属名は、ラテン語の「niger(黒い)」に由来しますが、これは、種子の色が黒いことに因みます。和名のクロタネソウも、同じ由来だと思われます。 「原色牧野植物大圖鑑・続編」では、和名の漢字表記が「黒種子草」とされています。
| 英名は「Love-in-a-mist(霧の中の愛)」と「Devil-in-a-bush(茂みの中の悪魔)」ですが、なぜその様な名前が付いたのか、調べられませんでした。もしかしたら、細い葉っぱを霧や茂みに見立て、その中に咲く花か果実(左の写真)を愛や悪魔に見立てたのかもしれません。なお、英名として、Fennel Flower、Wild Fennel もありますが、「The New RHS Dictionary of Gardening」によると、これらはニゲラ属、あるいは、それぞれ N. hispanica L. と N. arvensis L. に付けられた名前のようです。 |
地中海沿岸地方原産で、南ヨーロッパ、北アフリカに自生し、日本には江戸時代の末期に渡来したと言われています。
一般に、ニゲラと言ったら、このダマスケナ種のことを指します。主な品種に、写真の‘ペルシャン・ジュエル’の他、‘ミス・ジーキル(Miss Jekyll)’や、国内で育成された‘ブルーイスタンブール’等があります。
種子は春播きも出来ますが、一般には秋播きの一年草として扱います。種子は嫌光性なので、播種の際は覆土する必要があります。発芽適温は20℃だそうです。直根性で移植を好まないので、直播きすると良いようです。適地は日当たりが良く、排水の良いところです。栽培適温は5〜25℃だそうですが、耐寒性があり、寒さに強いそうです。過湿には弱いですが、病害虫には比較的強いようです。 典型的な長日性で、短日(具体的な日長時間は不明)でも花を咲かせることが出来るそうですが、140日以上かかったそうです。赤色光で花成が誘導されやすく、遠赤色光を多く含む白熱電球や青い色の光では、花成促進にそれほど効果はなかったそうです。 福岡で、一年を通して一ヶ月ごとに播種して、無加温ハウス・自然日長条件下で栽培した実験によると、1〜5月に播種すると、播種時期が遅くなるほど開花までの日数が短く、8〜12月に播種すると、株がロゼット状になり、開花は翌年の4月以降と遅くなったそうです。また、開花までの日数が短いものでは、葉数が少なく、切り花長が短くなり、開花までの日数が長いものでは、葉数が多く、切り花長が長かったそうです(ただし、切り花長が最も長かったのは、10〜11月播種のもので、開花までの日数は、8月播種に比べたら短かったそうです)。この実験とは別に、7〜9月に播種した株に、加温(最低夜温10℃)の有無と電照(夜間4時間の暗期中断)の有無を組み合わせて栽培したところ、加温の有無に関わらず、電照した場合にロゼット化が防止され、抽台から発蕾までの期間を短縮することが出来たそうです。このことから、ロゼット化の誘導には、低温より、短日が影響を及ぼしていると考察されています。
種子に香りがありますが、これは種子に含まれているダマセニンというアルカロイドや、ニゲルエールという揮発性油によるものだそうで、香料として用いられているようです。同属の N. sativa L.(和名:セイヨウクロタネソウ、あるいは、ニオイクロタネソウ、英名:Black Cumin[ブラッククミン]、 Roman Coriander[ローマンコリアンダー])は、香辛料や消化器系に効果のある薬用として利用できるそうですが、ダマスケナをその代用として使うことは出来ないそうです。
花弁のように見える物は、萼片です(文献によっては、花被片と説明されていることもあります)。本当の花弁は、左の写真の中央に近いところにある黒っぽいもので、退化して蜜腺鱗片(蜜弁)になっていますが、八重咲きの花では、右の写真のように、蜜腺がなくなっています。八重咲きの遺伝については、優性遺伝するものと劣性遺伝するものの二つのタイプがあり、前者は蜜腺鱗片が弁化し、後者は蜜腺鱗片と雄ずいが全部弁化するそうです。これは、参考文献に書いてあったことで、オリジナルの文献(1927年発表)は手に入りませんでした。少々、腑に落ちない記述がありましたが・・・?
追記(2005.8.14.) 形態の説明に少し手を加えました。
追記(2008.8.25.) 果実の写真を追加しました。
本棚以外の参考文献
牧野富太郎.原色牧野植物大圖鑑・続編.北隆館.1983年.
Zimmer, K. Photoperiodic response of Nigella damascena. Gartenbauwissenschaft. 53: 260-262. 1988.(オリジナルの文献は手に入らず、アブストラクトのみ引用)
松井 洋ら.ニゲラの生育、開花に及ぼす播種時期、電照、加温および冷房育苗の影響.福岡県農業総合試験場研究報告.15:69−72.1996年.
A. シヴァリエ原著.世界薬用植物百科事典.誠文堂新光社.2000年.(N. sativa の和名のセイヨウクロタネソウ)
農林省熱帯農業研究センター編.熱帯の有用作物.農林統計協会.1975年.(N. sativa の和名のニオイクロタネソウ)
塚本洋太郎.原色園芸植物図鑑Vol.I.一・二年草編.保育社.1963年.
中村信一ら訳.トロール図説植物形態学ハンドブック.朝倉書店.2004年.
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