メモ | インパチェンス属の説明は、こちらをご覧下さい。 学名の正名と命名者名は「The Plant-Book」に、「I. hybrida」以外の異名は「The New RHS Dictionary of Gardening」に従いました。海外の論文の中には、交雑種であることを表しているのか、「× hawkeri」としている物もありました。また、「原色花卉園芸大事典」では、「hybridus(属名の性別は女性なので、hybrida が正しいと判断し、上記のようにしました)」とされていましたし、海外のウェッブページですが、やはり、「I. hybrida(あるいは、× hybrida)」としている物を見かけました。この他、「園芸学用語集・作物名編」には「I. New Guinea Group」、「園芸植物大事典」には「I. New Guinea Hybrids、I. New Cyclon Hybrids」、「花卉品種名鑑」には「I. Cultivars Neuguinea Group (Neu は原文のまま)」と記載されています。これらのうち、「園芸学用語集・作物名編」によると「I. New Guinea Group」は「国際栽培植物命名規約」に従った品種群名だそうで、種間交雑や種内交雑によって成立した品種群に付けられるそうです。I. New Guinea Group の場合、ニューギニア産の原種を親として出来た交雑種の総称と言うことかもしれません。
ニューギニア・インパチェンスは、ニューギニアを探検していたアメリカの農業調査局(Agricultural Research Service)の H. F. Winters と J. J. Higgins が、1970年にニューギニアの亜熱帯の高地で採取した原種を基にいくつかの種が交雑して出来た園芸種だそうです。採取された原種のうちの一種が、ニューギニア東部からソロモン島にかけて分布している I. hawkeri だったそうです。北米に持ち込まれた原種は、1972年にUSDA(アメリカ農務省)から国内の研究機関、民間の栽培家、アマチュアの育種家に分配され、それ以降に育種が始まったそうで、それからおよそ30年と園芸種としては比較的新しいそうです。その当時に育種に力を入れていたのは、ロングウッドガーデンズ、アイオワ州立大学、USDAの花卉研究所だったそうです。日本には、1980年代後半以降、本格的に導入されたそうです。 「原色花卉園芸大事典」では、「ニューギニアから持ち帰ったいくつかの種が従来のアフリカホウセンカに交雑され・・・」と解説されていましたが、Arisumi のニューギニア・インパチェンスの紹介記事(1976年)や論文(1980年)によると、ニューギニア産のインパチェンスは、アフリカホウセンカを始めとするアフリカ産のインパチェンス属植物とは交雑しなかったそうです。また、Arisumi の論文(1980年)では、ニューギニア産の原種として、I. herzogii、I. linearifolia、I. schlechteri、I. mooreana の4種が交雑実験に用いられていましたが、前述の通り、「The New RHS Dictionary of Gardening」では、I. mooreana 以外の3種は「I. hawkeri」の同一種として扱われていました。なお、ニューギニア産のインパチェンスは、ジャワ産の I. platypetala やスラウェシ(セレベス)島産の未同定の種(20年以上前なので、現在は正式に命名されているかもしれません)とは交雑が可能で、これらの原種が基になって、ニューギニア・インパチェンスが出来たようです。 なお、原種を採取した Winters 自身も、1973年にニューギニア産の新しいインパチェンスについて紹介したらしいですが(American Horticulturalist. 52: 16〜22ページ)、その論文は手に入れることが出来ませんでした。
栽培ですが、非耐寒性の多年草なので、日本では、一年草として扱います。種子は20℃くらいが発芽適温で、発芽までに、10日〜3週間かかるそうです。栽培温度は、最低15℃を保つと良いそうです。日当たりは強くない方が良く、半日陰が向いています。保水性の良い土に植えると良いそうです。温室で栽培すれば、一年を通して花を咲かせることが出来る四季咲き性の品種があるそうです。品種による違いがあると思いますが、日長時間を12時間以下、温度を15℃くらいにすると、花芽形成が促進されると言われているようです。種子の他、挿し芽で増やすことも出来るそうで、パーライトに挿し芽をして、保湿カバー等で水分を十分に保つようにすると、2〜3週間で根付くそうです。 日本で周年生産を行うことを目的として、栽培条件について検討した実験があります。この一連の実験には、‘アグリア’、‘コロナ’、‘テクラ’、‘ホピー’と言う、4品種(いずれも四季咲き性)が使われていましたが、品種による性質の違いが大きかったようです。ここでは、一番花付きが良かった‘アグリア’についてのみ、実験の概要を説明させていただきます。 作期の影響(自然日長下のガラス温室。冬〜春は15℃に加温、夏は寒冷紗1枚被覆) 4月、6月、10月、1月に定植したところ、6、10月定植で開花が遅く、草丈・草冠面積が小さかったそうです。これは、高温が成長に適さなかったためと考えられたそうです。 夜温の影響(夏:昼30℃、16時間日長。冬:昼成り行き温度、自然日長) 夏は、夜温が15℃の時に開花に至るまでの日にちが短く、開花した花の数が多かったそうですが、夜温が20℃や25℃の時は、15℃と比べて開花が若干遅れ、咲いた花の数が少なかったそうです。草冠面積は20℃で大きかったそうです。 冬は、夜温が20℃の時に開花に至るまでの日にちが短く、開花花数が多く、草冠面積が大きかったそうですが、それより低い10℃や15℃では開花が遅く、開花花数が少なく、草冠面積が小さかったそうです。 昼温の影響(16時間日長、夜温15℃、7月〜9月) 昼温25℃と30℃を比較した場合、25℃で第1花の開花から第7花の開花までの所要時間が短く、開花花数が多かったそうです。 夜温と日長の影響(昼温30℃、日長8、10、12、14時間、8月〜10月) 夜温が18℃の場合は、日長の影響はほとんど認められなかったようですが、夜温が23℃の場合は、12時間日長で第1花開花日が若干早くなり、開花数が多くなったそうです。
以上の他、山上げ栽培(平地より温度の低い高地で栽培する方法)についても検討されていましたが、割愛します。条件が揃っていないことがあって、一概に結論を下せないと思いますが、昼の温度は高くなりすぎないようにし、冬季は出来るだけ夜温を高く保つようにし、日長が12時間程度の時に開花が促進される、と言ったところでしょうか。実験2と3では16時間日長で実験が行われていますが、先ず始めに実験4のような開花に好適な日長について検討して、その好適な日長条件下で行っていたら、異なった結果が出ただろうな、と個人的には思います。前述の通り、以上は花付きが良かった品種での結果であり、同じ環境下におかれた他の品種では、全く花が咲かないこともあったようです。同様の実験が海外でも行われていて、異なる結果もあったそうですが、これについても品種などの違いによるのだろうと考察されていました(海外の原著も紹介できればいいのですが、割愛させていただきます)。
花の品質を保つために、エチレンの作用を阻害するSTS(silver thiosulfate complex;チオ硫酸銀錯塩[チオスルファト銀錯塩])や、植物体内でのエチレンの生合成を阻害するAOA(aminooxyacetic acid;アミノオキシ酢酸)を処理した実験があります。これによると、ニューギニア・インパチェンスにエチレンを処理すると花冠が落花したそうですが、エチレンの濃度が濃く、処理時間が長いほど落花率が高くなったそうです。データを見る限り、処理濃度よりも処理時間の方が強く影響しているように思えました。STSやAOAを前処理した植物体を、出荷を模倣した条件下に置いた場合、花冠の落花率は、最大で20%未満まで減らすことが出来たそうですが、完全に抑制する(落花率を0%にする)ことは出来なかったそうです。このことから、ニューギニア・インパチェンスは、温度、暗黒、出荷期間等、エチレン以外の要因が元となるストレスに極端に弱いのではないかと推察されています。なお、STSやAOAの処理濃度が高いほど落花率は低かったそうですが、4mM以上の濃度では植物体に障害が認められたそうです。また、STSやAOAを前処理した後に外生エチレンを処理した場合、STSでは落花を完全に抑制したのに対し、AOAは落花を抑制できなかったそうです。この原因については特に考察されていませんでしたが、エチレンの作用を抑制するか(STS)、生合成を抑制するか(AOA)の差だと思います。ともあれ、AOAも出荷時の悪影響を抑制するのに効果があることが示されたとのことです。
ニューギニア・インパチェンスの花色や葉色に関する嗜好について、アメリカのペンシルバニア州で行われた調査がありますが、掻い摘んで説明させていただくと、特に好まれた色は、単色では、赤紫(red-violet)と赤、好き嫌いが分かれたのはラベンダー色、誰にでも好まれたのは濃いピンク、人気がながったのはピンクとバラ色(?:原文はBlushなので、乳白色の被りかもしれません)だったそうです。また、バイカラー(二色)の花は、単色の花より好まれたそうです。葉の色に関しては、赤みがかった緑色や赤(?:原文はred upper and lower)が好まれ、単色の緑は人気がなかったそうです。花と葉の色の組合せがどのように嗜好に影響するのかも検討の余地があるとのことです。
追記(2007.2.27) ピンボケだった花の写真を差し替えて、葉の写真を追加しました。学名の解説を改訂しました。
本棚以外の参考文献
園芸学会編.園芸学用語集・作物名編.養賢堂.2005年.
大村広好訳.国際植物命名規約(東京規約)1994.津村研究所.1997年. (「国際植物命名規約」は6年に1回改訂され、2004年9月の時点での最新版は、2000年に採択された「セントルイス規約」で、日本語版は2003年に発刊されましたが、入手できませんでした。→日本植物分類学会)
Arisumi, T. et al. The New Guinea impatiens. HortScience. 11: 2. 1976.
Arisumi, T. Chromosome numbers and comparative breeding behavior of certain Impatiens from Africa, India, and New Guinea. Journal of the American Society for Horticultural Science. 105: 99-102. 1980.
塚本洋太郎監修.原色花卉園芸大事典.養賢堂.1984年.
山内高弘.ニューギニア・インパチエンスの生育開花に及ぼす温度と日長の影響.愛知県農業総合試験場研究報告.第23巻:213−218ページ.1991年.
Dostal, D. L. Ethylene, simulated shipping, STS, and AOA affect corolla abscission of New Guinea Impatiens. Hortscience. 26: 47-49. 1991.
Berghage, R. D. et al. Consumer color preference in New Guinea Impatiens. HortTechnology. 10: 206-208. 2000.
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