属名は、17世紀のチェコスロバキアの宣教師であり、東洋の植物調査に貢献したゲオルグ・ジョセフ・カメル(G. J. Kamell)の名前に因みますが、カメル自身は、ツバキ属とは何の関連もないそうです。原産は日本です。 和名のツバキの語源はいろいろあるようですが、「厚葉木(あつばぎ)」の「あ」が省略されたという説と、「津葉木」の意味で葉につやがあることによるという説などが有力だそうです。 漢字の「椿」は日本で作られたもので、花が春に咲くことに因みます。中国で「椿」はニワウルシのことを指し、中国でのツバキの漢字による表記は「山茶(あるいは紅山茶)」です。
日本でツバキの栽培が始まったのは、奈良時代にまで遡り、観賞が盛んになったのは室町時代末だそうです。多くの園芸品種が作られるようになったのは江戸時代になってからです。ツバキの系統には、現代ツバキの主流となっている「江戸ツバキ」、関西を中心とした「京ツバキ」、熊本で発達した「肥後ツバキ」、北陸地方に分布している「ユキツバキ」などがあります。品種は、日本に現存する品種だけでも2000品種以上あると言われていますが、それらは、枝変わりによって生じたそうです。また、染色体の基本数はn=15で、ツバキは2n=30、他のツバキ属の中には、4、5、6、8倍体があり、染色体の異なる種間でも容易に雑種が出来ることが、品種が多いことの一因でもあるようです。 海外でも栽培が盛んですが、ツバキを最初にヨーロッパに紹介したのは、1690〜92年に日本の植物を調査したエンゲルベルト・ケンペルといわれ、1712年に出版した「廻国奇観」という本の中にツバキの絵と植物学的記述を載せたそうです。また、スコットランド人のジェームズ・カニンガムは、1700年にツバキの標本を中国から本国に送ったそうです。
ツバキとサザンカの区別ですが、ツバキは葯や花弁が基部で合着しているのに対して、サザンカは花弁が合着していません。このため、花が散る時は、ツバキは花が丸ごと落ちるのに対し、サザンカは花びらが一枚一枚落ちます。また、サザンカの葉柄と中肋、子房の表面には短い毛があるのに対して、ツバキには毛がないことからも区別できるそうです。
ツバキが花の首のところから花ごと落ちることを、首切りに見立てて縁起が悪いとした時代もありましたが、これは江戸時代の末期に武士の間に出来た迷信だそうです。もともとツバキは、懐妊のまじないや悪魔払いの儀式に用いられたりして、縁起の良い植物とされています。また、材質が硬いことから木刀が作られたこともあり、武勇を尊ぶ木ともされていたようです。
アレクサンドル・デュマ・フィスの小説やジュゼッペ・ヴェルディのオペラで知られる「椿姫」のマルグリット・ゴーティエは、花に香りがないツバキしか身に付けることが出来なかったとか。
本棚以外の参考文献
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