メモ | デルフィニウム属の解説は、こちらをご覧下さい。 学名の正名と異名は、「The New RHS Dictionary of Gardening」、「園芸植物大事典」に従いました。 原産地はシベリア、中国、モンゴルだそうです。日本には、大正時代の中頃に渡来したそうです。
多年生の草本ですが、園芸上は一年草として扱うことがあります。茎や葉には軟毛があります。よく分枝します。葉は、基本的な形は掌状ですが、線形に裂けています(上の写真・左下)。葉の裂片は、縁に切れ込みがなく、先端は尖っています。葉柄は、基部に近い葉では長く、上位の葉ほど短いです。葉序は互生です。
| 花序型は総状花序です。花の基本的な形態については、デルフィニウム属の解説をご覧下さい。デルフィニウム属植物の花の萼片には、普通、後ろに伸びる距が一つありますが、私が栽培したグランディフロルム種には、左の写真のように、不規則に出ている距もありました。これが普通なのか、品種の特徴なのかは不明です。また、左上の写真のような、距や花弁がない一重の花も咲きました(花弁のように見えるものは萼片です)。花色は青系や白で、花弁が黄色いことがあります(上の写真・右)。雄しべは多数、雌しべは三つで、果実は袋果です。 |
グランディフロルム種の園芸品種は「シネンシス系」と総称されているようで、写真のデルフィニウムも、「シネンシス・ブルー」の名前で販売されていました。「シネンシス」は、原産地である中国を意味する種形容語(種小名)の「chinensis」に由来するものと思われます。ただし、デルフィニウム属は、属名の性が中性なので、種形容語は「chinense」と語尾変化し、カタカナ表記は「キネンセ」、あるいは、「シネンセ」となります。シネンシス系の園芸品種として、‘Album(アルブム)’、‘Azureum(アズレウム)’、‘Blauer Spiegel(ブラウアー・スピーゲル)’、‘Blue Butterfly(ブルー・バタフライ)’、他多数があるそうです。
栽培について、繁殖は実生で行います。播種は春か秋に行います。ただし、高温では苗が育たないため、5〜6月の播種では遅いと言われていますし、秋に播種する場合も、気温が下がるのを待つと良いそうです。デルフィニウム属の中では高温に強いと言われています。日当たりと水捌けの良いところを好みます。草丈が低くよく分枝する品種は、鉢植えに向いていると言われています。元々は草丈が低かったようですが、最近は切り花に出来るような草丈の高い品種も作られているそうです。
品種によって差があると思いますが、シネンシス系はロゼット性(暑さや寒さなど環境条件が成長に不適である場合に、イチゴやタンポポのように節間が著しく短い状態になる性質)が弱いそうです。ロゼット化した場合は、低温処理をすることによって、ロゼットが打破されるそうです。地域、気温、品種によって異なると思いますが、広島県で、‘ハイランドブルー’と言う品種に、11月〜12月の自然の低温を0〜40日間当てたところ、低温に当てた期間が長いほど、抽台や開花までの期間が短くなる、切り花長が長くなる、花蕾数や切り花本数が増える、などのメリットがあったそうです。
種間雑種の主要な交配親の一つです。D. elatum (エラツム種)を種子親、グランディフロルム種を花粉親にして、D. × belladonna (ベラドンナ種)が育成されています。他に、現在の園芸種の主流となっている D. × cultorum (クルトルム種)の育成にも関わっています。 赤い花を咲かせる矮性の雑種を作ろうとして、グランディフロルム種(2n=16、青花、矮性)とD. cardinale (カルディナレ種、2n=16、赤花、高性)や D. nudicaule (ヌディカウレ種、2n=16、赤花、高性)を種間交雑させた研究があります。カルディナレ種を種子親、グランディフロルム種を花粉親にした組み合わせと、グランディフロルム種を種子親、ヌディカウレ種を花粉親にした組み合わせで雑種が出来たそうです。組み合わせによる違いや、個体差があったようですが、出来た雑種には、草丈が高い、花穂がよく分枝する、花色と葉の形は両親の中間型、と言った特徴があったそうです。雑種の草丈が片親であるグランディフロルム種より大きかったことから、草丈が高い形質は矮性に対して優性であると推察され、本来の目的であった矮性の雑種は出来なかったそうです。また、花穂が分枝する形質はしない形質に対して優性であると推察されたそうです。 倍数性の異なる種(しゅ;species)との交雑を試みた研究もあります。グランディフロルム種(2n=16)と D. hybridum (ヒブリドゥム種、2n=4x=32の4倍体、花は二重で白色、高性)を交雑させた場合、雑種は3倍体(2n=3x=24)だったそうです。雑種の形態は、草丈と花序の形はヒブリドゥム種に似ていたそうですが、花は一重で、グランディフロルム種に似ていたそうです。また、両親よりも花が大きく、花穂の本数が多かったそうです。花色は両親と異なり、葉の形は両親の中間型だったそうです。 これまでに説明した組み合わせで作られた雑種は、いずれも稔性がなかったそうですが、コルヒチンで染色体数を倍加することで稔性が回復するだろうと推察されています。
グランディフロルム種の花には、色素としてアントシアニンが含まれていますが、濃い青色の花に含まれている主要な色素はシアノデルフィンとビオルデルフィンだそうで、前者は総アントシアニン量の50%以上を占めるそうです(参考までに、デルフィニウム属では、シアノデルフィンは青色系[淡青色系]、ビオルデルフィンは紫色系[淡紫色系]に関わっているそうです)。一方、これらの色素の前駆物質である、アシル基が結合していないデルフィニジン配糖体(ツリパニンなど)は検出されなかったそうです。また、前述のヌディカウレ種やカルディナレ種との雑種の花には、ビオルデルフィンは含まれていたそうですが、シアノデルフィンは含まれていなかったそうです。 なお、デルフィニウム属植物の色素の詳細については、デルフィニウム属の解説ページをご覧下さい。
地下部は、漢方薬として用いられる黄連(キンポウゲ科オウレン属植物の根茎を乾燥したもの。消炎、止血、瀉下に用いる)の代替品として用いられているそうです。また、モンゴルでは、民間薬として用いられているそうです。薬効との関連は不明ですが、多くのアルカロイド(norditerpenoid alkaloids)が単離されています。
本棚以外の参考文献
勝谷範敏ら.シネンシス系デルフィニウム品種の2番花の開花に及ぼす低温処理の効果について.園芸学会雑誌第69巻別冊2.461ページ.2000年.
Honda, K. et al. Production of interspecific hybrids in the genus Delphinium via ovule culture. Euphytica. 96: 331-337. 1997.
Honda, K. et al. Use of ovule culture to cross between Delphinium species of different ploidy. Euphytica. 129: 275-279. 2003.
Honda, K. et al. Analysis of the flower pigments of some Delphinium species and their interspecific hybrids produced via ovule culture. Scientia Horticulturae. 82: 125-134. 1999.
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Hashimoto, F. et al. Changes in flower coloration and sepal anthocyanins of cyanic Delphinium cultivars during flowering. Bioscience, Biotechnology and Biochemistry. 66: 1652-1659. 2002.
Batbayar, N. et al. Norditerpenoid alkaloids from Delphinium species. Phytochemistry. 62: 543-550. 2003.
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