メモ | アブチロン属の解説は、こちらをご覧下さい。 単にアブチロンと呼ぶ場合は、A. × hybridum (ヒブリドゥム種)を指すようで、園芸品種の多くが一括してまとめられているそうです。「世界の植物」では、この学名に「フイリアブチロン」(斑入りアブチロン)という和名(?)が当てられていましたが、「園芸植物図譜」では、フイリアブチロンは、ヒブリドゥム種の園芸品種の‘Savitzii’とされています。 正名の命名者名は、「The Plant-Book」では「Siebert et Voss」、「世界有用植物事典」、「園芸植物図譜」、「最新園芸大辞典」では「Voss」となっていましたが、ここでは、それ以外の資料に従い、「hort.」としました(hort. は、hortorum[庭園の]、あるいは、hortulanorum[園芸家の]の略号で、裸名[「国際植物命名規約」に則り正式に認められた学名を有効名と呼ぶのに対して、有効名として認められるための条件を満たしていない名前]に付けます。なお、裸名であることを示す場合は、「nom. nud.; nomen nudum」を用います)。異名は、「The New RHS Dictionary of Gardening」によります。 「flowering maple(花が咲くカエデ)」という英名は、アブチロン属植物一般の英名のようです。もちろん、カエデとは何の関係もありません。 詳細は後述しますが、交雑種です。日本には、大正時代に導入されたと言われています。
常緑の低木です。中には、2メートル以上になる品種もあるそうです。葉は、切れ込みがないか、3裂か5裂しています。斑が入っていることがあります。葉序は互生です。花は葉腋に一つ着き、通常、下向きに咲きます。萼片は筒状で、先端は5裂します。花弁は5枚です。花色は、白、赤、黄、オレンジ、藤桃などがあります。
交雑の由来については、はっきりしたことが分かっていないそうですが、ショウジョウカ(A. pictum)とウキツリボク(チロリアンランプ;A. megapotamicum)が関わっているとも言われています。交雑や突然変異で生じた物や、それらから選抜された物だそうです。 園芸品種として(カタカナ表記がある品種については、日本でも販売)、‘Apricot’、‘Kentish Bell (ケニッシュベル)’、‘Souvenir de Bonn (スーベニア・デ・ボン)’、‘Violetta’、‘エリック・ライラック’、‘ホワイトキング’、その他があるそうです。写真は、‘ベラ(Bella)’ミックスとして販売されていた物ですが、写真の一株しか開花に至らなかったので、一色だけです。‘ベラ’シリーズとして、‘ベラ・アプリコットシェード’、‘ベラ・サーモンシェード’、‘ベラ・ディープコーラル’、‘ベラ・レッド’があるそうです。
花壇や、鉢物としての用途があります。 繁殖は、挿し木か実生によります。挿し木は、20℃以上で行い、挿した後は遮光すると良いそうです。播種の適期は春で、発芽の適温は18〜24℃だそうです。日当たりが良く、排水の良い土地が向いています。栽培の適温は20〜25℃だそうです。温度が15℃以上に保たれれば、一年を通して開花させることが出来るそうです。耐寒性に幅があり、半〜非耐寒性だそうで、10℃以上に保つと良いと言われています。冬の間は、灌水を控えます。夏の暑さには強いです。
品種は不明ですが、アブチロンを短日条件(9時間日長)か長日条件(9時間日長+4時間の暗期中断)で栽培して、開花の早さを比較した研究があります。これによると、短日条件で栽培した株の方が開花が早かったそうですが、長日と比較してそれほど大きな差がなかったそうです。このことから、開花に関しては、日長に左右されない中性であると推察されています(研究に使われた品種に限ってのことだと思いますが)。なお、草丈と幅は、短日で小さくなったそうです。 ジベレリン生合成阻害剤の一つであるアンシミドールという薬品を使ったところ、幅が狭くなったり、濃度が濃い場合は、株当たりの花の数が少なくなったそうですが、草丈には影響が認められなかったそうです。摘心した上でアンシミドール処理を行ったところ、アンシミドールが濃い場合に草丈が低くなったそうです。 以上のようなことから、鉢物向けに草丈の低いアブチロンを栽培する場合は、日長を短日にすることが推奨されています。
本棚以外の参考文献
CRC World Dictionary of Plant Names -Common names, scientific names, eponyms, synonyms, and etymology. CRC Press. 2000.(英名)
本田正次.イチビ.世界の植物.833ページ.朝日新聞社.1976年.
Chapman, B. M., et al. Controlling height of Abutilon hybrids with ancymidol, mechanical pinching and photoperiod. Scientia Horticulturae. 36: 125-129. 1988.
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