「ウィンナ・ワルツは肘で弾け」

喜歌劇「こうもり」序曲から

 まず最初に、ウィンナ・ワルツでどうして(「美しき青きドナウ」などでなくて)「こうもり」序曲なのかと思われる方も多いでしょうから、その説明から。今回は10数年前にあるアマチュア・オケが「こうもり」序曲を取り上げた際、ワルツの部分の練習中のどうやってウィーン風にワルツを弾くかとういうエピソードをネタにしています。

 さてワルツといえば我々日本人にとって最も身近な3拍子の曲でしょう。音楽史的・楽典的な説明は(できないので)さておき、ズンチャッチャという最も単純なリズムの曲です。「ワルツ」はヨハン・シュトラウスやショパンからスケーターズ・ワルツやテネシー・ワルツ、はては星影のワルツまで色々ありますが、やはり一番メジャーなのはヨハン・シュトラウスの作品群に代表されるウィンナ・ワルツとういうことになりますか。

 なにはともあれ「こうもり」序曲のワルツ部分をひとくさり聴いてみましょう。(メロディラインと伴奏だけのパートに絞り込んだMIDIデータです。)

ワルツ
[ワルツ]

 どうですか。なにやら昔の遊園地に入り込んだような気がしませんか?メリーゴーランドのイメージですかね?
 日本人は3拍子が苦手だと云われる(なにがどう苦手なのかは不明)ようですが、確かに日本人が演奏するワルツってのはサーカスのジンタっぽくなりがちです。
 このMIDIデータは譜面通りに正確に3拍子を刻んでいます。ドイツ圏(ウィーンはオーストリア圏)でも正確にリズムを刻むらしいのでリズムの崩しだけが日本人のワルツのドン臭さの原因ではないと思いますが、ウィーン風にワルツを弾くにはリズムにポイントがあるようです。
 それではこうもりの同じ箇所を伴奏パートだけとりだして聴いてみましょう。

伴奏
[伴奏]

 まあ、確かにワルツですね。伴奏は全て4分音符で書かれていますが、そのまま演奏するとズンチャッチャではなくズーチャーチャーになってしまいます。さすがに世界広しといえどそんな演奏をするところはないでしょう。このMIDIデータでは半分、つまり8分音符にしています。

 ところでウィンナ・ワルツというのはどういうワルツのことをいうのでしょうか?ウィーン社交界の舞踏会でしょうか。だとしたら私にはどんなものか知るよしもありません。ここではウィーン・フィルの演奏する、ニューイヤーコンサートのワルツということにしておきましょう。
 ウィンナのつくものと言えばコーヒー・ソーセージ・ワルツしか知らない私ですが、音楽に限って言えば厳然としたウィーン風というスタイルはないのだとうことを聞いたことがあります。そのときの話では、強大なハプスブルグ家のもとに様々な文化が集まりそれが一つのスタイルに融合されないまま混沌としているのがウィーンのスタイルだということでした。
 しかし、ウィーン・フィルの演奏するワルツに限って言えばウィーン風といえるリズムの特徴があります。それはどんなものか、とりあえず先ほどの伴奏データを少しウィーン風にしてみましょう。

ウィーン風伴奏
[ウィーン風伴奏]

 違いがおわかりになりますか?
 これは先ほどの伴奏データを、2拍目を若干(4分音符の40/480)はやくでるようにし、3拍目を若干(やはり4分音符の40/480)おそくでるようにかえてあります。ではこれにメロディラインをのせたMIDIを聴いてみましょう。

ウィーン風
[ウィーン風]

 どうでしょうか。ウィーン風な感じがでているでしょうか。まあ、最初のMIDIからするとちょっとはウィーンに近づいたという気がしないでもありません。
 2拍目をつっこみ気味に、3拍目を遅れ気味に(これを極端にやるとシンコぺに近くなる)するのは、踊っているときに男性が女性を抱えたままクルッとターンする為だといっていた者がいました。私はワルツが実際にどんなステップを踏むかしらないので真偽のほどはわかりませんが、気持ちだけはなんとなく判る気がします。
 ウィーン・フィルの演奏でもよく気をつけて聴くと確かにこのリズムの崩し(彼らにすれば正しいリズムであって崩しでもなんでもないのでしょうが)を聞き取ることができます。それにやや2拍目は3拍目に較べて強く演奏するようです。(よりシンコペちっくになります。)MIDIでもそうしてみましょう。

ウィーン風2
[ウィーン風2]

 このMIDIデータでは2拍目を強くすると同時に3拍目を少し短く(4分音符480なので8分音符は240、これを200にした)しました。ちょっと3拍目が弱くなってしまいました。短くても歯切れ良く音が立ってくれれば狙い通りだったのですが・・・。さらに2拍目のつっこみを部分的に強調するようテンポを変えてみましょう。

ウィーン風2
[ウィーン風3]

 最初のMIDIデータからするとどのくらいウィーン風になったのでしょうか。全然ウィーン風じゃないと思われる方も大勢いらっしゃると思います。リズムと強弱とテンポを変えるだけでウィーン・フィルと同じ演奏ができる・・・そんな訳ありませんから。ウィーン・フィルの演奏するウィンナ・ワルツの特徴(魅力)の多くはウィーン・フィルのその音色やその他諸々の多くの要素によって構成されているのでしょう。実際ウィーン・フィル以外のオケでもヨハン・シュトラウスを演奏する時には同じようにリズムを崩していることが多々ありますが、やはりウィンナ・ワルツではなくてウィーン風ワルツかなっと思ってしまいます。(これは演奏の善し悪しということでも、ウィーン・フィルに対する盲目的な崇拝のつもりでもありません。)

 さてタイトルの「ウィンナ・ワルツは肘で弾け」ですが、MIDIデータにしたところのもう少し先に、ズンチャッチャのチャッチャをセカンド・ヴァイオリンとヴィオラが担当する箇所があります。ここがどうしてもらしく弾けないでいたところ、指揮者に「肘から先の関節を固定して肘で引っ張るようにして弾いてみろ」といわれたところ、ガラッとらしくなり、さすがプロの指揮者だなぁと感心しました。このときセカンド・ヴァイオリンとヴィオラのメンバーが「ひじ・ひじ」とつぶやきながら演奏していたのが妙に面白かったというくだらない話です。

 

 


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