ヒッペアストルム属の解説は、こちらをご覧下さい。 園芸種のアマリリスは、ヒッペアストルム属のいくつかの種を交雑させて育成されたものです。 日本には、原種は江戸時代、園芸種は明治以降に入ってきたそうです。
ネット上で、アマリリスの学名を Amaryllis Hippeastrum hybridum としているのを見かけますが、これは誤りです。種(しゅ、species)という分類階級に対する学名は、植物の場合は、二名法(あるいは、二命名法)という学名の付け方のルールにより、属名と種小名(種形容語)の2語で表すことになっています。従って、Amaryllis Hippeastrum のように、属名を二つ付けることはあり得ません。
参考:国際植物命名規約(東京規約)
先にも書いた通り、「アマリリス」とは、現在栽培されている園芸雑種の総称です。育種が進んだために、多くの交雑種の原種が分からなくなったそうですが、交雑種の多くはH. vittatumに由来するそうです。1799年に、イギリスの時計工のアーサー・ジョンソンが、H. vittatumとH. reginaeを交雑させてH. × johnsoniiを育成したのが交雑種の最初だそうです。また、H. paradinumは、大輪系の育種親として重要な役割を果たしたそうです。 アマリリスが普及するようになったのは第二次世界大戦後のことで、それまで種子繁殖のため性質を固定できなかった品種を、栄養繁殖によって増殖できる技術(鱗片挿し[カッティング])が実用化されてからのことだそうです。栄養繁殖できる品種の育成は、オランダのルドウィッヒ(Ludwig)社が、世界的に有名だそうです。写真の品種は、‘ミネルバ’はオランダの品種、‘夢みたい’は、たぶん、小森谷慧氏が育成した品種だと思います。氏が育成し、品種登録されたものに、‘舞妓みたい’、‘姫君みたい’、‘天使みたい’、‘貴婦人みたい’、‘初恋みたい’と言うシリーズ(?)があるので。
温度が適当に保たれれば、一年中花芽と葉(鱗片)を形成するそうです。自然日長、8時間日長、24時間日長で花芽が分化したことから、日長は、花芽分化には影響を及ぼさないと言われています。 栽培について、球根を鉢植えした後は、水遣りをしない方がいいそうです。その期間は、4〜5日とか、芽が出るまでとか、根がない球根では植えてから半月後とか、文献によってまちまちです。 開花した後の管理も、いくつかあるようです。一つは、花が終わったら基部から花茎を切除し、成長が止まって葉が黄色くなるまでは水遣りを続けます(たいてい真夏頃まで)。それ以降は、少しずつ灌水を控えるようにし、休眠に入ったら水遣りは一切控えます。その後、再び成長が始まるまで、乾燥した場所で5〜7℃以下にならないような温度で保存します。葉が枯れた後、球根を掘り上げて同様に管理する方法もあるようです。もう一つの方法は、正反対で、凍らない場所で乾かないように管理し、越冬させるそうです。
| 実生から育てる場合、花が咲くまでに3年くらいかかるそうです。左は、種子の写真です。黒色で平らな形をしています。果実は刮ハで、弾けた状態になっています。 |
5月上旬から10月下旬にかけて行われた調査によると(供試品種は不明)、アマリリスは仮軸分枝(茎頂に花が着くことで主軸の成長が止まると、代わって側枝が発達して主軸のように成長する、という成長を繰り返す)で、一つの花芽が形成されてから次の花芽が形成されるまでに、通常4枚の葉が形成されたそうです。しかし、花芽が出来なかったり、転移する(?:正常の位置から移動したと説明があります)ことで、花芽と花芽の間の葉の数は、1〜11枚くらいの幅があったそうです。それでも、葉が4枚になるケースはおよそ72%と、他の枚数になるケース(0〜9%)に比べて、かなり高い割合だったようです。 播種してから1年経った‘Star of Holland’という品種の実生苗を、昼の温度/夜の温度を17/12℃(低温)、24/17℃(中温)、30/24℃(高温)に保った条件で2年間栽培した実験によると、低温と中温では、花芽が発達して開花に至ったそうです。開花は低温で早く、花茎は中温で長かったようですが、花の色や大きさは温度による差がなかったそうです。高温では、花芽が枯死してしまったようですが、葉は成長し、鱗茎と子球の肥大に優れたそうです。
追記(2004.9.12.) ヒッペアストルム属の解説を追加したのに伴い、内容の一部をそちらに移しました。また、学名に関する記述を追記しました。
追記2(2007.12.3.) 果実と種子の写真を追加しました。
本棚以外の参考文献
大村広好訳.国際植物命名規約(東京規約)1994.津村研究所.1997年. (「国際植物命名規約」は6年に1回改訂され、2004年9月の時点での最新版は、2000年に採択された「セントルイス規約」で、日本語版は2003年に発刊されましたが、入手できませんでした。→日本植物分類学会)
岡田正順.アマリリスの花芽分化とその発達に就いて.園芸学会雑誌.第22巻:55−58.1953年.
林 勇.アマリリスの生育と開花に関する研究(第3報).神奈川県園芸試験場研究報告.第22号:116−119.1974年.
Ijiro, Y. et al. Effect of ambient temperature on the growth and development of Amaryllis (Hippeastrum hybridum hort.) Bulbs. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science. 66: 575-579. 1997.
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