ニュース記事/司法改革●日弁連・人権擁護大会

岐阜で日弁連・人権擁護大会

独立救済機関めぐり激論

報道対象に「事前検閲」の恐れ

 日弁連の第43回人権擁護大会が、岐阜市の長良川国際会議場などを会場に、2000年10月5日から2日間の日程で開かれた。原子力政策や消費者問題など3つの分科会が設けられたが、中でも「独立した人権救済機関の設置」を論議する第一分科会では、分科会実行委員会が提案した「強制的な調査権を持つ人権救済機関を設置すべきだ」とする「試案」をめぐって、激しい意見の対立があった。

 第一分科会で示された実行委の「試案」は、すべての人権侵害を対象に、関係者に対する出頭命令、証拠提出命令、立ち入り調査などの強制調査権限を人権委員会に認めており、応じない場合は刑事罰も明記。「独立した人権救済機関」の創設は、国連の国際人権規約委員会が1998年、日本政府に「政府から独立した国内人権機関の設置」を強く勧告したことを受けてのものだとされている。

 これに対して、「人権侵害を平然と行っているマスコミも強制調査対象の例外とすべきではない」とする意見と、「表現の自由や報道の自由を侵さないためにマスコミの自主的機関にゆだねるべきだ」と主張する意見が、正面から衝突。参加した弁護士の間で激しいやり取りが交わされた。

 横山ノック前大阪府知事による強制わいせつ事件で、被害女性の代理人を務めた寺沢勝子弁護士は「女性の顔写真がテレビ画面いっぱいに映し出され、週刊誌記者は夜遅くに自宅にまで取材にやって来た。『やめときなはれ』と言ってくれる人権機関がほしい。有名人や権力者を相手にしたら自分の顔写真がマスコミに出るとなれば、被害者は告訴や裁判を躊躇することになるだろう」と述べた。ただし、寺沢弁護士は「(刑事罰などで)報道・出版を規制することには私は反対だ」と明言している。

 また、子どもの人権問題に取り組んでいる色川雅子弁護士は「独立した人権救済機関には強力な調査権限がなくてはならないと思っている。調査協力をお願いするだけの人権救済活動は嫌になった。報道もすべて対象にした救済機関が必要だ」と強く訴えた。

 一方、こうしたマスコミ批判の厳しい声に対して、人権と報道の問題に深くかかわる梓沢和幸弁護士は「(人権委員会が)刑罰を背景にして民間機関に入って行くことを、留保なく法律の条文としていることが問題だ。団交中の労組員に出頭を求め、拒めば現行犯逮捕するのも可能になる。法律事務所や弁護士会、大学自治でも同じことが起きるだろう」と指摘するとともに、「仮救済規定は出版・報道を除外していないが、これが適用されたら事前差し止めとなり検閲になる危険性がある。そもそも新しくできる人権委員会が中立である保証はない」などと述べて、実行委「試案」を厳しく批判し撤回を求めた。

 梓沢弁護士ら15人の弁護士は連名で対案を提出。「強制的な調査権を行使するのは、公権力による人権侵害に限るべきで、大学や弁護士会や報道については、自治や自主的組織による救済を尊重する」ことなどを示した。

 この日の議論に先立って開かれたパネルディスカッションでは、だれもが苦情を言えるような委員会を求める声や、委員任命の際の透明性をどうするかをただす意見が出された。

 その中で、人材コンサルタントの辛淑玉(シン・スゴ)さんは「国民の知る権利を守るために、マスコミはどれだけ弱者を背負って闘ってくれているのか。言論の自由と言うのなら、まず自分たちがどうするか発言すべきだ」と本質を突いた批判のメッセージを示した。返す刀で辛さんは、弁護士に対しても同じように「弱者から必要とされる存在にならなければならない。弁護士が権力に監視を求めるのはナンセンスだ」などと注文した。

 日弁連は大会2日目の10月6日、「政府から独立した調査権限のある人権機関の設置を求める宣言」を採択し、報道機関の扱いについては「今後慎重な検討が必要」として、結論を先送りしている。

初出掲載(「月刊司法改革」2000年11月号)


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