メモ | ゴンフレナ属の解説は、こちらをご覧下さい。 英名の bachelor's button は「独身者のボタン」という意味です。「花ことば」によると、若者が、ポケットにこの花を入れて恋人に会いに行き、枯れるか枯れないかで恋の行方を占ったことに因むそうです(花が枯れなかったら恋が実る、枯れたら成就しない)。この場合、花言葉は、「独身」、「恋の希望」を表すそうです。 原産地は、熱帯アメリカ(「The New RHS Dictionary of Gardening」によると、パナマ、グアテマラ)だそうですが、一部の資料でインド原産とされていることがあります。現在、他の熱帯、亜熱帯、温帯地域に帰化しているそうです。日本には、江戸時代の天和・貞享年間(1681〜1688年)に渡来し、「花壇地錦抄」(元禄7年・1694年)、「草花絵前集」(元禄12年・1699年)、「大和本草」(宝永6年・1709年)、「地錦抄附録」(享保18年・1733年)などに記録が残っているそうです。
| 一年草です。花序の中で目立っているのは小苞で、色は、白、紫、赤、桃などがあります。本当の花は、小苞に包まれています。左の写真の中央に見える物は花の一部ですが、白い糸くずのように見える物は葯で、そのまわりの一見花弁のように見える物は、癒合して筒状になった花糸です。本当の花の写真は、ゴンフレナ属のページにあります。また、他の形態的特徴についても、ゴンフレナ属のページに、キバナセンニチコウとの違いをまとめました。 |
草丈によって、50cmの高性品種(タキイのオードリシリーズ、他)と、15cmの矮性品種(サカタのタネのバディーシリーズ)に大別されるそうです。 栽培については、ゴンフレナ属のページをご覧下さい。
切り花としての利用があり、お盆には仏花に用いられます。矮性のバディーシリーズは、鉢物に向いているそうです。苞葉は、ドライフラワーにしたり、ポプリにすることが出来ます。葉や若い芽は、インド、ベトナム、インドネシア等で食用にされているそうです。また、中国では咳止めなどの薬草として利用されているそうです。他に、西アフリカでは、まじないの儀式に用いているそうです。
ウイルスの指標植物(indicator plant。あるいは、検定植物[test plant, assay plant]とも言います)として利用されています。ウイルスが感染した疑いのある植物から抽出した液(被検液)を指標植物に接種して、病徴の発現の仕方で、ウイルスに感染しているかどうかや、感染しているウイルスの種類を判断します。ウイルスの濃度と病斑の数の関係(普通、直線的な比例関係)が分かっている場合は、ウイルスを定量することも出来ますが、この方法は、局部病斑(local lesions)算定法(あるいは、局部病斑法)と呼ばれています。 センニチコウの場合、対生している一対の葉を用い、片方の葉に標準液(予め、ウイルスの種類や濃度が分かっている液)を接種し、もう片方の葉に被検液を接種する対葉法で検定します。ジャガイモXウイルスを検定した研究によると、2〜3日で病斑が表れること、古い葉よりも若い葉で病斑が表れやすいこと、開花直前で4対の葉が十分に大きくなった植物体で最も良い結果が得られること(一般には、2〜3対の植物体を用いるようです)、等が分かったそうです。 なお、センニチコウを指標植物とした場合、ジャガイモXウイルス(リングスポット系)を接種した場合は、接種葉に病斑が出るそうですが、タバコモザイクウイルス(普通系)を接種した場合は、接種葉に病斑が出来る他、全身感染してモザイク状の病斑が表れ、キュウリモザイクウイルス(普通系)を接種した場合は、接種葉に病斑が表れないそうですが、全身感染してモザイク状の病斑が表れるそうです。
全草を乾燥させ、砕いてエタノールで抽出した成分には、アブラナ科植物の主要害虫であるコナガの幼虫による被害を減少させる効果があるそうです。インドネシアでの実験ですが、0.5%に調整した抽出物をキャベツに散布したところ、幼虫の密度(植物1株当たりの幼虫の数)や、幼虫に群生される植物の割合を減少させ、被害を抑えることが出来たそうです。また、これによって、キャベツの収量が、質的にも量的にも向上したそうです。また、インドネシアで使用されている Decis という合成ピレスノイド系殺虫剤の一種(デルタメトリン)と効果を比較したところ、センニチコウ抽出物の方が効果があったそうです。ただし、センニチコウ抽出物の濃度が0.75%の場合は、キャベツに対しても薬害が認められたそうです。 センニチコウ抽出物は、全ての害虫に対して有効というわけではなく、コナガとは別のアブラナ科植物の害虫であるケブカノメイガに対しては、幼虫に群生される植物の割合を減少させたものの、Decis ほどの効果はなかったそうです(データを見る限り、有意差はないようですが)。 なお、キバナセンニチコウに含まれている植物エクジステロイドは、センニチコウでは検出されなかったそうです。
花序に含まれている色素はベタシアニンで、ベタニン、アマランシン(amaranthin)、ゴンフレニン(gomphrenin)などが検出されているそうです。中でも主要な物はゴンフレニンで、ゴンフレニンI, II, IIIとそれらの異性体(イソゴンフレニン[isogomphrenin] I, II, III)があるそうです。このうち、ゴンフレニンII とゴンフレニンIII は、ゴンフレニンI がアシル化したものだそうです。ヒユ科植物に含まれるベタシアニンについて調査した研究がありますが、それによると、センニチコウの花序に含まれているベタシアニンの量は、調査されたヒユ科植物の中では、スギモリゲイトウ(Amaranthus cruentus)に次いで多く、新鮮重1g当たり1.30mg含まれているそうです(ただし、ベタシアニン含量を測定した個体の数は少なかったようですし、ベタシアニンの生合成は、日光や温度などの影響を受けるそうなので、これが平均的な値とは限らないかもしれません)。
C4光合成植物の一種だそうです。C4光合成植物では、葉肉細胞と維管束鞘細胞という2種類の細胞に、光合成に関連する代謝経路がまたがっています。葉肉細胞では、大気中の二酸化炭素(CO2)の固定が行われ、最終的にアスパラギン酸かリンゴ酸に代謝されます。維管束鞘細胞では、原形質連絡によって葉肉細胞から移動したアスパラギン酸やリンゴ酸が、トランスロケーター(特異的担体)によって葉緑体かミトコンドリア内に取り込まれ、脱炭酸されます。C4光合成植物は、この脱炭酸反応に関わる酵素によって以下の3つのサブタイプに大別されます。 1.NADPリンゴ酸酵素(NADP-malic enzyme; NADP-ME)型 葉肉細胞での最終産物はリンゴ酸、維管束鞘細胞での脱炭酸反応は葉緑体内で行われる。 2.NADリンゴ酸酵素(NAD-malic enzyme; NAD-ME)型 葉肉細胞での最終産物はアスパラギン酸、維管束鞘細胞での脱炭酸反応はミトコンドリア内。 3.PEPカルボキシキナーゼ(phosphopyruvate carboxykinase; PCK)型 葉肉細胞での最終産物はアスパラギン酸、維管束鞘細胞での脱炭酸反応はミトコンドリア内。
センニチコウは、NADP-ME型と NAD-ME型の中間型で、NAD-ME より NADP-ME の方が活性レベルが高いものの、他の植物と比べてその差は小さいそうです。 センニチコウの葉の構造について、内部構造は、維管束の周りに維管束鞘細胞が発達し、これを囲むように葉肉細胞が放射状に配列するという、C4植物の典型的な構造になっているそうです。このような構造は、クランツ型(Kranz)葉構造と呼ばれているそうです。また、気孔は、一般のC3植物より分布数が少なく、葉の裏面より表面に多く分布しているそうです。 自然大気CO2濃度(360ppm)条件下では、光合成の最適温度は28〜38℃と高く、光飽和点は真夏の強光条件と同程度に高い(測定値は、1300μmol/m2/s)そうです。
本棚以外の参考文献
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