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シレネ属


このサイトで紹介している種

レッドキャンピオン ホワイトキャンピオン フクロナデシコ  
レッドキャンピオン
dioica
ホワイトキャンピオン
alba, latifolia, pratensis
フクロナデシコ
pendula
 

ナデシコ科Caryophyllaceae
学名Silene L.
和名マンテマ属
英名campion, catchfly
分布北半球(北極〜熱帯アフリカの山)、南アフリカ、南アメリカ、地中海地方。
種数約200〜700種(資料によって異なります)
属名の性別女性

属名の由来

 ギリシア語の「sialon(唾液)」に由来し、分泌物をを含有することに因むと言われている。また、ギリシャ神話の酒の神であるバッカス(Bacchus)の養父のシレネス(Silenes)に因み、シレネ属植物が分泌物を含んでいるのをシレネスが酔って泡を吹いた様子に見立てたとも、シレネ属植物の萼筒が膨らんでいるのをシレネスの太った様に見立てたとも言われている。他にも諸説ある。
 和名の「マンテマ」は、海外から日本に入ってきたときの「マンテマン」という呼び方が変わったもので、もともとは、Agrostemmaが転訛したものが語源と考えられている。

メモ

属について
 「最新園芸大辞典」によると、ビランジ属という別名があるようですが、同書はビランジをメランドリウム属に含めていたので(Melandrium keiskei var. minus)、敢えてビランジ属という和名を付けるとしたら、シレネ属よりメランドリウム属に付けた方が良いように思いました。

 Desfeux氏らの文献によると、以前は別属として扱われていた Lychnis属(リクニス属、センノウ属)Melandrium属(メランドリウム属、フシグロ属) は、1984年に発表された Greuter氏らの文献の中で、シレネ属にまとめられたそうです(より正確には、これより前にメランドリウム属がシレネ属にまとめられて、3属をシレネ属として一つにまとめたのがGreuter氏ら、と言うことらしいです)。詳細は後述しますが、近年、Desfeux氏らの分子系統学的手法を用いた研究により、その説を支持する成果が報告されています。ここでは、新しい説に従って、リクニス属とメランドリウム属もまとめて解説します。また、Desfeux氏らの文献によると、Cucubalus属(ククバルス属、ナンバンハコベ属。ナンバンハコベ[C. baccifer L.]1種から成る単型属)もシレネ属に含まれることが明らかにされたそうです。「The Plant-Book」でも、ククバルス属がシレネ属にまとめられています。

 核のリボゾームDNAITS領域を調べたDesfeux氏らの研究によると、以下のことが明らかになったそうです。

  • かつて、メランドリウム属やリクニス属とされていた種は、それぞれ一つのクレード(clade;共通の祖先から進化した生物のグループ)としてまとまらず、シレネ属のいずれかの種と近縁だったそうです。

  • 上記の結果より、シレネ属、メランドリウム属、リクニス属の分類の基準となっていた形態的特徴(詳細は後述しますが、例えば、花柱が3本か5本か、と言ったようなこと)は、共通の祖先からの由来に基づかないことが示されたそうです。

  • 同じナデシコ科で別属のムギセンノウ(Agrostemma githagoSaponaria ocymoidesDianthus seguieri を対照として調べたところ、シレネ属とは縁が遠いことが明らかになったそうです。また、かつてアグロステンマ属やリクニス属に含まれていたスイセンノウ(S. coronaria)とウメナデシコ(S. coeli-rosa)はムギセンノウとグループを作ることはなく、シレネ属に含まれることが分かったそうですが、互いに遠縁だったそうです。(参考までに、スイセンノウはLychnidiformes節、ウメナデシコはEudianthe節に分類されているそうです)

  • ナンバンハコベ(Cucubalus baccifer)はシレネ属に含まれ、ホザキマンテマ(S. dichotoma)、シラタマソウ(S. vulgaris)、フクロナデシコ(S. pendula)と同じクレードにまとめられたそうですが、このクレードは、統計的に有意なものではなかったそうです。

 参考までに、Desfeux氏らが作った系統樹は、一部改変されていますが、松永氏の邦文の文献の中に引用されています。なお、シレネ属(リクニス属、メランドリウム属、ククバルス属を含む)は、ダイアンサス属、アグロステンマ属、サポナリア属、ギプソフィラ属などとともに、Silenoideae亜科に属しているそうです。


形態・生態・栽培など
 草本性のものには、一年生、二年生、多年生の種が存在し、他に半低木の種が存在するそうです。葉は、切れ込みがなく、対生しています。萼は筒状になっています。花弁は5枚で、雄しべは10本あります。
 リクニス属、メランドリウム属、ククバルス属を別属として扱う場合の、各属の形態的特徴等は、以下の通りです。

 シレネ属
(マンテマ属)
Silene L.
リクニス属
(センノウ属)
Lychnis L.
メランドリウム属
(フシグロ属)
Melandrium Röhling
ククバルス属
(ナンバンハコベ属)
Cucubalus L.
花柱3本5本3本か5本3本
果実刮ハ刮ハ刮ハ漿果
隔壁
(偽隔壁)
ありありない 
子房下部のみ3〜5室1室1室 
刮ハの裂片裂けている全縁  

 シレネ属は生殖システムが多様で、雌雄同株(雌雄両全株:両性花をつける)、雌性両全性異株(雌性異株:両性花をつける株と雌花のみをつける株[雌株]がある)、雌雄異株(雄花のみをつける株[雄株]と雌株がある)、三性異株(両性花をつける株、雄株、雌株がある)の種が存在することが知られているそうです。このことから、植物の性の進化を研究するためのモデルになっています。
 雌雄同株から雌性両全性異株を経て雌雄異株が進化してきたと考えられているそうです。雌雄異株は、雌性両全性異株の両性花をつける株が雌性不稔を起こした結果、雄株が生じたことで成立したそうです。実際、雌性両全性異株と雌雄異株の中間の段階(雌性両全性異株の雌雄同株の中に、雌性不稔の程度に差ある)が存在するそうです。また、雌性両全性異株の雌株が雄性不稔から回復して雌雄同株に戻る、と言うような先祖返りが起こることもあるそうです。
 シレネ属の中で雌雄異株の種は、Otites節に属する S. otitesS. pseudotitesNanosilene節に属する S. acaulis ssp. bryoidesElisanthe節に属するレッドキャンピオン(S. dioica)、ホワイトキャンピオン(S. latifolia)、S. diclinis の6種だそうです。これら3つ節は、形態的・生態的に異なるそうです。先のDesfeux氏の実験の結果、前者3種(S. otitesS. pseudotitesS. acaulis ssp. bryoides)と後者3種(レッドキャンピオン、ホワイトキャンピオン、S. diclinis)は別々のクレードにまとめられたことから、シレネ属の中では、雌雄異株は、少なくとも2回、もしかしたら3回、異なる環境の下で独立的に進化してきたことが推察されるそうです。
 先祖返りの例ですが、S. otites などを含むクレードと近縁のシロバナマンテマ(S. gallica)と、Elisanthe節と近縁のヒメシラタマソウ(S. conica)は、近縁の種が雌性両全性異株や雌雄異株である中、雌雄同株だそうです。

 哺乳類と同じように、XYの性染色体を持つことから、性染色体の進化を研究するためのモデルにもなっています。

 栽培適地は、日当たりと水捌けが良いところを好むそうです。水遣りは、乾燥したときにたっぷりやると良いそうです。実生で繁殖させますが、八重咲きで種子が作れない物については、株分けで増やすそうです。


種類など
 「The Plant-Book」とSiroky氏らの文献では約700種とされています。Siroky氏らやDesfeux氏らの文献によると、さらに44節に細分されるそうです。
 「最新園芸大辞典」では約200種、「園芸植物大事典」では約300種、「The New RHS Dictionary of Gardening」では約500種と少なくいですが、メランドリウム属やリクニス属を別属として扱っているためだと思います。ただし、これらを合計しても700種に達していないので、見積の仕方が異なるのかもしれません。
 日本の種苗会社から販売されている種()や和名が付いている種等を以下に挙げます。なお、和名は、主として「最新園芸大辞典」を参考としましたが、他の図鑑と異なることがありました。

・コケマンテマ(S. acaulis (L.) Jacq.
・エジプトマンテマ(S. aegyptiaca L.
S. alba (Mill.) E. H. L. KrauseS. latifoliaの異名)
ユキマンテマ(S. alpestris Jacq.
・ムシトリマンテマ(S. antirrhina L.
ムシトリナデシコ(別名:ハエトリナデシコ;S. armeria L.
・ヒロハムシトリナデシコ(S. asterias Griseb.
ウメナデシコ(S. coeli-rosa (L.) Godron.
S. colorata Poirot
ヒメシラタマソウ(S. conica L.
・オオシラタマソウ(S. conoidea L.
・スイセンノウ(別名:フランネルソウ;S. coronaria (L.) Clairv.
・ホザキマンテマ(S. dichotoma Ehrh.
レッドキャンピオン(S. dioica (L.) Clairv.
・フシグロ(S. firmum Sieb. et Zucc.
・エゾマンテマ(S. foliosa Maxim.
S. gallica L.
  シロバナマンテマ(var. gallica
  マンテマ(var. quinquevulnera (L.) Mert. et Koch.
・イタリーマンテマ(S. giraldii Guss.
・オオビランジ(S. keiskei Miq.)(※1
ホワイトキャンピオン(ヒロハノマンテマ、マツヨイセンノウ;S. latifolia Poirot
・ハマベマンテマ(S. maritima With.S. unifloraの異名)
・ツキミセンノウ(S. noctiflora L.
・カラフトマンテマ(S. repens Pers.
フクロナデシコ(別名:サクラマンテマ;S. pendula L.
S. pratensis (Raf.) Godron et GrenS. latifoliaの異名)
・ムシトリマンテマ(S. saxifraga L.
・ヒメサクラマンテマ(S. schafta S. Gmel. ex Hohen.
S. uniflora Roth.
・スイスマンテマ(S. vallesia L.
S. virginica L.
シラタマソウ(S. vulgaris (Moench) Garcke)※2

※1The New RHS Dictionary of Gardening」では、種小名が keiskii とされていますが、伊藤圭介氏に因んで付けられたそうなので、和製の図鑑に従いました。
※2「最新園芸大辞典」では、S. latifolia にシラタマソウという和名が当てられていましたが、ここでは「日本帰化植物圖鑑」等に従いました。


本棚以外の参考文献
  • Siroky, J., et al. Heterogeneity of rDNA distribution and genome size in Silene spp. Chromosome Research. 9: 387-393. 2001.

  • Desfeux, C., et al. Systematics of Euromediterranean Silene (Caryophyllaceae): Evidence from a phylogenetic analysis using ITS sequences. Comptes Rendus de L'Academie des Sciences Serie III Sciences de la Vie. 319: 351-358. 1996.ITS領域を調べて、シレネ属、リクニス属、メランドリウム属、ククバルス属が一つにまとめられることを実験して確かめた論文。)

  • Desfeux, C., et al. Evolution of reproductive systems in the genus Silene. Proceedings of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences. 263: 409-414. 1996.(上の論文を基に、シレネ属の性の分化について考察した抄録)

  • 松永幸大.高等植物の性決定機構.蛋白質核酸酵素.第45巻:1704〜1712ページ.2000年

  • 北村四郎ら.原色日本植物図鑑.草本編(中).保育社.1961年.

  • 長田武正.日本帰化植物圖鑑.北隆館.1972年.

  • 清水矩宏ら編著.日本帰化植物写真図鑑 Plant invader 600種.全国農村教育協会.2001年.

(2004.2.9./最新の更新:2004.2.15.)
 
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