メモ | ケシ属の解説は、こちらをご覧下さい。 別名のグビジンソウは、「四面楚歌」で有名な楚国の項羽の愛人・虞美人の名前に由来するそうです。垓下の戦い(紀元前202年)で項羽が劉邦(漢の初代皇帝、高祖)に敗れそうになった時に自刃した虞美人が流した血から咲いたという伝説によるそうです。ただし、ヒナゲシが中国に渡来したのは唐の時代(618〜907年)と考えられているそうです。余談ですが、司馬遷の「史記」の四面楚歌の場面では、項羽が「虞兮虞兮奈若何(虞や虞や若[なんじ]を奈何[いかん]せん)」と詠っています。なお、中国には「麗春花」という呼び方もあるそうです。 原産地はヨーロッパで、ヨーロッパの温帯、熱帯アジア、北アフリカに分布しているそうです。日本に渡来した時期は不明だそうですが、室町時代以前に渡来したと考えられているそうです。
花弁の数は、基本数は4枚ですが、写真のような八重咲きの品種もあります。また、良く知られている品種として、‘シャーレー・ポピー(Shirley Poppies)’があります(Shirley の発音はシャーリーが正しいようですが)。これは、イギリスのコーンウォール州シャーレーに住んでいた牧師が選抜を繰り返して19世紀末に育成した品種だそうです。
耐寒性がある秋播きの一年草です。栽培について、もう少し詳しいことをケシ属のページで解説しています。
アルカロイドが含まれており、上記の他、腸管の炎症、気管支炎、肺炎などに対しても薬効があることが指摘されているようです。ただし、種子以外は毒性を持つことから、素人判断で使用しない方が良いと言われています。 最新のデータは見つかりませんでしたが、1992年に書かれた論文によると、単離されたアルカロイドは30種類以上あるそうです。それらのうち、主要なものは、ロエアジン(rhoeadine)、ロエアゲニン(rhoeagenine)等で、他に、プロトピン(protopine)、イソロエアジン(isorhoeadine)、イソロエアゲニン(isorhoeagenine)、パパベルビン(papaverrubines)、アロトロピン(allotropine)等々が含まれているそうです。花弁からは、ロエアジンとロエアゲニンが単離されています。 Soulimani の論文によると、薄層クロマトグラフィーという分析方法では、花弁からはアルカロイドは検出されなかったそうです。私の理解不足があるかもしれませんが、この実験で指標とされた物質は、モルヒネのようにヒナゲシに含まれていないとされているもので、なぜかロエアジン、ロエアゲニンは指標とされていませんでした。アルカロイドが検出されなかったのは、このせいだと思うのですが・・・? マウスに花弁から抽出した成分を与えたところ、量が多い場合は毒性を示したそうですが、適切な量では鎮静の効果があったそうです。 色素としては、フラボノイド系のルチン、マルビジン、coumarin、vitexin 等が含まれているそうです。
「世界有用植物事典」によると多産の象徴とのことですが、解説を読む限り、ケシ(P. somniferum)と混同されているような印象を受けました。また、「花の西洋史」でも、多産の象徴とされているのはケシでした。もっとも、「花ことば」によると、伝説や花言葉に関しては、ケシとヒナゲシが一緒に扱われていて区別できない場合があるそうです。
本棚以外の参考文献
Rey, J-P., et al. Analytical studies of isorhoeadine and rhoeagenine in petal extracts of Papaver rhoeas L. using high-performance liquid chromatography. Journal of Chromatography. 596: 276-280. 1992.
Soulimani, R., et al. Behavioral and pharmaco-toxicological study of Papaver rhoeas L. in mice. Journal of Ethnopharmacology. 74: 265-274. 2001.
堀田満ら編集.世界有用植物事典.平凡社.1989年.
A・M・コーツ著(白幡洋三郎ら訳).花の西洋史・草花編.八坂書房.1989年.
|