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シャスターデージー

シャスターデージー
品種:‘スノーレディー(Snow Lady)’


キク科レウカンテムム属
学名正名:Leucanthemum × superbum (J. Ingram) Kent
異名:Chrysanthemum burbankii MakinoC. hybridumC. maximum (hort.) non (Ramond)C. × superbum Bergmans ex J. Ingram
英名Shasta daisy
和名シャスターデージー(シャスタ・デージー)
別名 
花言葉愛情
メモ

 レウカンテムム属の解説は、こちらをご覧下さい。
 種間交雑で育成された種です。日本には1940年(昭和15年)に導入されたのが最初だそうです。

 学名の正名は、「The Plant-Book」、「The New RHS Dictionary of Gardening」に従いました。また、正名の命名者名が資料によって違いますが、ここでは「The Plant-Book」に従いました。
 C. burbankii という学名は、牧野富太郎博士が1929年に付けたものだそうですが、これは、アメリカの育種家であり、シャスターデージーを育成したルーサー・バーバンク氏(Luther Burbank、1849〜1926年)を記念する物だそうです。もともと、欧米では、シャスターデージーの交配親の一つである L. maximum (Ramond) DC. (マキシムム種、異名:C. maximum Ramond)と同じ学名(ただし、命名者名は上記の通り、違います)とされていたのを、交配親と区別するために付けたもののようです。
 C. hybridum という学名は、先のバーバンク氏の著書「How plants are trained to work for man(1921年)」の日本語版「植物の育成」によります。ただし、この本に、カタカナで「クリサンテムム ヒブリドゥム」と書いてあった物に、私が勝手に学名を当てさせて戴きました。命名者名は不明です(もしかしたら、バーバンク氏かもしれません)。他の資料で、シャスターデージーの学名を C. hybridum としている物は、見つかりませんでした。

 英名は、カリフォルニア州にある、万年雪に覆われたシャスタ山に因むそうですが、この山の近くで育成されたことによると言われています。なお、シャスタ(shasta)は、インディアンの言葉で「白」を意味するそうなので、もしかしたら、花の白さをシャスタ山の雪に例えたのかもしれません。

 シャスターデージーは、先述の通り、バーバンク氏によって育成されました。作出された年は、「園芸植物大事典」と Griffin氏らの論文では、1901年とされています(「原色・花卉園芸大事典」では1920年に作出されたとされています)。
 「植物の育成」によると、交配に利用されたのは、アメリカ東部のオックスアイ・デージー(フランスギク)(原産地はユーラシア)、ヨーロッパ産のマキシムム種(原産地はピレネー山)、ドイツの農場から入手した L. lacustre (Brot.) Samp. (ラクストレ種。原産地は西ポルトガル)、日本産のハマギク(正名:Nipponanthemum nipponicum (Maxim.) Kitam.、異名:C. nipponicum (Franch.) Matsum.L. nipponicum)の4種だそうです。まず、純白に近い花を咲かせるオックスアイ・デージーを選抜してこれを種子親とし、マキシムム種の花粉を受粉させたそうです(オックスアイデージーの優美さ、多花性、早咲き、マキシムム種の花の大きさを期待)。この交配で出来た雑種とラクストレ種を交配させ(どちらが母親で、どちらが父親かは不明)、その雑種から純白に近い物を選抜したそうです(ただし、この雑種の花には、バーバンク氏が理想としている澄み切った白さがなかったそうです)。選抜された雑種を種子親とし、純白の花を咲かせるハマギクの花粉を受粉させて出来たのが最初のシャスターデージーで、これまでの雑種にないほどの美しい純白の花を咲かせたそうです。現在も交配が行われていて、主な交配親は、マキシムム種とラクストレ種だそうです。
 なお、バーバンク氏が交配に用いた種には不明瞭な点があるとされ、葉緑体DNAPCR-RFLP分析して、交配親を推測しようとした研究があります。この研究から、フランスギク()が種子親として育成に関わっていることが推測されたそうなので、バーバンク氏の最初の交配のうち、母親の方は間違いなかったと言えると思います。また、シャスターデージーの育成に関わった日本産のキクはハマギクではなく、コハマギクという説もありますが、シャスターデージーとコハマギクとでは、PCR-RFLP パターンが異なったそうです。
 参考にした岸本氏らの文献では、フランスギクの学名が Leucanthemum lacustre とされ、「・・・母親としてフランスギクがシャスターデージーの育成に関わっていることが推測され、・・・」と説明されています。しかし、私が調べた限りでは、フランスギク(オックスアイ・デージー)の学名は L. vulgare (異名:C. leucanthemum)ですし、ラクストレ種の和名は不明です。

 耐寒性がある多年草です。茎は直立し、大きい物では、草丈が1メートルにもなります。葉には鋸歯があります。茎や葉に毛がありません。花序は頭状で単生します。花序の直径は、5〜10cmです。舌状花は純白、筒状花は黄色です。一重咲きの他、二重咲き、八重咲きがあります。
 繁殖は、実生、株分け、挿し芽のいずれかで行います。播種は春か秋に行います。種子は好光性なので、播種の際は、覆土を薄くします。株分けは開花後に行うと良いそうです。日当たりの良い沃地を好みます。高温と乾燥に弱いそうです。
 園芸品種として、‘アラスカ’、‘大雪’、‘銀河’、‘清流’、‘Bishopstone’、‘T. E. Killian’、‘Cobham Gold’、‘Littele Silver Princess’、‘Snow Cap’などがあります。写真の‘スノーレディー(Snow Lady)’はサカタのタネが育成した一代雑種(F1雑種)の品種で、1988年に A.A.S. (All-America Selections) に入賞しました。極矮性(約30cm)、極早咲きという性質があります。極早咲きに関しては、詳細は後述しますが、幼若相がなく、花芽分化に低温を要求しない(春化を必要としない)ことと関係があると思われます。なお、園芸品種は、草丈によって、高性(50〜80cm)、矮性(20〜30cm)に大別されるそうです。また、品種によって、開花の早晩性が異なります。
 花壇などに植える他、切り花としての用途もあります。

 春〜夏に成長し、秋〜冬にロゼット状態になります。花芽分化には、春化(一定期間の低温[一般に、5〜15℃]に遭遇し、その低温の後作用として花芽分化する現象、または、作用のこと)を必要とするそうです。また、春化後は長日で花芽分化・開花が促進される長日性です。

 春化に関して、‘Snow Cap’という品種の場合、効果がある温度は0〜5℃で、10℃では0〜5℃に比べて効果が若干劣り、開花が5〜10日ほど遅くなるそうです。また、低温処理期間(低温遭遇量)は、品種にもよるようですが、2週間よりも、4週間以上で開花が促進されるそうです。なお、‘スノーレディー’は低温に遭遇しなくても開花できるそうです。春化には、低温を感受できない幼若相から、感受できる成熟相に移行している必要がありますが、‘スノーレディー’は、子葉が展開した状態(この状態では、普通は幼若相)で低温遭遇させても、開花することが出来るそうです。‘スノーレディー’が極早生なのは、このようなことが関係しているのかもしれません。
 春化後の温度について、‘Snow Cap’を低温に遭遇させた後に15〜26℃(日長は、暗期中断による長日)で栽培した場合、温度が高いほど、開花が早くなったそうですが、花の数が少なくなったり、花の直径が小さくなったり、草丈が低くなったりしたそうです。このようなことから、春化後の温度は、18〜21℃で栽培することが推奨されています。

 長日性なので、促成栽培する場合は、電照によって日長を長くすると、開花までの日数を短縮できると言われています。なお、限界日長(花芽が分化するかしないかの境となる日長)に品種間差異があるそうで、‘Esther Read’という品種では、13時間以上、‘T. E. Killian’という品種では、15時間以上の日長で開花したそうですが、いずれの品種も、限界日長より短い日長では、栄養成長を続けたそうです。また、日長が長い場合に、茎の長さが長くなったり、花の直径が大きくなったり、1株当たりの花の数が増えたそうです。なお、12時間日長で栽培した‘Esther Read’の葉はロゼット状に発生したそうなので、ロゼットは短日によって誘導されるのかもしれませんが、ロゼットを誘導する環境条件に関する資料は見つかりませんでした。


本棚以外の参考文献
  • ルーサー・バーバンク著(中村為治訳).植物の育成(一).岩波文庫(青937−1).岩波書店.1955年.

  • 塚本洋太郎監修.原色・花卉園芸大事典.養賢堂.1984年.(シャスター・デージー:439〜440ページ)

  • Griffin, C.W., et al. Photoperiodic response of Shasta daisy clones Esther Read and T. E. Killian. Proceeding of the American Society for Horticultural Science. 85: 591-593. 1964.

  • 岸本早苗ら.キク属植物における葉緑体DNA遺伝子のPCR-RFLP分析.園芸学会雑誌第68巻別冊2:365ページ.1999年.

  • Niu, Genhua., et al. Vernalization and devernalization of Campanula 'Birch Hybrid' and Leucanthemum × superbum 'Snow Cap'. HortScience. 39: 1647-1649. 2004.

  • Damann, M. P., et al. Juvenility and photoperiodic flowering requirements of Chrysanthemum × superbum 'G. Marconi' and 'Snow Lady' grown under short-and long-day conditions. Journal of the American Society for Horticultural Science. 120: 241-245. 1995.

  • Yuan, M., et al. Effect of forcing temperature on time to flower of Coreopsis grandiflora, Gaillardia × grandiflora, Leucanthemum × superbum, and Rudbeckia fulgida. Hortscience. 33: 663-667. 1998.

コメント

 播種は2003年の9月上旬、発芽はその5日後、最初の開花は2004年の6月中旬です。開花期間が短かったと思いますが、どれくらいだったかは記録していませんでした。今は、越冬中で、ロゼット化しています。播種から現在まで、無加温の温室内で育てています。暖かくなって、また開花したら、追記したいと思います。
 コレクションに追加しました。関連する文献を読んでいたら、‘大雪’と‘Snow Cap’と言う品種もあることが分かりました。これも、ぜひ実物を見てみたいです(^^)(2005.2.6.)

 
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