◆幻獣夜話1 〜竜のはなし


■ 前口上 ■
 幻獣の代表格、「竜 - Dragon -」。  あまたの英雄や山師によって、その生体や習性・性格は数多く伝えられている が、その生物的な機構は謎に包まれている。  その機構は、山師の持ち帰った骨・鱗などの死骸の一部や、忘れ去られていた 洞穴から発見された骨から想像するしかない。  第一、竜の寿命は人間など比べようにならないほど長く、死に際してはその身 を隠すので、死骸の見付かる確率は金山を掘り当てるよりも低い。  そこで、数ある絵姿、伝え聞いた生体・習性によって、その一部を推理してみ ることにする。

■ 解剖学・推論 ■
★竜の飛行  竜は、その巨体にもかかわらず、急降下や反転など、猛禽類を思わせる自由な 飛行が可能である。 ・翼  肋骨の一部と、背中の表皮の一部が変異したものと思われる。  骨格には胸筋と背筋が接合しており、はばたき運動を行う。  羽は薄く弾力があり、表(背中側)は薄い鱗に覆われている。 ・副脳  脊髄の途中、骨盤の付近にもう一つ小さな脳を有している。  飛行における不随意運動──尾の運動により失速を防ぐ、など── を司っている。
 
・肩・鎖骨
 他の生物の比較しても、おそろしく複雑な機構を有している。
 作りは二重。 別々に腕と翼の運動が出来る。

・「竜嚢(のう)」
 竜の持つ独特の器官。
 魔力を持った石(竜石)により、とてつもなく熱い炉となっている。
 飛行に際しての浮力に必要であり、そのエネルギーは外敵への攻撃時に「竜の
息」として吐くことができる。
(ただし、竜の息を吐いた場合、浮力は低下する)
 古い竜や、魔力の強い竜ほど熱い炎を蓄えていると伝えられている。

ある勇士が、オセアナから持ち帰った竜石が1つ存在する。
 大きさは、人間の頭ほどで、心持ち細長い。
 その石にはもう熱は無いが、それは紅玉のように赤く、光に当たれば表面に不
思議な色合いを醸し出す。
 半分透き通ったその中には、白い文様がうねっていた。


★竜の頭部
 竜の知能が高いことは知られているが、その本質を知る者は少ない。
 また、竜の頭部は高い運動機能を裏付けている。
・頭蓋骨/脳

 脳容量は大きく、高度な知能を有することが可能。

 側頭部の言語野は人間以上、後頭部の視界野は鳥類以上に発達している。
 ただし、前頭葉が発達していない為、創造力に欠けており、前足が腕のように
使えるにもかかわらず、道具の使用・改良の能力に劣っている。

 両眼の焦点は、多くの肉食獣や猛禽類と同じく前方にあり、目標への距離を計
ることができる。
 これにより、上空からの狩り・攻撃も猛禽類並みの正確さを持つことが出来る。
 口は、口蓋を有し舌の筋肉も発達している。
 ものをくわえる・口に含むことはもちろんのことで、複雑な発音・発声も可能
である。
 口唇はクチバシ状になっており、飛行・補食に適している。

 両眼と口蓋の間には、長く広い鼻腔がある。
 ここは鳥類と異なるところで、竜は非常に発達した嗅覚を有している。

・顔

 戦闘時、顔面には筋肉の方向に「紋」が浮き出し、顎の皮膚が拡がって
エラ状になる。
 年が降った竜には、哺乳動物のシワと同じく「紋」が深く刻まれる。


★座す竜

 想像図。 翼のたたみ方は、再研究の余地あり。

■ 総論 ■
 竜は、その鱗と体型により蜥蜴の類いに分類されるが、複雑な身体の機構と、 発達した身体能力、知能を有している。  それは、蜥蜴の如く冷たい血を持つ類いが持つことは、不可能に近い。  よって、かの竜は、温かな血を持つ、まったく別の生物と愚考する次第である。  また、研究に際し、鳥類との類似点を多く発見したこともここに記す。  後に機会があれば、他の機構や生体について記したい。



■ あとがき ■
 「竜」の話です。  これは元々、絵と文を、つれづれとセクション用紙にかいたものです。  竜の全身像を描くときに、以外と骨格について悩みます。  「翼は、はたして、キマイラ風にくっついているのか」  「それとも、トビトカゲのように、独特の骨格を持っているのか」  「平べったい頭蓋だと、頭が良いように見えない」  ……等々。  そんな疑問点を、生物学「のようなもの」を使って頭の中を整理してみました。  後から読み返したら、ちょっと面白かったので、改めて文章と絵をかき直して まとめてみたのが、この読み物でございます。  竜については、また続きを描く予定。 ……気が向いたら。

■ おまけ ■
 ついでに、「竜」! といえば、思い出す小説や映画などを。 ★小説 ・「ゲド戦記 〜影との戦い」/R・グウィン (岩波書店)   ゲドの、竜「イエボー」の封じ込め方もさることながら、イエボーの外見の   描写や性格などが、存在感あります。 ・「ホビットの冒険」/J・R・R・トールキン (岩波少年文庫)   竜「スマウグ」の、狡猾さと残虐さは非常に印象的でした。 ・「ドラゴンになった青年」/G・ディクスン (ハヤカワ文庫)   ここに出てくる竜は、何となく微笑ましいかな。集団生活してるし。   この話、竜「ゴーバッシュ」君が、一番災難だったということで。 (なぜか「パーンの竜騎士」は未読……。) ★映画 ・「ドラゴン・スレイヤー」 (ディズニー映画)   ストーリーは、魔法使いの弟子が竜退治をするという、ありがちなもの   (でも面白かったよん)でしたが、飛んで襲ってくる竜の描写は映画界一番   では。   ただ、洞穴の中の描写はコウモリを参考にしているのか、羽根を使って壁を   つたって行く所はちょっとアレ。 ★ゲーム ・「ドラゴン・ウォーズ」 (SSI/スタークラフト)  知ってる人は知っている、ちょっと硬派なファンタジーRPG。  オセアナという島々にある数多くの都市国家は、地下に竜を飼っている。  もちろん、戦争が起きたときの最終兵器である。  深紅のクィーン・ドラゴンが、怒り狂いながらも主人公を助けなければならぬ  所は良かった。 ・「ファンタジー III - Phantasie III -」 (SSI/スタークラフト)  これまた知ってる人は知っている、ファンタジーRPG。  時空間の魔法使いクロノスの相棒の、「居眠りドラゴン」が印象的。  記憶力が良いのか、惚けたクロノスに後ろからいちいちツッコミを入れる。



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