メモ |
名前について
単にスイセンと言ったら、スイセン属全体を指しますが、狭義には、ニホンズイセン(N. tazetta var. chinensis)のことを指すそうです。 属名の由来は前述の通りですが、水面に映った自分の姿に恋をして憔悴して死んでしまったナルキッソスが姿を変えたというギリシャ神話に由来する、という説の方が有名かもしれません。narcissism(自己愛)やnarcissist(自己愛者)の語源や花言葉もこの神話に因みます。
来歴など
2000〜3000年前のエジプトではフサザキスイセンが死者に手向けられていたそうで、墓の中に一緒に埋葬されていることがあるそうです。また、ホメロス(紀元前8世紀)やソフォクレス(B.C.496〜B.C.406)等は詩や散文詩に書いたり、テオフラストス(B.C.373頃〜B.C.287頃)はフサザキスイセンやクチベニスイセンに関する記述を紀元前約320年頃に残したそうです。また、名前の由来が麻酔性のニオイに因むと主張したのは、ローマの大プリニウス(AD23〜79年)だそうです。ナルキッソスの伝説は、ローマの詩人・オウィディウス(B.C.43〜A.D.18)が書いたそうです(創作したのがオウィディウスかどうかは不明)。
形態、生態、栽培など
球根(鱗茎)を持つ多年草です。葉は細長く(帯状ないし線形)、冬から夏にかけて着きます。花に芳香がある物もあります。花は単生するか、2〜20花から成る散形花序を形成します。花被片は6枚で、基部が合着して筒状になっています。ラッパ状、あるいは、カップ状の物は副花冠(副冠)です(※)。雄ずいは6本で、普通2列に配列して、花被の筒状部分に合着しています。子房は3室から成り、下位です。子房を取り囲んでいる薄い膜状の物は苞葉です。多くの種が自家不稔性で、結実のためには他家受粉する必要があるそうです。染色体数は、x=7、10、11、13、15、25だそうで、x=7、10、11が倍数体を作る基本数だそうです。
※ 副花冠とは、花冠の一部や雄しべが変形して出来たもので、花冠そのものとは異なります。花を構成する器官(萼片、花弁、雄しべ、雌しべ[心皮]。スイセンは同花被花なので、萼片に相当するのが外花被片で、花弁に相当するのが内花被片)は、もともとは葉が変形したものです。葉は、完全葉では、葉身、葉柄、托葉で構成されています(不完全葉では、いずれかが欠けている)。スイセンの雄しべに変わった葉には托葉があったと考えられていて、それが発達して癒合して副花冠になったと考えられています。
栽培に関して、原産地によって生育特性が異なり、それに合わせる必要があると思いますが、ここでは一般的なことを紹介します。繁殖は主に分球で行います。鱗茎の植え付けは、早咲きのもの(フサザキズイセンなど)は8月、その他は9〜10月に行います。深さは、鱗茎高さの1.5倍くらいが良いそうですが、軽い土ならもっと深くても良いそうです。pHは、園芸品種では特に気にしなくても大丈夫だそうですが、原種では、酸性〜中性(pH5.5〜7.0)が向いている種(N. bulbocodium, N. triandrus, N. asturiensis)や、中性〜アルカリ性(pH7.0〜8.0)が向いている種(フサザキスイセン、N. jonquilla)が存在するそうです。植え付けた後に低温に遭わせないと、成長がまばらになったり、花が発育停止することがあるそうです。日当たりが良い場所を好むそうですが、花が終わった後は強光を避けた方が良いそうです。排水の良い場所を好みますが、水を適度に与えて、乾燥させないようにします。花期は、多くは春ですが、秋咲きの種もあります。2〜3年間は植え放しにし、鱗茎を掘り上げる場合は、葉が枯れ始めた頃に行います。鱗茎はすぐに植え付けるのでなければ、冷暗所で保存します。耐寒性は、一般に強いですが、フサザキスイセンの系統は低温に弱く、対策が必要だそうです。 実生でも増やすことが出来ます。この場合、種にも依ると思いますが、播種から開花までに最短でも3年かかるそうです。採種は痩果が黄色くなり始めた時か、萎れた花が落ちた時に行い、播種は採種した直後か、遅くても秋の始めまでに行うそうです。
種類と分類
約30種としているのは、「園芸植物大事典」、「最新園芸大辞典」、「園芸植物図譜」などの和製の図鑑と「The Plant-Book」で、約50種としているのは「The New RHS Dictionary of Gardening」です。Royal Horticultural Society (RHS)のデータベースには100種が記載されていました(節に含まれていない交雑種を除く)。その他、入手できませんでしたが、Barret氏らの1996年の文献には35〜70種あるとされているそうです。一部の種を以下に挙げます。
・N. asturiensis (Jord.) Pugsl.
・N. bicolor L.
・N. bulbocodium L.
・N. cantabricus DC.
・N. cyclamineus DC.
・N. elegans (Haw.) Spach
・N. fernandesii (Haw.) Pedro.
・N. hispanicus Gouan
・N. × incomparabilis Mill.
・キズイセン(黄水仙;N. jonquilla L.)
・キブサズセン(黄房水仙;N. × odorusL.)
・クチベニズイセン(口紅水仙;N. poeticus L.)
・ラッパズイセン(N. pseudonarcissus L.)
・N. rupicola Dufour
・N. scaberulus Henriq.
・N. serotinus L.
・フサザキスイセン(房咲き水仙;N. tazetta L.)
ニホンズイセン(日本水仙;var. chinensis Roem.)
・N. triandrus L.
・N. viridiflorus Schousb.
・園芸品種(N. sp.、N. × hybridus hort.)
園芸品種の分類については、園芸品種のページをご覧下さい。 Dobson氏らの文献によると、スイセン属の分類については、系統発生の関係に関する知見が乏しく、多くの分類群のステータスや境界については、分かっていないことがあるそうです。この理由として、花卉としての栽培の歴史が長く、野生に育っているものであっても、自然の物なのか、人為的に育種された物が野生化した物なのかを確かめることが難しいこと、自然でも交雑が頻繁に起こること、倍数性であること等が挙げられるそうです。それでも、スイセン属は、交雑して出来たことがはっきりしている種を除いて、2亜属10節から構成されると考えられるそうです。スイセン属を細分したのはFernandes氏だそうで、細分の基準は、染色体の差異、形態的特徴、生態的特徴、地理的特徴だそうです。この亜属と節については、Fernandes氏自身の文献やBlanchard氏の文献に詳細が記されているようですが、オリジナルの文献を入手できなかったので、Nuñez氏らの文献で引用されていたRHSのデータベースを参考とさせていただきました。なお、下記の亜属とそれに属する節と括弧内のスペルは、Dobson氏らの文献に記載されていたものです。
- Narcissus亜属
- Hermione亜属
Serotini節
Tazettae節
- フサザキスイセン、N. aureus, N. elegans, N. patulus、他
Aurelia節(N. broussonetii)、Tapeinanthus節(N. cavanillesii)、Narcissus節(クチベニズイセン、N. radiiflorus)はどちらの亜属に属するか分かりませんでした(Narcissus節はNarcissus亜属だと思いますが)。 この他、原著は不明ですが、「花の西洋史・草本編」によると、以下の6つのグループとその他の種に分類する分類法もあるそうです。
・アジャックス・グループ(Ajax;Pseudonarcissus)
・クチベニズイセン・グループ(ポエティクス;Poeticus)
・フサザキスイセン・グループ(タゼッタ;Tazetta)
・インコンパラビリス・グループ(Incomparabilis;アジャックスとポエティクスとの中間)
・ポエタ・グループ(ポエティクスとタゼッタとの中間)
・ジョンキル・グループ(Jonquilla)
・その他(N. triandrus、N. bulbcodium など)
「花の西洋史」とNuñez氏らの文献(Coast氏の1956年の文献を引用していますが)によると、黄色のラッパ咲きの園芸品種うち99%はアジャックス・グループを親としている、と見積もられているそうです。 以上の他に、Ajax亜属を含む分類法があるらしいですが、詳細は不明です。
本棚以外の参考文献など
A. M. コーツ.花の西洋史・草本編.八坂書房.1989年.
C. M. スキナー.花の神話と伝説.八坂書房.1985年.
塚本洋太郎.原色園芸植物図鑑Vol.IV.球根編.保育社.1965年.
Dobson, H. E. M., et al. Interspecific variation in floral fragrances within the genus Narcissus (Amaryllidaceae). Biochemical Systematics and Ecology. 25: 685-706. 1997.
Nuñez, D. R., et al. The origin of cultivation and wild ancestors of daffodils (Narcissus subgenus Ajax) (Amaryllidaceae) from an analysis of early illustrations. Scientia Horticulturae. 98: 307-330. 2003.
Kington, S. The International Daffodil Register and Classified List (1998). 2003.
(2004.1.18./最新の更新:2004.1.24.)
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