メモ | ノウゼンハレン属の解説は、こちらをご覧下さい。 種小名の「majus」について、これまで、「5月の」という意味であると説明していましたが(「最新園芸大辞典」、「原色・花卉園芸大事典」でも、同じ説明がされていますが)、改訂を機に改めて調べてみたら、以下のことが分かりました。
種小名 | 意味 | 語尾変化・男性 | 同・女性 | 同・中性 |
maius majus | 5月の | maius majus | maia maja | maium majum |
major | より大きい | major | major | majus |
種小名(形容詞)は属の性によって語尾変化しますが、Tropaeolum は中性なので、語尾変化から、「より大きい」が正しい意味になります。これまで、誤っていたことをお詫びします。 園芸上でナスタチウムと言ったら、このページで紹介している T. majus のことを指しますが、アブラナ科ナスタチウム属(Nasturtium、オランダガラシ属)のクレソン(オランダガラシ、ウォータークレス:N. officinalis)に似た辛味があることに因むと言われています。また、「英国王立園芸協会 ハーブ大百科」に依ると、ヨーロッパに渡来した当初は、クレソンに似た香りがあることから Nasturtium indicum(英名:indian cress[インディアンクレス])と名付けられたそうで、その名残とも思われます。 和名の由来は、ノウゼンハレン属の解説をご覧下さい。 原産地は、ペルー、コロンビア、ブラジルの高地で、日本には江戸時代(天保年間[1830〜1844年]か弘化年間[1844〜1848年])に、オランダから渡来したそうです。
現在の園芸品種は、主に、同属のヒメキンレンカ(T. minus)や T. peltopholum との種間交雑によって作られたそうです。また、多くないようですが、カナリークリーパーや T. moritzianum とも交雑されているようです。 非耐寒性の多年草ですが、春播きの一年草として扱うようです。矮性と蔓性のものがあるそうですが、日本では、主に、矮性の品種が栽培されているそうです。葉は円形で、互生します。花は、葉腋に一つ着くそうです。花は一重咲き、半八重咲き、八重咲きのものがあるそうです。品種によって、距があるもの(写真上段)とないもの(写真下段)があります。距があるものでは、5枚の花弁は、上2枚と下の3枚で形が異なり、下の3枚には毛状の飾りがついていますが、上の2枚にはついていません。距が無いものでは、花弁は5枚とも同じ形で、全ての花弁に毛状の飾りがついています。花に含まれている色素は、カロテノイド系の物だそうです。 繁殖は種子によりますが、不稔性の品種は挿し芽で増やすそうです。前述の通り、種子は春に播きます。移植を嫌うので、直播きすると良いそうです。日当たりと水捌けが良く、湿度が保てるようなところを好むそうです。もともと高地原産であるため、冷涼な気候を好み(適温は15〜25℃だそうです)、夏の暑さに弱く、花付きが悪くなると言われています。また、窒素を多く施肥すると過繁茂となって、やはり、花付きが悪くなるそうです。
観賞の他、ハーブとしても利用できます。葉の他、花が食用になり(エディブルフラワー[edible flower])、サラダ、スープ、アントレ、デザート、飲み物の付け合わせや材料として利用出来るそうです。また、若い果実は、ケイパーの代わりとして利用出来るそうです。
花が食用になることは先に述べた通りですが、販売する上で重要な鮮度を保持するために、適切な温度について検討した研究があります。ポリエチレンフィルム製の袋に‘Jewel Mix’という品種の花を入れて、−2.5、0、2.5、5.0、10.0、20.0℃の6段階の温度条件下において、1週間後、あるいは、2週間後に、見た目の変化を調べたそうです。その結果、0℃と2.5℃では、2週間後も十分に品質が保たれたそうです。5℃と10℃では、1週間後までなら十分に品質が保たれたそうです。−2.5℃では、1週間後までは品質が保たれたそうですが、2週間後には花弁の先端がカールして見た目の品質が悪くなったそうです。それでも、かろうじて販売できるくらいの品質が保たれたそうです。
薬効についての研究もいくつかあります。 培養した細胞は、ベンジルグルコシノレート(benzyl glucosinolate)と言う成分を生成するそうですが、この物質は加水分解されることで、ベンジルイソチオシアネート(benzyl isothiocyanate;BITC)と言う物質に変わるそうです。BITCは、ヒトの卵巣癌と肺腫瘍、ネズミの白血病と形質細胞腫(骨髄腫の一種)に対して、腫瘍の成長を抑制する効果があったそうです。 また、ナスタチウムからメチレンクロライドで抽出した成分には、トロンビンを抑制する効果があるそうです(乾物重で200グラムの材料から抽出したとのことですが、どの器官から抽出したかについては、触れられていませんでした)。詳細は省略しますが、血液に含まれて凝血に関与するトロンビンの活性を抑えれば、凝血が抑制されて、腫瘍細胞が組織に癒着したり、広がる確率を低くすることが出来ることが推察されています(この推察をした de Medeiros氏は、具体的にどのような文献から推察したのか、引用文献を記していません。この分野では常識なのでしょうか?)。このから、ポルトガル領のアゾレス諸島に生えている植物の中から、抗トロンビン活性を持つ植物を探そうとした研究の結果だそうです。調査した50種の植物の中で、ナスタチウムは98%と最も高い抗トロンビン活性があったそうです。
以下は、 de Medeiros氏の論文の考察に書いてあったことです。その考察は、他の論文から引用したことが書かれていますが、その引用論文は一部を除いて手に入らなかったので、直接の引用ではありません。ご了承下さい。 先に、BITCについて述べましたが、Binet氏によると、この物質は、ナスタチウムの‘Urogran spofa’という品種からも単離されたそうで、慢性炎症性の尿路感染症を引き起こす病原菌株に対して抗生効果があるそうです。 また、Melicharova氏によると、黄色ブドウ球菌と Candida albicans(カンジダ属の一種で、カンジダ症を引き起こす)に対して、阻害効果があるそうです(ナスタチウムの効果を調べた物なのか、BITCの効果を調べた物なのか、不明です)。 他にも、ナスタチウムから抽出したキサントキシンが、成長抑制(具体的に、何に対してかは不明です)を示したとする報告が、Alaniz氏らによってされているそうです。 Picciarelli氏の1984年と1987年の論文によると、ナスタチウムにはククルビタシンの一種が含まれているそうです。ククルビタシンは、主にウリ科植物(特に、種子と根)に含まれる苦味成分で、虫などによる食害から身を守るために含まれています。ただし、入手出来た1987年の論文の内容を確認したところ、ジベレリン酸63(GA63)がナスタチウムに含まれていることを明らかにし、その量を定量したというもので、ククルビタシンとは全く関係がありませんでした。文献の引用が不適切に思えました。
追記(2003.9.21.) メモを全文改訂、写真を差し替えました。
本棚以外の参考文献
塚本洋太郎監修.原色・花卉園芸大事典.養賢堂.1984年.
Emter, O., et al. Specific carotenoids and proteins as prerequisiters for chromoplast tubule formation. Protoplasma. 157: 128-135. 1990.(要約のみ参考)
Kelley, K. M., et al. Effect of storage temperature on the quality of edible flowers. Postharvest Biology and Technology. 27: 341-344. 2003
岩波生物学辞典・第4版第4刷.岩波書店.1998年.
Pintao, A. M., et al. In vitro and in vitro antitumor activity of benzyl isothiocyanate: A natural product from Tropaeolum majus. Planta Medica. 61: 233-236. 1995.(要約のみ参考)
de Medeiros, J. M. R., et al. Antithrombin activity of medicinal plants of the Azores. Journal of Ethnopharmacology. 72: 157-165. 2000.
Picciarelli, P., et al. Embruo-suspensor of Tropaeolum majus: Identification of gibberellin A63. Phytochemistry. 26: 329-330. 1987.
Harborne, J. B., et al. (Editors). Phytochemical Dictionary. Taylor & Francis Ltd. 1993.
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