メモ | ベゴニア属の説明はこちらをご覧下さい。 種小名の semperflorens は「四季咲きの」を意味しますが、和名と、英名の Perpetual Begonia(perpetual は「四季咲きの」や「四季咲きの植物」の意)も同じ理由で付けられたものと思われます。 ブラジル原産の B. cucullata var. hookeri(=B. semperflorens)と近縁の B. schmidtiana、B. fuchsioides、B. gracilis、B. minor、B. roezlii を交雑させて出来たそうです。
上記の学名は、「The New RHS Dictionary of Gardening」を参考にしました。種小名がイタリックになっていない方については説明がありませんでしたが、センパフローレンス-カルトルムは複数の種が交配して出来た交雑種であり、交雑親(原種)が多少異なっても近縁の交雑種をまとめて「センパフローレンス-カルトルム」と呼ぶべきであり、特定の種小名は付けられない、と言う理由から学名扱いされていないのかもしれません。しかし、本当のことは不明で、これはあくまでも私の個人的な解釈です。なお、「園芸学用語集・作物名編」によると、「B. Semperflorens-Cultorum Group」と言う場合は、「国際栽培植物命名規約」に従った品種群名を表すそうです。 B. semperflorens と言う種もあるようですが、こちらは同書によると B. cucullata var. hookeri の異名とされています。おそらく、B. cucullata var. hookeri(=B. semperflorens)が原種で、これをもとに交雑させて出来たものが B. × semperflorens-cultorum として区別されているものと思われます。原種と交雑種が厳密に区別されているかどうか分からないので、ここのページでは、両方について解説させていただきます。参考までに、資料の中には、原種の異名(B. semperflorens)や、交雑種と言うことを表しているのか B. × semperflorens を用いている物もあります。
「最新園芸大辞典」(誠文堂新光社)によると、ベゴニア・センパフローレンスの種類としては、以下のものがあるそうです。
- 種子繁殖系統
- 1.センパフローレンス群
- 原種のセンパフローレンスを改良したもので、2倍体。花や葉が大きい。
- 2.グラキリス群
- フランスで、1898年に交雑して育成された B. gracilis を交配親とした品種群で、4倍体。矮性。
- 3.ヘテローシス群
- センパフローレンスとグラキリスが交配して出来たもので、3倍体。そのため不稔性。1910年頃ドイツのベナリー社が育成。丈夫で花が多く着き、悪条件下でも栽培しやすい。花壇用として重要な種類。
- 栄養繁殖系統
- 1.カラー・リリー・ベゴニア(Calla Lily Begonia)
- 斑入り葉のセンパフローレンスタイプの品種。
- 2.八重咲き種
- 雄花の葯が弁化したもので、完全八重、半八重のタイプがある。
栽培ですが、種から育てる場合、播種は一年を通して可能ですが、発芽適温は20〜27℃、生育適温は23〜18℃で、温度が高かったり低かったりすると管理が大変なので、春や秋に行うと良いようです。種子は非常に小さいので(30000粒/1g)、播種の際は覆土しません。この時の水遣りは、鉢や育苗箱などの底から吸水させるようにします。ベゴニアの中では強光に強く、日当たりの良い場所を好むそうですが、夏は直射日光が当たらないようにして暑くなり過ぎないようにします。5℃くらいまでの低温なら耐えることが出来るらしく、室内で栽培すれば、宿根草として扱えるそうです。 種子による繁殖の他、挿し芽もできますが、夏は避けると良いそうです。 なお、センパフローレンスは、英国王立園芸協会による栽培上の分類では、繊根性に分類されています。
9時間、あるいは、13時間の日長条件下で栽培して成長を比較した研究がありますが、草丈、葉柄長、乾物重、葉面積など、調査した項目のほとんどに、日長処理による大きな差はほとんど認められなかったようです(論文のアブストラクトには主茎の長さと葉柄長が13時間で長かったと書いてありますが、結果の表を見る限り、処理期間中の5回の調査のうち、有意差が出たのは一時的なものでした)。もっとも、日長時間の差が4時間と短かったり、栽植密度が1平方メートル当たり193株(これは、実際の栽培密度を換算した値)とかなり高かったことが、少なからず結果に影響を及ぼしているように、私は思いますが。
雌雄異花で雄花・雌花があります。二出集散花序が形成されますが、雄花は下位節、雌花は最上位節に着くそうです。雄花には、2枚の小さな内花被片と2枚の大きな外花被片があります。雌花には3枚の小さな内花被片と、萼片に相当する2枚の大きな外花被片があります。雄蕊の一部が雌蕊化することがありますが、これは、劣性の遺伝子によって発現するそうです。 ‘紅玉’と‘かざり錦’という品種を時期(3、5、7、9月)を変えて挿し芽して、成長と花序の発育の季節による変化を調べた研究があります。これによると、成長速度は夏に速かったそうです。花序の発達次数と分岐の回数は外的・内的要因によって変動したそうです。発達次数は夏に高く、変動パターンから、温度が最も影響していると考えられたそうです。分岐の回数は、株の発育が良く、光合成産物の競合が少なくなるような状態で多くなったそうです。
落花に関して、花に様々な植物成長調節物質などを処理した実験があります。この実験では、ベゴニア・センパフローレンスで特徴的な結果が示されています。NAA(naphthalene acetic acid;α-ナフタレン酢酸。合成オーキシンの一種)を施与すると、デルフィニウムやブーバルジア等多くの植物では落花が促進されたそうです。これは、NAAを処理したことで落花を促進させる内生エチレンの量が増えたことによります。ところが、ベゴニア・センパフローレンスでは、NAA処理で内生エチレンの量が増えたものの、落花はむしろ抑制されたそうです。これについては、オーキシンに対する感受性が他の植物と異なることによるものと考察されています。また、エチレンの作用を阻害するSTS(silver thiosulfate complex;チオ硫酸銀錯塩[チオスルファト銀錯塩])を処理した場合は、他の植物と同様に落花が抑制されたとのことです。
葉は左右対称でなく、これが花言葉の由来になっているそうです。通常赤みを帯びています。‘F1 Ambra Scarlet’と‘F1 Ambra Pink’と言う2つの品種の銅赤色の葉に含まれている色素を調べた研究によると、シアニジン3-キシロシルルチノシド(cyanidin 3-xylosylrutinoside)という色素が単離精製、構造同定されたそうです。この色素は、ヒロハカエデの主要アントシアニンでもあるそうですが、カエデ属でこの色素が含まれているのは珍しいそうです。
追記(2007.2.27.) 学名の解説を改訂しました。
追記2(2007.3.4.) 「なばなの里」で撮影した‘チョコレートガール’の写真を追加しました。
本棚以外の参考文献
園芸学会編.園芸学用語集・作物名編.養賢堂.2005年.
Hershey, D. R. et al. Influence of photoperiod on crop productivity and form of Begonia × semperflorens-cultorum grown as bedding plants. Journal of American Society for Horticultural Science. 112: 252-256. 1987.
鈴木 洋ら.ベゴニア・センパフローレンスの雄花・雌花の分化.I.花序ならびに雄花・雌花の解剖学的相互関係.育種学雑誌.第34巻:87−99.1984年.
Hayashi, T. et al. Seasonal variation in plant growth and Inflorescence composition in Begonia semperflorens. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science. 59: 627-633. 1990.
田中 宏ら.生長調節剤及びSTS処理による花き類の落花とエチレン生成との関係.玉川大学農学部研究報告.第25号:72−82.1985年.
Ji, S-B. et al. Cyanidin 3-(2G-xylosylrutinoside) from brown-red spring leaves of Acer macrophyllum and Begonia semperflorens cultivars. The Technical Bulletin of Faculty of Horticulture Chiba University.49: 13-17. 1995.
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