シリーズ●検証/石原「日の丸」教育(5)

 都教委の「君が代」強制

拙速大量処分に広がる波紋


【前文】処分を前提とした事情聴取。弁護士同席の要求は一切拒否──。適正手続きすら無視して突っ走る都教委に批判の声が集まっている。

 東京都教育委員会による教職員の大量処分に、波紋が広がっている。事情聴取など手続きがずさんで、処分発令を急ぎ過ぎるからだ。

 今春の卒業式で国歌斉唱の際に起立しなかったなどとして、都教委は三月末、都立高校と都立養護学校の教職員百七十一人を戒告処分にし、定年退職後に再雇用された嘱託教員五人の契約更新を取り消した。戒告処分の教職員のうち、年度末で定年退職となる三人の新規再雇用も取り消した。

 さらに都教委は四月六日、市立小中学校と都立養護学校・ろう学校の教職員二十人を追加処分した。卒業式で国歌斉唱時に起立しなかった養護学校の教諭を減給十分の一(一カ月)としたほか、小学校七人、中学校三人、養護学校七人、ろう学校二人を、不起立やピアノ伴奏拒否、指揮拒否を理由に戒告とした。

 これで、今春の卒業式で処分された教職員は計百九十六人。六日と七日がピークの入学式で都教委通達に従わなかった教職員が数十人いるため、処分者はさらに増えるだろう。

 これほど大量処分が出るのは異例だが、嘱託教員の契約打ち切りや新規再雇用の合格取り消しも異常事態だ。定年を迎える教員の多くは、年金受給年齢までの生活を考えて再任用を希望し、例年なら大半が希望通り採用される。都教委人事部によると、今年三月末で定年退職の都立学校教員は三百二十六人。このうち二百五十三人が再任用や再雇用を申し込み、二百五十二人が選考に合格していた。「よほどのことがなければ不合格にはならない」という。

 卒業式での不起立を理由に合格が取り消されることなど、これまでに例がない。今回、再雇用が決まっていた教員の一人は、赴任先の校長との面接も済ませ、時間割編成などの問い合わせもあった。四月一日の辞令交付式直前の処分に、教員は絶句した。「立たなかっただけでこんな仕打ちをするなんてひど過ぎる。しかも調査らしい調査もしない。問答無用の姿勢は異常ですね」

 処分までのスピードも前代未聞の早さだった。事情聴取から処分決定まで、わずか二時間というケースもあった。「入学式前の見せしめとするために処分を急いだ」と関係者は指摘する。また、多くの教員が事情聴取の際に弁護士の立ち会いを求めたが、都教委は第三者の同席を一切認めなかった。

 「弁明の機会が与えられないまま処分された教職員が多数いる。弁護士の立ち会いを拒み、一方的に事情聴取を打ち切って不利益処分をするのは、手続き的にも問題がある」

 教員たちの弁護団は、都教委の姿勢をそう批判する。

 これに対して、都教委人事部職員課の藤森教悦課長は「職務内容を聞くのに第三者が介する意味が分からない。犯罪者の取り調べではないのだから弁護士が入り込む余地はないし、事情聴取をしなくても法律的に問題はない」と説明している。

 処分された教員の多くは、処分取り消しを求めて都人事委員会に審査請求した。またこれに先立って、国歌斉唱義務不存在の確認などを求める「予防訴訟」が、二百人以上の教員を原告に始まった。どちらも教職員組合とは別の有志の行動だ。

 東京都高等学校教職員組合は、強制反対を訴えているが、組織の団結を守るために「処分者を出さない」という方針を掲げる。不起立や裁判を表立って支援することはない。鈴木敏夫副委員長は「処分覚悟の抵抗だけでなく、署名や集会などで、保護者や都民の理解を進めていくことが必要だ」と訴える。

 弁護団は「裁判は本来は教職員組合が取り組むべきだが、組合が対応できなければ弁護団が引き受ける」と話している。

初出掲載(「週刊金曜日」2004年4月16日号)

=雑誌掲載時とは表記や表現など一部内容が異なります。


●写真説明(ヨコ):物々しい警備を敷いた教員の事情聴取。都教委は「弁護士の立ち会いは認めない」と繰り返した=2004年4月5日、都庁の都教委人事部フロアで


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