ギプソフィラ属の解説は、こちらをご覧下さい。 同属のシュッコンカスミソウ (G. paniculata;パニクラタ種)や G. muralis(ムラリス種)などもカスミソウと呼ばれることがありますが、カスミソウとは、本来は、このページで紹介している G. elegans (エレガンス種)に付けられた和名です。なお、シュッコンカスミソウの「シュッコン」は、宿根性(多年生で、地下にある根や芽で越冬する性質)の「宿根」なので、一年生であるカスミソウをシュッコンカスミソウと呼ぶことはありません。 原産地は、ウクライナ南部からイラン北部にかけてのコーカサスを挟む地域だそうですが、ヨーロッパ中に帰化しているそうです。日本には、大正初期に渡来したそうです。
耐寒性がある一年草です。形態については、ギプソフィラ属の解説をご覧下さい。カスミソウの特徴の一つとして、一年生であることが挙げられます。花序の基本単位は二出集散花序(岐散花序)です(上の写真・右)。私が観察した限りでは、‘コペントガーデンマーケット’の主枝の上位節の腋芽は側枝にならず、直接花序が発生しました(花序の写真で、花序の付け根から上下に伸びているのは主枝です)。小花は、多くて5番花まで分化していました。主枝の下位節の腋芽は、今のところ、まだ十分に発達していません。今後、気付いたことがあったら追記します。
| シュッコンカスミソウの花序も基本単位は二出集散花序で、これが複総状花序を形成し、種形容語(種小名)の paniculata(円錐花序の)の通り、花序が円錐状になりますが、‘コベントガーデンマーケット’は、現時点では分枝が少ないため円錐状に見えません。分枝が少ないこともカスミソウの特徴かもしれませんが、‘コベント〜’以外の品種も同様かどうかは分かりませんでした。花弁は、基本数は5枚ですが、それより多く半八重になることがあります。左の写真は‘コベント〜’の小花ですが、花弁が10枚あります。カスミソウの花色には、白、淡桃、バラ色、紅、紫があるそうです。 |
園芸品種として、写真の‘コベントガーデンマーケット’の他、‘コベントガーデン(Covent Garden)’(マーケットが付く品種と何か関係があるのでしょうか?)、‘Giant White’、‘Purpurea’、‘Red Cloud’、‘Rosea’などがあるそうです。「最新園芸大辞典」や「花卉品種名鑑」によると、変種(variety; var.)として、アカバナカスミソウ(あるいは、ベニバナカスミソウ;var. carminea hort.)とシロバナカスミソウ(var. albagrandiflora hort.)があるとされていますが、「The New RHS Dictionary of Gardening」では、これらの変種は園芸品種として扱われています(それぞれ、‘Carminea’、‘Grandiflora Alba’)。
切り花や鉢花、花壇のボーダーとしての用途があります。栽培ですが、繁殖は実生によります。タネ播きの適温は18〜20℃だそうで、普通は春か秋に行います。寒冷地では春播きします。個人的な経験では、仙台では秋播きも出来ます。暖地では秋播きしますが、この場合はロゼットで冬を越します。参考までに、自生地ではタネの状態で夏を越すそうです。直播きが向いています。日当たりと排水が良いところを好みます。土壌はアルカリ性が向いているそうです。
シュッコンカスミソウには悪臭がする品種があり、メチル酪酸が悪臭の原因物質として同定されています。しかし、カスミソウの‘コベントガーデンマーケット’からはメチル酪酸が検出されなかったそうで、実際、悪臭がありません。カスミソウの他の品種ではどうなのか、気になるところです。
竹田氏の研究によると、‘コペントガーデンマーケット’の生育には日長が大きな影響を及ぼし、温度が及ぼす影響は小さいそうです。 1年を通して、およそ一ヶ月ごとに播種した場合(日長は自然日長、夜温は最低でも15℃に保温)、播種から3ヶ月以内に抽台した株の割合は、1〜7月と12月に播種した場合は85〜100%だったそうですが、8〜10月末に播種した場合は0〜45%だったそうです。5〜6月に播種した場合はおよそ50日ほどで開花したそうですが、草丈が低かったそうです。9〜12月に播種した場合は、開花までに約150〜230日かかったそうですが、草丈が高かったそうです。 10時間以下の日長では抽台しないそうですが、12時間以上の日長で抽台・開花したことから、質的長日性(花芽分化するかしないかの境となる限界日長を持ち、限界日長以上の日長時間で花芽分化する性質。より正確には、限界暗期より短い暗期で花芽分化する)であると言われています。また、日長時間が長いほど、抽台株率が高く、播種から開花までの日数が短くなったそうです。 シュッコンカスミソウは高温でロゼット化が誘導されますが、カスミソウは高温期に播種しても人為的に長日処理を行うことで抽台が起こったり、自生地では種子の状態で夏を越すことから、カスミソウのロゼット化は高温ではなく短日によって誘導されると推察されています(‘コペントガーデンマーケット’以外の品種ではどうであるか不明です)。
本棚以外の参考文献
Nimitkeatkai, H., et al. Characteristics of unpleasant odor emitted by Gypsophila inflorescences. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science. 74: 139-143. 2005.
竹田 義.カスミソウ(Gypsophila elegans Bieb.)の抽台と開花に及ぼす播種期、日長および栽培温度の影響.園芸学会雑誌.第64巻:875〜882ページ.1996年.
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