このページ内の文章・画像の転載を禁止します


ビジョナデシコ

ビジョナデシコ
品種:‘ブラックベアー’(実物は、黒っぽい色をしています)


ナデシコ科ダイアンサス属(ナデシコ属)
学名Dianthus barbatus L.
英名Sweet William
和名ビジョナデシコ(美女撫子)
別名ヒゲナデシコ(髭撫子)、アメリカナデシコ
花言葉ダイアンサス属の解説参照
メモ

 ダイアンサス属の解説は、こちらをご覧下さい。
 図鑑によって、アメリカナデシコが和名、他が別名となっていることがありますが、ここでは「園芸植物大事典」に従いました。別名のヒゲナデシコは、総苞が長く髭のように生えていることから付けられたものと思われます。また、種小名(種形容語)の「barbatus」も、「髭のある」という意味です。
 原産地は南ヨーロッパで、ピレネー山脈からカルパチア山脈・バルカン山脈にかけての地域に自生しているそうですが、栽培の歴史が長いことから、世界中に広く帰化しているそうです。日本には明治20年(1887年)に渡来したと言われています。

 短命の多年草だそうですが、園芸上は二年草として扱うそうです。また、少ないようですが、一年草として栽培できる品種もあるそうです。葉は披針形〜長楕円形で、対生しています。花序に多数の花が着きます。萼は筒状で、先端が5裂していて、基部に長い総苞があります。花弁は一重の花では5枚です。雄しべは10本あります。子房は一つで、2本の花柱があります。
 栽培ですが、繁殖は実生か挿し芽で行います。播種の適温は20℃だそうで、春播き、秋播きいずれでも出来ます。ただし、ビジョナデシコは緑色植物体春化型なので、花芽分化するために低温遭遇を必要とする品種では、秋播きして株が十分に育っていない(幼若相にある)場合は低温に感応できないために、播種の翌年には開花せず、その次の年の春に開花します。このことの詳細については、後述します。日当たりが良く、肥沃で水捌けの良い土地が向いているそうです。比較的耐寒性がありますが、極度の寒さ(−5℃)からは保護してあげると良いそうです。
 花壇や鉢に植える他、切り花としての用途があります。
 園芸品種として、‘石井早生’、‘脚光’、‘寒咲不知火’、‘蛇の目’、‘プロバンス’、その他があります。写真の‘ブラックベアー’は晩生の品種で、黒っぽい花を咲かせますが、デジカメの性能のせいか、赤っぽい色にしか撮れませんでした。
 また、ビジョナデシコはダイアンサス属の他種と交雑しやすいらしく、D. × allwoodii との交配で、‘Sweet Wivelsfield’のような雑種も育成されているそうです。

 先述の通り、緑色植物体春化型で、花芽分化するためには、一定以上に成長した植物体が低温に遭遇する必要があるそうですが、品種によって必要とする低温量に違いがあり、低温(実験では5℃)に遭遇しなくても開花する品種がある一方で、3〜9週間の低温処理をしないと開花しない品種もあるそうです。この低温要求性の差は、秋播き栽培において早晩性の異なる品種の育成が行われた結果として生じたと推察されています。また、‘黒川早生’と言う品種のみの結果ですが、低温要求量を満たしたかどうかで日長に対する反応が異なり、長日は、低温に十分遭遇した株では生殖成長を促進させ、低温に十分遭遇していない株では栄養成長を促進させたそうです。なお、これも‘黒川早生’のみの結果ですが、吸水した種子に低温処理を行っても、発芽した苗はロゼットのままで抽台・開花しなかったそうです。このことから、種子春化型ではない、と言えると思います。
 夜温(10℃、5℃、無加温室で最低室温2.3℃)が生育に及ぼす影響について調査した実験からは、夜温が低いほど、開花率が高く、開花するまでの日数が長く、切り花長が長く、切り花重が重く、分枝数が多くなる傾向があることが分かったそうです。なお、夜温が10℃の場合、品種によっては開花率が著しく低くなったことから、完全に開花させるには、冬は4℃以下の最低夜温に遭遇させることが推奨されています。

 ビジョナデシコの花の老化には、エチレンが関わっているそうです。そこで、エチレンの作用を阻害する STSsilver thiosulfate complex;チオ硫酸銀錯塩[チオスルファト銀錯塩])の効果を確かめたところ、STSを用いなかった花より、用いた花の方が2倍以上花持ちが良かったそうです。また、STSは重金属である銀を含むために環境への負荷が懸念されることから、重金属を含まないエチレン阻害剤である 1-MCP1-Methylcyclopropene:1-メチルシクロプロペン)が STS の代替となり得るかを調べたところ、ビジョナデシコの花持ちは、STS を用いた場合とほとんど遜色なかったそうです。
 詳細は省略しますが、遺伝的に多様性がある‘‘Dagan’’という集団の中には、外生のエチレンに対して感受性のない系統が含まれているそうです。現在、エチレンに感受性がないか、内生エチレンを生成しないカーネーションを遺伝子組み換えで作る研究がありますが、ビジョナデシコの外生エチレン非感受の形質を戻し交配でカーネーションに導入することが出来れば、遺伝子組み換えに抵抗がある人にも受け入れられるのでは?と思います。
 植物の中には、例えばガーベラのように、殺菌剤を活け水に混ぜると花持ちが良くなる種類がありますが、ビジョナデシコでは、殺菌剤(試されたのは、BCDMHDICA8-HQC の3種類)を用いても花持ちが長くならなず、効果が認められなかったそうです。

 交配の他、体細胞融合によって、新しい雑種を作ろうとした研究もいくつかあります。ここでは、2つの例を取り上げたいと思います。
 ダイアンサス属の他種との細胞融合の例ですが、赤色で白の覆輪の花を咲かせるビジョナデシコと濃いピンクの花を咲かせるセキチクのプロトプラストをポリエチレングリコールで細胞融合したところ、薄いピンクで赤のストライプが入った花を咲かせる雑種が出来たそうです。この雑種には、極度の矮性、8時間のような短日でも開花し連続開花性を示す、ほとんどの花が雄性不稔(一部で成熟した花粉を作ることもある)、と言うような特徴があったそうです。
 また、ナデシコ科の他属との体細胞融合の例ですが、赤花のビジョナデシコと八重で白花のシュッコンカスミソウのプロトプラストを電気的細胞融合させたところ、赤で中心が白色の花を咲かせる雑種が出来たそうです。この雑種には、雄性不稔、早咲き、植物成長調節物質がない条件下では極度の矮性を示す、という特徴があったそうです。
 なお、いずれの体細胞雑種も、実験環境下では生存できたそうですが、土に移したところ、枯死してしまったそうです。また、染色体数は、ビジョナデシコは 2n=30、セキチクは 2n=30、シュッコンカスミソウは2n=34 だそうですが、セキチクとの体細胞雑種では2n=52、シュッコンカスミソウとの体細胞雑種では2n=55と、いずれの体細胞雑種でも、両親の染色体数を合計した数にはならなかったそうです。


本棚以外の参考文献
  • 竹田 義.種子繁殖性ダイアンサスの開花に及ぼす低温と日長の影響ならびにその品種間差異.園芸学会雑誌.第65巻:615〜623ページ.1996年.

  • 藤野守弘.アメリカナデシコの開花に及ぼす夜温の影響.農業および園芸.第55巻:335〜336ページ.1980年.

  • Margrethe S., et al. Effects of 1-MCP on the vase life and ethylene response of cut flower. Plant Growth Regulation. 16: 93-97. 1995.

  • Friedman, H., et al. Ethylene-insensitive related phenotypes exist naturally in a genetically variable population of Dianthus barbatus. Theoretical and Applied Genetics. 103: 282-287. 2001.

  • Jones, R. B., et al. The effect of germicides on the longevity of cut flowers. Journal of the American Society for Horticultural Science. 118: 350-354. 1993.

  • Nakano, M., et al. Somatic hybridization between Dianthus chinensis and Dianthus barbatus through protoplast fusion. Theoretical and Applied Genetics. 86: 1-5. 1993.

  • Nakano, M., et al. Intergeneric somatic hybrid plantlets between Dianthus barbatus and Gypsophila paniculata obtained by electrofusion. Theoretical and Applied Genetics. 92: 170-172. 1996.

コメント

 播種は2002年10月上旬、発芽はその6日後、最初の開花は今年の4月末です。無加温のガラス温室内で栽培していました。播種した年と開花した年が、セイヨウオダマキと一緒です。播種から開花までに1年以上かかったこともあって、咲いた時は嬉しかったです。昨年は、低温遭遇量が少なかったのかどうか分かりませんが、節間が詰まったまま葉っぱだけ増え続け、花が咲きませんでした。残念なことに、タネを着ける前に枯れてしまいました( つД`)゜・゜。原因は分かりませんが、根が腐ってボロボロになっていました。(2004.12.19.)

 
HOME   植物名一覧

このページ内の文章・画像の転載を禁止します