「影の陪審」という活動もしていますよね?

 大東 こういうのは全国どこもやっていないと思うのですが、1993年6月に京都地裁で始まった大麻取締法違反の事件を傍聴しに行くことにしました。被告人は京都在住の外国人男性で、捜査段階から一貫して無罪を主張している事件です。地元の京都新聞や朝日、毎日、読売などで、一般の人から「陪審員」を募集しました。全部で60数人の応募がありました。

 オリエンテーリングをして、月に1回くらいの間隔で公判があるから必ず傍聴に行ける人という条件を出したんですね。この条件を満たしていただかなければ、傍聴を休むと陪審の評議ができなくなりますからね。それから、年齢も職業も幅広く人選させてもらいました。女性6人と男性6人の合計12人。10代から60代くらいの人で「陪審員」を組織したのです。

 それで毎回ずっと傍聴に行っていたのですが、大麻取締法違反の刑事事件だから1年くらいで結審するんじゃないかなと、初めは軽く考えていたのです。ところが、これがなかなか終わらなくて。被告人が英国生まれのカナダ人だったものですから法廷に通訳が入って、通常の2倍の時間がかかるんですよ。2年でも終わらなくて、結局は丸4年かかりました。

◆陪審ならば1日で評議◆

 ──4年間は長いですよね。被告人の様子も変わったでしょうね?

 大東 なかなか保釈が認められなくて、ずいぶん長いこと拘留されていました。病気して入院して、それでやっと保釈が認められたようですね。被告人はすごくやつれて、顔つきなどもかなり変わりました。長過ぎる裁判の弊害ですよね。

 陪審裁判が始まるまでは証拠調べなどいろんな準備期間がいると思いますが、陪審評議そのものは、それこそ1日か2日で終わってしまうような事件です。陪審裁判は集中審議ですからね。陪審員は拘束されても1日か2日くらい。戦前の陪審事件を調べたら、484件のうち76%までが2日間で終わっているんです。長くても2日あれば陪審の審議は終わるんですよね。

 それを4年もかけているんですよ。後から少しずつ少しずつ、検察官から証人申請が出てくるんです。傍聴に行っても、一つも先に進まないし先が見えてこない。いつ終わるのかが分からない。こんなふうにして日本の裁判は続いているのかという印象でしたね。

 四年経った1997年2月に論告求刑があって、懲役2年6月の求刑でした。ところがそのすぐ後に被告人が自殺したのです。私たちは論告求刑を聞いてから、4月にある最終弁論が終わった後で評議をしようと、日にちを決めていたのですが、被告人が亡くなったので、起訴がそのまま取り下げになってしまいました。そんなわけで最終弁論の予定されていた日に陪審員が集まって、弁護士さんに最終弁論を読み上げていただいて、その日のうちに評議しました。

◆求刑より長い裁判とは◆

 ──裁判をずっと傍聴してきて「陪審員」の皆さんの感想はいかがでしたか?

 大東 まず、全員の口をついて出てきたのは「裁判が長過ぎる」ということでした。英国でもカナダでも陪審制度を導入していますから、被告人にしてみたらたぶんもっと早く裁判が終わると思っていたのではないでしょうか。日本の長い長い裁判が彼を殺したようなものだと言う人もいます。2年6月の求刑に対して4年間も裁判をするということに、とても矛盾を感じます。

 評議をする中では、裁判官とか検察官の声が小さい、聞き取れないという意見も出ました。この裁判をやっていた法廷にはマイクが設置されていなくて、本当に聞きにくかったんですよ。いつも私たちは傍聴席の一番前に陣取って傍聴していたのですが、その影響もあってか裁判官もちょっと緊張してくれますし、だんだんと大きな声で話してくれるようになりました。

 だけど、書面でのやり取りというのは私たちには分からないんですよ。証拠書類も傍聴者席の私たちにはいちいち見せてくれませんし、検察官が起訴状などを読み上げていくのも早口なので、集中して聞いていないと聞き取れないんですね。

 今の裁判制度や裁判所の構造そのものに対しても、いろいろな批判が出ています。メモは自由に取れるようになりましたが、いまだに写真撮影や録音は許可されていませんしね。

◆評決一致しなかったが◆

 ──「陪審員」の皆さんは、毎回欠かさず裁判を傍聴できたのですか?

 大東 どうしても来られないという人も時々いましたが、ほとんどの公判を傍聴しました。公判の度に皆さんに連絡して、来られなかった人には夜に「きょうはこんな感じでした」と結果を報告して、何とか4年間1人も落ちこぼれずに最後まで続きました。

 現場検証にも行ったんですよ。裁判官らに同行はさせてもらえなかったのですが、裁判官の検証が終わった後で、弁護士さんから説明してもらって被告人が住んでいたところなどを見せていただきました。

 ──それで、いよいよ全員で「評決」するわけですね。評決は一致したのですか?

 大東 11人で評議しました。全員で評議したわけではなくて、12人の「陪審員」の1人の大学院の学生さんが途中で司法試験に合格して、司法修習に行くのをわざわざ1年遅らせたのですが、それでも裁判が終わらなかったので、評議の日には来れなかったんです。それで11人です。

 被告との共謀を証言した外国人男性の調書の信ぴょう性をめぐって意見が分かれ、評決は一致しませんでした。頭から「あれは絶対に有罪や」と譲らない人が2人いましたが、あとの9人は「決め手がない」ということで無罪を評決しました。

 被告人が逮捕されたそもそもの発端というのは、神戸で大麻取締法で逮捕された別の外国人がいて、その人が大麻を被告人から譲り受けたと自供したことなんです。ところが、その人はさっさと罪を認めて国外追放処分になっているんですね。

 検察官はその人の供述が信頼できるとして証人申請を外務省を通じてしたのだけど、本人が出てきませんでした。その人が言っていることが本当なのかどうなのか、私たちにしてみれば分からない。決め手となったのはそれだけなんです。物的証拠はほかにどこからも出てきていないんですよ。最初に逮捕されて自供した人の証言が、信用できるかどうかということが焦点になったわけです。

 会場の関係から時間を区切って評議しなければならなかったのですが、「徹夜をしてでも」という気持ちで議論していたら全員一致の評決が出せたと思いますね。

◆日本人は議論下手か?◆

 ──評議の時に「陪審員」の皆さんは、かなり白熱した議論をしたのですか?

 大東 評議では十分に意見が出ました。遠慮する人はいないんですよ。日本人は議論するのが下手だとか、話し下手だとか言われますが、必ずしもそうではありません。

 横に裁判官がいたり弁護士がいたりするとなかなか言い出しにくいかもしれませんが、密室でだれもいなかったり、自分たち一般市民だけで肩書きとか何もない平場で意見を出し合うとなると、結構みんな言いたいことを言うんですね。裁判所に対する文句とかが一番に出てくるんですが、そういうところから始まって、被告人がどうだとか本当にやったのかやってないのかとかね。もちろん事実認定が最も大事ですが。

 先進国の中で、何らかの形で市民が裁判に参加していないのは日本だけですよね。参審制にしろ陪審制にしろ、先進国は何らかの形でやっていますからね。日本も戦前は陪審裁判をしていたんですから、できないはずがない。最近は住民運動が各地で起こってきていますよね。行政にしても司法にしても、市民がかかわっていく時がきたのではないかと思います。今までは人任せ、お役人任せ、裁判所に任せっきりでした。

 ──参審制と陪審制の違いについては、どのようにお考えですか?

 大東 どちらも市民参加は市民参加なのですが、参審制はどこか「選ばれている」という感じがします。弁護士さんの中に入ってどれだけ市民の意見が反映されるか。評議の時も弁護士さんがそばにいるとしゃべりにくいですよね。同じ地盤に立って話し合いをするからいいのであって、肩書きがついている人の前で話をするとどれだけ自分の意見を率直に言えるかなとも思います。

 それと参審制だと、裁判官の席の一つに市民が座るだけで、これまでと同じペースで裁判が行われるのなら何も改革にはならないです。

 ──司法への市民参加を、もっと積極的に訴えていかなければいけませんね?

 大東 日本では、かつて陪審裁判があったということすら教育の中で教えていません。米国人なんかは、陪審員になる義務があるとか、陪審裁判を受ける権利があるというような教育を小さい時から受けています。米国では「ティーンコート」というのをしている高校があって、お互いに被告人になったり検察官になったりして、いろいろな経験をして大きくなっていくんですが、日本ではそういう経験がなくて受験勉強一色ですからね。

 おまけに、そういう勉強だけしてきた人が裁判官になりますからね。そういう意味では法曹一元は大前提にあるんですけれども。いずれにしても、すべての市民が積極的に司法にかかわらなければ。そういう時代にならなければと思います。

◆説得力あった山田さん◆

 ──ほかの公述人の方たちの発言なども含めて、第1回の地方公聴会にどんな感想をお持ちになりましたか?

 大東 公聴会に甲山事件の山田悦子さんが来ていらっしゃいました。山田さんには公聴会の会場で初めてお会いしたのですが、山田さんが同じ公述人として「法曹一元と陪審は絶対に必要だと思います」と言ってくれた時には「やった」と思いました。すごくうれしかったですね。

 山田さんは25年かかってやっと無罪が確定して、それまでずっと被告人の立場にいたのですから発言にも説得力があります。それこそ裁判所に対して、彼女の青春を返してあげてほしいと言いたいですよね。陪審裁判ならもっと早く決着がついたはずです。

 調停委員の方だけが、陪審制に反対意見を述べていらっしゃいました。調停委員に選ばれるというのは、選民意識がありますから、普通の人には裁判なんて任せられないという意識はあると思います。

 第1回の地方公聴会にしては、成功だったのではないでしょうか。公述人の人選はよかったと思います。公害で苦しんでいる方の話は考えさせられました。被害者として提訴する側が測定値を用意しなければならないというのは矛盾しています。消団連の方ももっと利用しやすい司法を訴えていましたね。学生さんは現在の司法試験はお金がかかるので「資本試験」だと言っていました。

◆住民の声を反映させて◆

 ──今の裁判所は、市民の立場に立っていないと批判する声がありますが?

 大東 「当面は刑事事件を陪審制でやってみては」と日弁連は考えているみたいですけど、民事も陪審でやっていいと思うんですよ。消費者問題にしろ公害問題にしろ、陪審制でやった方が住民の意見がより反映されて企業寄りにはならないでしょう。しかも早く結論が出ると思うんですよ。行政訴訟にしてもそうですよね。

 今の裁判制度だと、裁判官がどうしても企業寄りとか行政・国寄りとかになりますからね。法曹一元になれば裁判官もちょっとは変わるかなあという思いはありますが、今のままではね…。

 私たちが傍聴に行くと、裁判官はそれほど嫌な顔はしないし、なるべく分かりやすくというふうな態度は取ってくれますけどね。でも判決文とかを見ると、検察官の言うことをそのままうのみにしているなあという感じはしますね。裁判官は検察官を信頼している。検察官は警察を信頼している。何だか三位一体になっているみたいですけど。

 「影の陪審」は途中で裁判官が異動になって変わっているんですけど、後から来た裁判官は調書と裁判記録を読むだけで判決文を書くのです。全体の流れは結局は記録でしか読めない。裁判そのものをずっと見ていないから、被告人の様子とかが分からないのです。頭の中だけで判決を作ってしまうわけで、判例からあまり逸脱しません。

 そういうのを見ていたら、裁判官というのは「この被告人が犯罪をやったかやっていないか」を考えるのではなくて、「こういう事件なら懲役何年くらいか」ということが先にあるんじゃないかという気がします。今の裁判では起訴されたら99%有罪ですから、そういうのが前提にあるんじゃないですか。起訴されたら量刑のことをまず考えているように思いますね。

 ──司法試験の在り方も考え直さなければいけませんね?

 大東 私の知り合いが2人、昨年の司法試験に合格したのですが、本当に勉強だけしかしてきていないって言うのです。本当に世間を知らないし、大学4年間もほとんど司法試験の予備校に通っていたりするんですね。大学を1年間休学して予備校に通ったりということもする。それだけ集中して勉強しなければ合格できないわけです。試験があまりにも難しすぎるのも問題だと思いますね。

 ロースクール構想というのがありますが、これまでは一般の人でも司法試験が受けられたのが、ロースクールができたら受験しにくくなりますよね。ロースクールの門戸を開いてほしいです。

◆なぜ来ない審議会委員◆

 ──ところで第1回の地方公聴会には、審議会委員がたったの6人しか来ていませんでしたね?

 大東 大阪の公聴会に来られた方は、陪審制度に好意的な人が多かったような気がするんですよね。審議会や地方公聴会を欠席して、それでちゃんとした発言ができるのかなと思いました。13人全員の委員にそろって公述人の意見を聴いてほしかったですね。ぜひ、曾野綾子さんにも来ていただきたかったんですけど。審議会委員の皆さんは、地方公聴会にもう少し熱心に参加してほしいと思います。

 ──これからの審議会に望まれることは、どんなことでしょうか。

 大東 中間では決して手を打ってほしくないです。私たちはあくまでも陪審制の実現を目指しているのですが、「市民参加を」ということから「参審制あたりでどうか」などと妥協してほしくはないです。中坊さんにはぜひ頑張ってほしいですね。


【大東美智子さんプロフィール】 おおひがしみちこ。主婦。京都市の市民団体「開かれた裁判を求める市民フォーラム」事務局員。1946年、徳島県生まれ。同志社大学文学部文化学科心理学専攻を卒業後、医学関係の出版社に編集者として2年勤務。1983年から児童相談所の外郭団体で発達テストをするほか、保健センターで発達相談員を務めている。

初出掲載(「月刊司法改革」2000年5月号)


●誌面の都合で雑誌掲載時にカットされた部分を復活させました。


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