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ミヤコワスレ

ミヤコワスレ
品種:‘瀬戸の白雪’


キク科アスター属(シオン属)
学名正名:Aster savatieri Makino
異名:Miyamayomena savatieri (Makino) KitamuraGymnaster savatieri (Makino) Kitamura
英名 
和名ミヤマヨメナ(深山嫁菜)
別名ミヤコワスレ(都忘れ)、ノシュンギク(野春菊)、六月菊、アズマギク(東菊)
花言葉別れ、しばしの憩い、隠れた美しさ
メモ

 アスター属の解説はこちらをご覧下さい。
 果実に冠毛がないことからアスター属と区別し、ミヤマヨメナ属(Miyamayomena属、異名:Gymnaster属)に属するとする分類方法がありますが、これについては、最近の研究から異論が提唱されています。ここでは、新しい説に従いました。詳細については、ミヤマヨメナ属の解説をご覧下さい。近年発行された多くの図鑑でミヤマヨメナ属とされている中、これを知ってか知らずでか、「花卉品種名鑑」では Aster が正名、他が異名扱いされています。
 種小名は、1866(慶応2年)から1876(明治9年)にかけて日本の植物を採取した、フランス人の医師で植物学者であったPaul Amedee Ludovic Savatier(1830〜1891年)の名前に因むそうです。
 命名者名は、「園芸植物大事典」のミスが訂正されている「同・コンパクト版」に従いました。
 ミヤコワスレは、江戸時代以降に作られたミヤマヨメナの園芸品種に対する呼び名だそうです(ただし、後述しますが、江戸時代には、野春菊と呼ばれていたようです)。野生種と園芸品種を区別したことと関係があるのか、「原色園芸植物図鑑」では、ミヤマヨメナの学名を Aster savatieri var. genuina、ミヤコワスレの学名を A. s. var. hortorumとし、変種(variety;var.)として区別されています。「園芸植物図譜」では、ミヤマヨメナの学名は記されていませんでしたが、ミヤコワスレの学名は「原色園芸植物図鑑」と同じでした。ただし、アスター属の性別は男性なので、「genuina」は「genuinus」のように語尾変化させるべきだと思います。
 ミヤコワスレの名前の由来ですが、承久の乱(1221年)に失敗して佐渡に流された順徳天皇(1197〜1242年)が、御所の周辺に植えて愛でていた白菊を都忘れと呼び、島の人達もそれに倣ったことに因むそうですが、「いかにして契りおきけん白菊を都忘れと名付くるも憂し」と詠ったことが名称の由来となったそうです。ただし、ミヤコワスレの原種であるミヤマヨメナは佐渡にも自生しているものの、ミヤマヨメナが春に開花するのに対して、順徳天皇が愛でた白菊は秋に開花すると言う記録が残っていることから、これらは別種であると考えられるそうです。なお、順徳天皇の故事に因む「都忘れ」と言う名称が文献に表れたのは、法慶の「真野山皇陵記」(1482年、文明14年)が最初だそうです。
 名称の変遷について、貝原益軒の「大和本草」(宝永6年・1709年)には「六月菊 救荒本草に出たり。和名野春菊と云。(中略)。花は東菊に似たり。」と書かれているそうです。「救荒本草」は1406年の中国の文献だそうですが、それに記載されている六月菊は、実際は野春菊とは別の植物で、貝原益軒が日本の植物に当てはめて考えた結果、そうなってしまったそうです。なお、六月菊は、開花期がその頃であることに因む名前だそうです。また、「四季賞花集(上)」(文化2年・1805年)には、野春菊(文献の中では「野しゅん菊」)が生け花として使われていた記録が残っているそうです。更に、1856年(安政3年)の「本草図説(草部)」(日本で初めてリンネ分類を導入)には、図入りでノシュンギクの特徴が記されており、これが現在のミヤマヨメナの特徴と一致したことから、これ以前の文献に記されている野春菊がミヤマヨメナのことであると考えられるそうです。ミヤマヨメナの名称が登場するのは、松村任三氏の「増補・改正植物名彙」(1897年、明治30年)以降だそうですが、どのような理由でその名前が使われるようになったのかについては不明だそうです。また、ミヤマヨメナの別名としてのミヤコワスレが初めて文献に登場するのは、石井勇義の「原色園藝植物図譜第4巻」(1932年、昭和7年)だそうですが、これも名前が使われるようになった経緯については不明だそうです。なお、アズマギクと言う別名がありますが、本来は、Eringeron thunbergii A. Gray の和名です。
 ミヤマヨメナの原産地は日本で、箱根以南の本州、四国、九州の山地の林内に自生しているそうです。

 耐寒性がある多年草です。根出葉は卵状長楕円形で葉柄があり、上部の葉は長楕円形で葉柄がありません。いずれも鋸歯があり、互生しています。花(頭状花序)は側枝の先端に単生します。舌状花は雌花で、筒状花は両性だそうです。舌状花の花色は、野生種のミヤマヨメナは白〜青紫色だそうですが、園芸品種のミヤコワスレは、白、紫、桃、青紫色等があるそうです。筒状花の花色は黄色です。舌状花、筒状花ともに稔性があるそうです。花が終わった後に根出葉の葉腋から吸枝と呼ばれるロゼット状の側枝が発生します。染色体数はx=9で、2倍体、3倍体、4倍体があるそうです。
 増殖は、実生、株分け、挿し芽で行います。挿し芽は、春か秋に行うそうです。吸枝でも増やすことが出来るそうで、この場合は発生後に2〜3芽に株分けし、9〜10月に定植するそうです。もともと山地の下草のような性質があるため、夏の高温と強光は避け、半日陰におくと良いそうです。冬は日に当てるのが良いと言われています。土は排水性が良い物を選び、適湿を保つようにします。連作は避けた方が良いそうです。

 上の写真の‘瀬戸の白雪’は、みのる産業株式会社(みのるガーデンセンター)が育成した品種だそうで、他の瀬戸シリーズ(?)として、‘瀬戸の乙女’(紅桃色)、‘瀬戸の小波’(淡青紫色)、‘瀬戸の花嫁’(白色)があります。その他の品種として、‘桃山’(濃桃色)、‘浜乙女’(濃桃色)、‘青空’(淡青色)、‘紫式部’(濃紫色)、‘白鳥’(白色)などがあるそうです。

 生態について、大雑把には、9月〜10月頃(地域によると思います)に花芽分化し、ロゼットで越冬し、冬の低温に遭遇することでロゼットが打破され、5〜6月頃に開花します。
 もう少し細かい説明をしますと、以下のようになります。

花芽分化

 自然での花芽分化開始は、気温が18℃くらいになった頃だそうです。
 花芽は、2℃や20℃以上では分化せず、5〜15℃で分化したそうですが、最適な温度は10℃だそうで、この場合に最も早く花芽の分化・形成が進んだそうです。この時の日長は、短日(8時間)より長日(24時間)でやや促進されるものの、影響は小さいそうです。

ロゼット打破

 自然では、地域にもよりますが、1〜2月までの低温で打破されるそうです。人為的にロゼットを打破するには、1〜2℃で4週間の低温処理が必要だそうです。
 花芽を形成した後に低温に遭遇する必要があるそうで、花芽が分化する前に低温に遭遇させてもロゼットは打破されないそうです。
 低温の代わりにジベレリン(50ppm、1週間に1回計6回葉面散布)を施与してもロゼットを打破することが出来るそうです。

開花

 低温に遭遇しないと、ロゼット状態で開花してしまうそうです。
 開花は15℃くらいの夜温で早く開花するそうです。花芽分化と異なり日長の影響が認められ、長日で促進されるそうです。
 発蕾以後の高温(30℃以上)と低照度により、ブラインド(花がつかない現象)が起こりやすいそうです。



追記(2003.12.24.)
 参考文献に重岡氏らの文献を追加。それに伴い名称に関する内容を改訂しました。


本棚以外の参考文献
  • 重岡廣男ら.ミヤコワスレの名称の由来と学名の変遷についての一考察.農業および園芸.第77巻第7号:769〜777ページ.2002年.

  • 北村四郎.ミヤコワスレ.世界の植物.65〜66ページ.朝日新聞社.1975年.

  • Ito, M. et al., Phylogenetic relationships of Japanese Aster (Asteraceae, Astereae) sensu lato based on chloroplast-DNA restriction site mutation. Journal of Plant Research. 111: 217-223. 1998.

  • 塚本洋太郎.原色園芸植物図鑑.保育社.1964年.

  • 石田明.ミヤコワスレの促成栽培(第9報)開花および草丈伸長に及ぼす温度,日長,調節物質散布の影響.園芸学会雑誌.第35巻:66〜72ページ.1966年.

  • 石田明.ミヤコワスレの促成栽培(第11報)花芽分化ならびに発達に及ぼす温度,日長および高冷地の環境要素の影響.園芸学会雑誌.第38巻:82〜87ページ.1969年

コメント

 通販で苗を買いましたが、届いた時には既に開花していました( ̄▽ ̄;。ですから、自分で育てたという感じは今ひとつありません(^^;。苗を買うと、タネから育てるのと違って育てる楽しみが半減しちゃいますけど、これもコレクションのためです(笑)
 定植は4月中旬です。今は、ロゼット化しています。(2003.12.21.)

 
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