ゴマノハグサ科/キンバラリア(シンバラリア)属 |
学名 | 正名:Cymbalaria muralis P. Gaertn., Mey. et Scherb. 異名:Antirrhinum cymbalaria L.、Linaria cymbalaria (L.) Mill. |
英名 | Coliseum ivy, Kenilworth ivy, Ivy-leaf toadflax, Ivy-leaved toadflax, Mother-of-a-thousand, Mother-of-thousands, Oxford ivy, Oxford weed, Pennywort, Wandering sailor |
和名 | ツタガラクサ(ツタカラクサ;蔦唐草) |
別名 | ツタバウンラン、コロセウムアイビー、キンバラリア |
花言葉 | |
メモ | キンバラリア属の解説は、こちらをご覧下さい。 ヨーロッパの南西部や中部に自生しているそうです。世界の温帯地域に分布しているそうで、日本には、大正元年(1912年)に渡来したそうです。
「最新園芸大辞典」によると、var. alba、var. globosa、var. rosea と言う3つの変種があるとのことです。また、参考にした Bianco の論文によると、ssp. muralis と ssp. pilosa という2つの亜種があるようです。ただし、亜種については、「この分類には議論の余地がある」そうですし、「The New RHS Dictionary of Gardening」によると、キンバラリア属には C. pilosa と言う種があるようで、種や亜種等の分類については、まだ統一した見解がないのかもしれません。 日本で付けられた名前は、主に、ツタガラクサ(ツタカラクサ)とツタバウンランの二つがあるようですが、どちらが和名で、どちらが別名かは、はっきりしませんでした。参考までに、調べることが出来た図鑑では、以下の通りでした。ついでに、園芸上の分類などについても書いておきます。
日本帰化植物圖鑑 (長田武正) | ツタバウンラン | 一年草 |
最新園芸大辞典 (吉村幸三郎) | ツタガラクサ 別名:ウンランカズラ、マルバノウンラン(*) | 耐寒性多年草 |
原色園芸植物大圖鑑
| ツタカラクサ | 多年草 |
園芸植物図譜 (浅山英一) | ツタカラクサ 別名:ウンランカズラ、マルバノウンラン | 寒さに弱い |
世界有用植物事典 (堀田 満) | ツタガラクサ | 耐寒性多年草 |
園芸植物大事典 (横井政人) | ツタガラクサ | 耐寒性多年草 |
ミニ雑草図鑑 (廣田伸七) | ツタバウンラン | 一年草 |
Flower Oasis | ツタガラクサ | 耐寒性多年草 |
日本帰化植物写真図鑑 | ツタバウンラン | 一年草 |
発行年順で、下ほど新しい。括弧内は執筆担当者名(敬称略) *:別名はLinaria cymbalaria の項による。
以上のように、ツタガラクサ(あるいは、ツタカラクサ;以下、ツタガラクサで統一)としている図鑑の方が多かったです。また、全ての図鑑が、ツタガラクサ、ツタバウンランのどちらかしか書いていなくて、両方を併記している図鑑はありませんでした。なお、意図的に和名をツタガラクサとしている図鑑を多く紹介したわけではないことを申し添えておきます(メジャーな図鑑ではツタガラクサとなっているところを、いつもはチェックしていない図鑑からツタバウンランの名前を探し出したので、むしろ、その方が意図的ですが)。 「ミニ雑草図鑑」と「日本帰化植物写真図鑑」は、最近の図鑑にしては珍しく(?) 、「最新園芸大辞典」や「園芸植物大事典」を参考にしていないようでした。Web上では、Google で検索してみると、ツタガラクサよりツタバウンランの方がヒット数が多いですが、このサイトでは、ツタガラクサを和名、ツタバウンランを別名としました。初めて学名に和名を付けた原著が見つかればいいのですが、手掛かりはありませんでした。もし、参考となるような資料が見つかったら、場合によっては修正するかもしれません。
和名をツタガラクサとしている図鑑の他、「The New RHS Dictionary of Gardening」では多年草と説明されていますが、一部の図鑑では一年草とされています。「Flower Oasis」によると、「冬には地上部が枯れて、春には再び芽吹く」そうなので、キキョウなどと同じタイプの耐寒性宿根草(多年草)だと思われます。実際、種子は秋に播くことが出来るので、耐寒性はそれなりにあると思います。一年草扱いされたのは、地上部が枯れることによるものでしょうか? 匍匐性で、ロックガーデンやハンギングバスケットに向いているそうです。タネから育てる場合は、秋に播きますが、春播きも出来るそうです。覆土は1mm程度と薄くします。発芽は、適温下(20℃)でおよそ10日くらいかかるそうです。日当たりが良く、湿気がある場所を好むそうです。野生種は面倒な雑草となっているそうですが、園芸品種は野生種ほど生い茂らないそうです。低温には強いですが、高温には強くないそうなので、注意します。花が咲き終わった後、花柄は地面に向かって伸び、地中に潜ってそこで果実が成熟するそうです(落花生と同じでしょうか?)。繁殖は、種子の他、株分け、挿し芽でも出来るそうです。また、節から根を出すので、土を被せて根付かせることも可能だそうです。
「世界薬用植物百科事典」のトードフラックスの説明の中に近縁種として挙げてられいて、「時おりつぶされて傷に利用される」と説明されていましたが、使用量については不明でした。 また、Bianco の論文にも、全草が民間薬として利用されていると書いてありました。前述の通り、種・亜種については議論の余地があるようですが、亜種の pilosa からは、macfadienoside という、ノウゼンカズラ科、ハマジンチョウ科、ゴマノハグサ科の植物に含まれる成分の他、muralioside と言う新規のイリドイド(iridoid※)が単離されたそうです。これらの物質は、ssp. muralis には含まれていないそうです。また、Linaria cymbalaria と言う異名があるように、ツタガラクサはリナリア属に含まれていたことがあったそうですが(属の解説参照)、イリドイドを分析した結果からも、リナリア属に含める分類は適切ではない、と言うことが示されたそうです。
※ イリドイドとは、苦味のあるモノテルペノイドラクトンのグループのことで、双子葉植物(主に、より進化した科)に存在するそうです。化学的に不安定なため、構造が明らかにされるようになったのは1960年代初頭のことだそうで、脚光を浴びるようになったのは近年のことだそうです。多くの場合、グルコースが結合した配糖体となっているそうです。イリドイドを含む植物は民間薬として用いられた歴史があるそうで、強壮薬として利用された他、抗炎症、鎮静作用、抗菌活性などもあるそうです。しかし、高濃度であったり、酸がある状態では、イリドイド配糖体は毒性を持つようです。オオバコ属に含まれるイリドイド(catalpol)は、Euphydryas属のチョウの幼虫に摂取され、成虫に蓄積されますが、これは、鳥から身を守るためだと言われているようです。
本棚以外の参考文献
Quattrocchi, U. CRC World Dictionary of PLANT NAMES. Vol. I. CRC Press LLC. 2000.
長田武正.日本帰化植物圖鑑.北隆館.1972年.
本田正次ら監修.原色園芸植物大圖鑑.北隆館.1984年.
堀田満ら編集.世界有用植物事典.平凡社.1989年.
廣田伸七編著.ミニ雑草図鑑.全国農村教育協会.1996年.
清水矩宏ら編著.日本帰化植物写真図鑑 Plant invader 600種.全国農村教育協会.2001年.
A. シヴァリエ原著.世界薬用植物百科事典.誠文堂新光社.2000年.
Bianco, A., et al. Muralioside, an iridoid from Cymbalaria muralis. Phytochemistry. 44: 1515-1517. 1997.
Harborne, J. B., et al. (Editors). Phytochemical Dictionary. Taylor & Francis Ltd. 1993.
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コメント | 播種は昨年の10月上旬、発芽は播種から8日後、最初の開花は今年の2月中旬です。無加温の温室内で栽培しています。 サカタのタネの2002年秋のカタログ(園芸通信増刊)に、「コロセウムアイビー」の名前で載っていた新製品ですが、雑草とあまり変わらないような(^^;。実際、上記の「ミニ雑草図鑑」にも載っているくらいですし。もともと、観賞用として日本に導入されたようで、「園芸植物大事典」にも「山草家の間で栽培される」と書いてあったので、園芸植物としてはこれまで「渋好み」だったのが、英名でイメージチェンジして一般向けを狙ったのでしょうか?(^^;
余談ですが、「Flower Oasis」には、「コリセウムアイビー」という別名が紹介されていましたが、これは、英名の「Coliseum ivy」をカタカナ表記したものと思われます。でも、「リーダーズ英和辞典」(研究社)で発音記号をチェックしたところ、「Colosseum」と同じ発音で、「カラシ(ー)アム」に近いと思われました。コロセウムアイビーと言うより、「コロシアムアイビー」の方が良さそうな気がします。属名には「キンバラリア」、「シンバラリア」の二つの表記がありました。日本では、学名や英名を独自に表記してどんどん別名を作っているように思われますが、これも典型的な例なんでしょうね。ちなみに、「園芸植物大事典」によると「cy」のカナ表記は「キ」か「シ」だそうで(「c」はカ行、ときにサ行、「y」はイ)で、どちらでも間違いではないようです。もし、「cy」を「キ」と表記しなければならないとすると、シクラメン(Cyclamen)が「キクラメン」に、シンビジウム(Cymbidium)が「キンビジウム」になってしまいます(笑)(2003.3.15.) |
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